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第89話 深まる謎

 城塞都市プフレの戦いは、序盤の優勢から一転して熾烈なものとなった。


 最重要拠点であるこの城塞を死守するため、制空権の奪取に乗り出した鳥人族マフィアが戦力を惜しみなく投入してきたからだ。


 続々と空へ飛び立つ鳥人族の猛者たちが古代魔術具アイスバレットを引っさげ、飛空艇の気球部分に向けて弾幕を集中。


 思わぬ新兵器の登場に、飛空艇は次々と撃墜されていった。




 態勢を立て直そうと後方へ下がるドワーフ魔導空挺隊に代わって、プフレ上空へ展開したのがサキュバス騎士団。


 猛然と迫りくる鳥人族の猛者たちに、だが彼女たちが魅了を発動させると、間近に迫っていた男たちが方向を変え、後方に続く男たちと同士討ちを始めた。


 大混乱するプフレ上空の戦場。


 制空権がサキュバス騎士団の手に戻ったかと思われたその時、今度は地上からアイスバレット弾が大量に発射され、彼女たちは一人また一人と地上に落下していった。


「制空権を相手に渡すな!」


「ドワーフ魔導空挺隊は超高空へ展開! 敵魔導部隊への爆撃を頼む!」


「負傷者は後方治癒部隊に送れ!」


「地上部隊も敵魔導部隊に攻撃を集中!」


 刻一刻と変わりゆく戦況に、現場指揮官たちが矢継ぎ早に指示を出していく。




 一進一退の攻防が続く中、ドワーフ魔導空挺隊による急降下爆撃が続けられ、それに呼応する形で地上部隊もメテオ攻撃を集中させる。


 爆風と噴煙が渦巻き、瓦礫の山へと形を変えていく城塞都市プフレ。


 その内部へと、帝国重装騎士団とリザードマン王国の混成部隊が強行突入を開始。


 もちろん城塞内には獣人族の武闘集団が待ち受けており、そこで両者が激しく激突した。


 獣人族の猛者たちはただ屈強なだけの男ではない。


 不死王フェニックスが保有していた潤沢な古代魔術具で武装した彼らは、帝国が誇る魔導騎士や竜人族の格闘家たちをもってしても容易く勝てる相手ではなかった。


 激しい地上戦は泥沼の展開へと突入し、負傷者が次々と後方治癒部隊へ送られていった。


 もちろん最前線ではエル聖女隊が活躍し、サラを中心に重傷者をあっという間に回復させていく。


「一人でも多くの命を救うんだ! エレノア様やスザンナも全力で頼む!」



           ◇



 そして地上戦が始まってから半日が経過。


 フル回転の治癒部隊と圧倒的物量で攻め手を休めなかった帝国軍と王国軍が、ジリジリとだが確実に前線を城塞中心部へと押し上げていった。


 その最前線に立つエルが、前を行くタイガに今日何度目かの同じ質問をする。


「転移陣はまだなのか」


 するとタイガが後ろを振り返り、今日初めて違う答えを返した。


「あともう少し。この階段を登りきった先に見える砦が本部へのゲートよ」


「階段の先・・・あの砦か」


 タイガが指差したのは何の変哲もない石造りの砦。


 教えてもらわなければ素通りしてしまいそうな無個性な場所が、エルたちが目指す攻略目標だった。


 守備兵を配置していないのは、ただの欺瞞工作。


 最初に砦にたどり着いたタイガが、その扉をゆっくりと開く。


 だが何かに気づいたアレクセイが大声を上げた。


「逃げろっ!」



 ジュボッ!!



 その声と同時にタイガの身体が炎に包まれ、エルが治癒魔法をかける間もなく消し炭のように燃え尽きてしまった。


「罠かっ!」


 バリアーを展開しつつ後退するエルたちの前に、砦の中から一人の男が姿を現した。


 2メートルを遥かに超える鳥人族だが、その身体は真っ赤な炎で覆われている。


「火の鳥?」


 そんな呟きに答えるように、その鳥人族の男は自ら名乗りを上げた。


「我が名はホウオウ。父フェニックスに代わり貴様ら人類に死を与える者だ」


「フェニックスの息子だとっ!」


 その声でエルに向き直ったホウオウが、憎悪に満ちた瞳で彼女を睨みつける。


「貴様か。魔王メルクリウスと皇妃フィリアの娘は」


「・・・だったらどうする?」


「我が兄エンオウを殺した皇妃フィリア。その娘とあらば、あらゆる苦痛と辱めを与えて殺すのみ」


「皇妃フィリアがお前の兄を?」


「ひ、ひいーーっ!」


 二人の本当の娘であるソフィアは、あまりの恐怖に顔を引きつらせると、エルの背中にしがみついてガタガタ震えだした。


(安心しろソフィア。お前はこの俺が必ず守ってやるから、絶対に背中から離れるな)


(エルお姉様・・・グスッ)


 背中にソフィアの温もりを感じながら、エルは腰の剣に手を伸ばす。


 だがそれを抜くよりも早く、大人の男女がエルの前に立ちふさがった。


(ここは俺たちに任せろ)


(エル様は先へ)


(アレクセイ、レオリーネ・・・分かった)



「何だ貴様らは」


「俺の名はアレクセイ・アスター。皇妃フィリアに代わって不死鳥族を滅ぼす者だ。世界に悪を垂れ流す元凶をここで絶たせてもらう」


「貴様もアスターか・・・この光の魔族めっ!」


 怒りに満ちたホウオウが羽根を一閃すると、灼熱の溶岩流がエルたちを襲った。



【闇属性魔法・ワームホール】



 だがレオリーネが出現させた暗黒球体が炎龍を丸ごと飲み込むと、猛烈な速度でホウオウに迫った。


 だが一瞬早くホウオウが飛び立つと、彼のいた場所を暗黒球体が通過した。


 ザクッ!


 暗黒球体が砦をえぐって消滅すると、鋭利な刃物で円形に切り取られた分厚い石壁が残され、大穴の開いた砦の中には、半身だけをこの世に残して絶命した男たちが血の海に沈んでいた。


「うわぁ、こんなの食らったら誰も助からねえよ」


 レオリーネの魔法攻撃に血の気が引くエル。


 だが撃った張本人の姿はどこにもなく、上空を見上げると既にホウオウとの戦いを始めていた。


「いつの間にあんな所にっ!」


 視認すらできない遥か上空では、膨大なオーラをまとった3つの光点が猛スピードで動き回っている。


 一番大きな魔力を持つ赤い光点が、黒い光点との間で攻撃魔法の応酬を繰り広げると、その間隙を縫うように白い光点が赤い光点に接近を繰り返していた。


「これがSランク冒険者の戦いか」


 想像を絶する超バトルに唖然とするエルの背中を、シェリアが力一杯叩いた。


「さあ、私たちの仕事をしましょう」


「そうだな。行こうみんな」





 エルたちが砦に足を踏み入れると、上階に待機していたマフィアの幹部たちが続々と階段を降りてきた。


 その誰もがタイガのような屈強な肉体の持ち主であり、血の海に沈んだ仲間の亡骸を前に、血走った目をエルに向けた。


「この修道女どもを殺れっ!」


 だがカサンドラを筆頭にマリー、ユーナ、キャティーの4人がすっと前に出る。


「ここは我らにお任せを」


「・・・分かった」


 エルがソフィアを連れて後ろに下がり、スザンナたちが何重にもバリアーを展開して防御態勢を整える。


 すぐに戦闘が始まったが、2メートル近い大男たちを前に4人は全く力負けしていない。


 特にカサンドラの強さは凄まじく、数人まとめて相手をするそのパワーは、ドラゴを倒して武闘会の優勝を狙えるほどのレベルだった。


「さすが俺の師匠だ、強い・・・」


 たが上階から続々と敵の増援がやってくると、4人だけでは手に負えないため、シェリア、アリア、エミリーの3人も攻撃を開始した。


「階段を破壊しないように、敵だけを倒すのよ」


「「了解よ、シェリアちゃん」」


 アリアとエミリーが詠唱を開始すると、シェリアは高速詠唱ファイアの弾幕を張って敵の足を止める。


 やがて二人が詠唱を完了すると、アリアの作り出した火炎龍が敵を一飲みにしていった。


 一方のエミリーが風魔法でカマイタチを起こすと、敵の身体から血飛沫が舞い上がる。


 そんな3人のコンビネーションを前に、魔力を湯水のように使い続けるエミリーを、エルは心配した。


「朝からずっと戦い続けてるけど、魔力バカのシェリアたちと違ってエミリーさんは普通の人間。そろそろ休んだほうが・・・」


「大丈夫よエルくん。なぜだか知らないけど、最近の私って絶好調なの」


「そうか・・・でもあまり無理はするなよ」


 元は冒険者ギルドの受付嬢で、寄宿学校で戦闘訓練を積んで冒険者としての実力も高かったエミリー。


 魔力の強さは貴族子女の平均よりは上だったが、寄宿学校トップクラスのエレノアやスザンナには遥かに及ばなかった。


 だが今目の前にいるエミリーの魔力は、その二人を超えつつある。


「魔力の強さは生まれつきで、エミリーさんの年齢だとほとんど増えないと教わったのに・・・」


 魔力を持たなかったサラやアニーが、エルのハーピー魔法で後天的に魔力を持つことができたが、これはあくまで特殊なケース。


 魔力が日に日に強くなって、シェリアと肩を並べて平然と戦い続けるエミリーに、エルは違和感しか感じなかった。



           ◇



 幹部を全て倒し、最上階にやって来たエルたち。


 その突き当たりの壁には、重厚な扉があった。


 扉の向こう側からは何やら物音が聞こえ、敵が待ち構えているであろうその部屋のノブを、カサンドラはゆっくりと回した。


 当然ノブは回らず、扉は鍵がかかって開かない。


「離れていろ」


 全員を後ろに下げ、こん棒を力いっぱい叩きつけたカサンドラが一撃で扉をぶち破った。


 扉を失ったその部屋はタイガの言っていた通り本部へと繋がる転移陣室で、今まさに数人の幹部たちがその巨大な転移装置を叩き壊しているところだった。


「マズい!」


 そう叫んだカサンドラが、幹部たちに飛びかかる。


 だが加速した彼女を、一人の女性が軽々と抜き去っていった。



【火属性初級魔法・ファイア】



 カサンドラより速く幹部との距離を詰めたアリアは超高温の火炎弾を至近からさく裂させて死体も残らず敵を蒸発させた。


 そして転移装置を傷つけないよう、流れるような体術で次々と敵を消し去っていったのだ。


 しかし最後の一人を取り逃し、砦の監視窓から身を投げたのを確認すると、男の追跡を諦め部屋の入り口で呆然と立ち尽くすシェリアに向けて叫んだ。


「転移装置が壊れてないか、早く確認をお願い!」


「わ、分かったわアリア姉様・・・」


 転移装置に飛びついたシェリアは、だが今はアリアのことで頭がいっぱいだった。


(今アリア姉様が使ったのはエルと同じオーガ流格闘術。そして使用した火炎弾は一般的な魔法ではなく、メルクリウス家の秘技の高速詠唱魔法だった)


(アリア姉様のことは親族の誰も知らないと女王陛下がおっしゃっていた。だとしたらアリア姉様は一体誰から高速詠唱魔法を教わったのか。そして誰にオーガ流格闘術を教えてもらったのか)


(姉様の雰囲気が変わったのはオーガ王国の謁見の間で突然倒れた時だったと思う。記憶喪失の姉様がそこで記憶を取り戻したのかもしれない)


(だとすると分からないのは、どうして記憶が戻ったことを私たちに隠しているのか。記憶を思い出したきっかけは何だったのか。そして姉様の正体は・・・)

 次回もお楽しみに。


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