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第88話 城塞都市プフレの戦い

 リヤド岳火口部。


 マグマだまりの噴煙が絶え間なく立ち上る活火山の内部に、鳥人族マフィアの首領・フェニックスの宮殿はあった。


 ここに居を構えてから既に数千年の月日が流れていたが、それまでの悠久の人生に比べれば彼にとって、まだ新居に等しい住まいだった。


 そんな宮殿には彼の家族が住んでおり、家長で国王のフェニックスの他は6人の妻と1人の息子だ。


 そしてこれが、現在の不死鳥族の全てだった。




 不死鳥族はその名の通り寿命というものがなく、その強靭な肉体と膨大な魔力によって太古の昔から世界の支配者だった。


 だが人類が突然変異を繰り返して妖精族、獣人族、鬼人族などの亜人種に分化し、進化と多様化が進むにつれて生存競争が激しさを増し、不死鳥族はその個体数を徐々に減らしていった。


 不死鳥族の最大の弱点は、寿命がないが故に数百年に一度しか子を成すことができず、種族としての力関係は縮まる一方だったのだ。


 もちろん個体としての強さは現代においても不死鳥族が遥かに勝るが、旺盛な繁殖力による突然変異体の出現と圧倒的な数の暴力には勝てるはずもなかった。


 こうして衰退に転じた不死鳥族は、およそ数千年前には国王フェニックスの家族を除いて全てが死滅していた。




 さて最後に残されたフェニックスとその家族は、人が立ち入れない活火山に住むようになった。


 そこでフェニックスは家族を増やすべく繁殖に務めていたが、妻を事故で失うと自分の娘を娶るしか方法が無くなった。


 その後何代にも渡って近親婚を繰り返した不死鳥族だったが、個体としての生命力が徐々に弱まり、直近生まれた世代になるとエルフの数倍程度しか寿命を持ち合わせていなかった。


 この事実に気づいたフェニックスは、不死鳥族は自分を残して既に絶滅していたと判断。


 隠遁生活を放棄して、自分たちを絶滅に追い込んだ人類に対する報復を開始した。


 その方法とは、人類社会に「悪」という名の毒を流し込み、殺人や強盗、人身売買に薬物などありとあらゆる犯罪を蔓延させて、善良な人々に地獄の苦しみを与えるという陰湿なものだった。


 その先兵となったのが「鳥人族マフィア」であり、不死鳥族から分化した他の鳥人族をまずは手懐け、そこから近親種族である犬人族や虎人族へと手を広げていき、さらには個体数の多い鬼人族へと組織を拡大していった。


 そんな彼らを従わせるために用いたのが、「不死鳥の血を飲めば永遠の命が得られる」という迷信。


 フェニックスは「自分に忠誠を誓えば、自らの血を分け与える」と世間に吹聴したのだ。


 こうして集まってきた鳥人族たちに、最初は自らの血を薄めて与えていた。


 これが「血の盃」と呼ばれるもので、だが希望者が殺到すると自らの血では賄いきれず、その辺で捕まえた獣の血で代用するようになった。


 「血の盃」などそもそも迷信であり、そんな血を飲んでも当然のように永遠の命を得ることはない。


 だがフェニックスが狡猾なのはもう一つの嘘を蔓延させたことだ。


「肉体は滅んでも、その魂は永遠のものとなる」


 つまり現世の肉体は仮身であり、死んでもすぐに蘇って何度でも新たな人生を繰り返すと。


 こうして集めた「不死の戦士」はやがて鳥人族マフィアと呼ばれるようになり、南方新大陸の亜人社会をその根幹から腐らせることに成功した。



           ◇



 そんなフェニックスの宮殿に、彼の一人息子であるホウオウが訪れた。


 このホウオウが鳥人族マフィアの現在のトップであり、フェニックスは息子を通して構成員に指示を送っていた。


「父上、魔王軍が動き出しました」


「・・・15年ぶりか。それで?」


「方法は不明ながらアニル=ヴェアレを岩山ごと崩落させ、我らは南方アルデシア平原へと至る拠点を失ってしまいました。現在は5万を超える大軍勢が我らの領土を蹂躙しています」


「岩山の崩落はおそらく魔王メルクリウスの仕業だろう。妖精族ルシウス=ウンディーネが召喚せしめし、異世界の魔族め・・・」


「ただ手下からの報告では、皇妃フィリアが妊娠して魔王は城から出ることができず、今回魔王軍を率いているのは奴らの娘らしいと」


「奴らの娘だと? まだ年端もいかぬ魔族など返り討ちにしてやれ」


「はっ。それより問題なのは、犬猿の仲であるはずの北方大陸の軍勢が魔王軍に加担していること」


「北方大陸・・・まさかランドン=アスター帝国か」


「はい。加えて脳筋の竜人族どもや妖精族まで」


「竜人族はともかく、妖精族と鬼人族が手を組むなどありえん」


「ですが、サキュバス騎士団とドワーフ空挺隊の姿を確認しました」


「そんなバカな・・・我らの策略によって亜人種どもは完全に分断したはずなのに、一体何が起きている」


「分かりません。ただこの数週間で大陸全体に大きな変化があったのは確かです」


「大きな変化・・・だがいくら北方大陸や妖精族どもが加担しようと、魔王のいない魔王軍など我らの敵ではない。奴らを返り討ちにして皇妃フィリアに殺された我が息子エンオウの仇を必ずや取ってこい」


「兄上・・・」



           ◇



 ちょうどその頃、レギウス王子率いるオーガ騎士団5000は、オルレアン王率いる魔王軍本体3万とともに快進撃を続けていた。


 鳥人族マフィアの壊滅を声高に喧伝しつつ、山狩りをするように獣人族の村落を一つ残らず攻め落としていたのだ。


 もちろん獣人族の全員がマフィア構成員という訳ではなく、その多くは家族を愛する善良な村人。


 だがマフィアを一人残らず根絶やしにするために、狂ったように襲い掛かってくる村人は構成員とみなして容赦なく処刑し、それ以外の住民たちも全員を収容キャンプに連行して、サキュバスの精神魔法で審判を下すことにした。


 一方エルは、帝国軍3000とリザードマン王国軍5000の他、エレノアが連れて来たドワーフ王国軍魔導空挺隊200機と、セシリアが連れて来たサキュバス騎士団500騎を新たに戦列に加え、タイガの情報を元にリヤド岳への最短ルートを突き進んだ。


 そして岩山の居住区を壊滅させたその3日後には、最後にして最大の関門となる城塞都市プフレの制空権を確保し、地上部隊がその城壁を射程におさめた。


「とうとうここまで来たな。タイガ、この城塞の中に転移陣があるんだな」


「そう、あたしたち幹部しか知らない秘密のゲート。それを使えば本部までひとっとびよ」


「なら俺たちはそこを目指す。行くぞ」


 聖女服に聖女のティアラを身に着けたエルが、高々と掲げた右手を城門に向けて真っすぐに振り下ろす。


「撃て!」


 その瞬間、最前列にズラリと並んだ魔導師たちが、一斉に攻撃魔法を放った。



【土属性魔法・メテオ】



 巨大な城壁の上空に幾百もの魔法陣が盛大に花を咲かせると、巨大な岩石群が上空に出現して雨のように降り注いだ。



 ズズズズズズズズズズズン・・・・



 圧倒的な質量の暴力によって、轟音とともに崩れ去っていく城壁。


 その城壁にズラリと立ち並んで矢を放たんと待ち構えていた弓兵は、射程の遥か先のエルたちに一矢報いることもなく、永年に渡って敵の侵入を防いできたプフレ城塞の城壁もろとも砂塵と消えていった。


 それでもエルは攻撃の手を緩めない。


「総員、突撃っ!」


 エルが仲間たちと共に先陣を切ると、ドラゴ宰相が突撃開始の号令をかける。


「今こそ我らリザードマン王国軍の力を見せる時ぞ。全軍、女王陛下に続けっ!」


 うおーーーっ!


 ドラゴを筆頭に身の丈2メートルを超える竜人族の猛者たちが、重戦車のごとく城塞内へと突撃する。


「帝国軍も続くぞ!」


 そしてジャンの号令一下、魔金属製の鎧に身を包んだ重装騎士団が地鳴りを響かせながら城塞都市プフレを制圧せんとその後に続いた。


 上空ではサキュバス騎士団が編隊を組んで、鳥人族の襲撃を警戒し、城塞都市の上空では熱気球で飛行する魔導空挺隊がエクスプロージョンによる絨毯爆撃を開始した。


 自らの足で駆けているエルたちの一団を軍馬の騎士団が抜き去っていくが、今作戦でのエルたちの役割は序盤はあくまで治癒師であり、途中からは帝国軍本体と別れて少数精鋭でマフィア本部に突撃する特殊部隊である。


 そのためゲシェフトライヒ修道院で最高の治癒師であるサラと、寄宿学校の生徒のエレノア、スザンナ、エミリー、キャティーの4人は修道服を、マリー、ベッキー、ユーナの3人は聖騎士の鎧を、強力な治癒魔法が使えるソフィアとアリアもエルたちの予備の修道服に袖を通して「エル聖女隊」を結成していた。


 この聖女隊の活躍によって、ここまでの戦いで自軍に出た戦死者はほとんどおらず、高い士気を維持したまま狂信者たちとの戦いに勝ち続けてきた。


 そして今、圧倒的優勢でその戦いは幕を開けた。

 次回もお楽しみに。


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