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第87話 脱出

「理屈はよく分からんが、二人でカタストロフィー・フォトンを使えたことは大成果だ」


 満面の笑みでガッツポーズをするエルと、嬉しさ半分悔しさ半分といった複雑な表情のソフィア。


 そんな二人を労ったアレクセイは、今度は自分の妻に話しかける。


「レオリーネ。ここにいる全員をワープで飛ばすとしたら、どれぐらいの距離を跳躍できる」


 そう尋ねられたレオリーネは、みんなの顔を順に見渡したあと事も無げに答えた。


「見通しのいい場所で400、岩盤を突破するなら200メートルってところかしら」


「これだけの人数を400って、ラヴィよりすげえ」


 エルが驚きの表情を見せるが、レオリーネはクスクスと笑った。


「エルフと言ってもラヴィちゃんはまだ小さいし、わたくしはエルフの名門貴族家の当主でしたもの」


「そう言えばこの人、サキュバス王国の王妃の姉ちゃんでもあったか・・・」


 妖精族の中で最も強い魔力を誇るエルフ。その名門貴族家当主の彼女が強力な魔力を持っているのは当たり前の話だ。


 そんな彼女の夫が、少し思案した末にここからの作戦を口にした。


「ならこうしよう。シェリアとアリアを守りつつ全員で居住区中央まで移動。エクスプロージョンの発動と同時にレオリーネのワープでこの場所に戻り、全速力で坑道を脱出する」


 アレクセイの作戦にシェリアも頷く。


「私もそれを考えていたわ」


 二人分の全力エクスプロージョンともなると、その破壊力は相当なものとなり、起爆までの10秒足らずでどれだけ爆心地から離れられるかが肝となる。


 もちろん爆風や熱線の直撃を避けるのは大前提で、その後発生するであろう岩山の崩落の破壊力も並大抵のものではない。


 バリアーが保たなければ、無残な死があるのみ。


 シェリアの言葉に全員が息を飲む中、エミリーがインテリに尋ねる。


「ラヴィちゃんの時みたいにハーピー魔法でブーストすれば、跳躍距離はどれだけ延びるかしら」


 シェリアのポシェットからひょっこり顔を出したインテリは、エミリーの肩に飛び乗って答えた。


「そうでんなあ・・・アニキの魔力はまだ十分残ってはりますし、全部使い切ればギリギリ岩山の裂け目まで行けるんとちゃうやろか」


「それ本当!?」


 インテリの答えに全員が驚くものの、それでもアレクセイは慎重な構えを見せる。


「ハーピー魔法の凄さはあの武闘会決勝でも十分理解したが、もし失敗したら岩山のど真ん中にワープしてしまうことになる」


 跳躍先が岩の中でも身体と一体化する訳ではなく、暗黒球体の分だけ周囲に空間が確保される。


 問題なのは周りに全く空気がないことで、風魔法を使ってかき集めようとしても何も起こらず、すぐに窒息してしまうとのこと。


 もちろん山腹の裂け目までの直線上は岩の裂け目が多い場所で、空気が存在している可能性も高い。


 それでも運任せの作戦には違いないと、アレクセイは考えたのだ。


「さっきみたいにエルくんとソフィアちゃんの魔力を合わせれば、少しは余裕が出るんじゃないかしら」


 このエミリーの提案に、今度はアレクセイも頷く。


「それができるなら試してみて損はない。だが万が一失敗した時に備えて空気の確保だけは頼むぞ」


「分かったわ!」



           ◇



 作戦が決行された。


 その居住区は広大な地下空洞内に作られた都市で、入り口となる坑道の岩陰から飛び出したエルたちは、中央部に向けて一気に走り出した。


 もちろん居住区を警備するマフィア構成員たちには侵入がバレ、エルたちを捕まえようと襲いかかって来たが、走りながら魔法の詠唱を行うシェリア、アリア、レオリーネ、エミリーの4人を守るように、他の全員が得意の武器を抜いた。


 クリストフは魔法の杖を握りしめて雷魔法で敵を迎え撃ち、エルはソフィアを庇いながら、アレクセイ、タイガの3人と剣で敵を薙ぎ払っていった。


 町の中央までのたったの数百メートル。


 だが敵は次から次へと増えていき、その全員が自らの命を捨ててでもエルたちを殺そうと襲いかかった。


「こいつら、本当に死が怖くないのか・・・」


 そんな狂気に満ちた構成員たちを突破してたどり着いた町の中心部。


 既に詠唱を終えていたシェリアとアリアが、その魔法を発動させた。


【火属性上級魔法・エクスプロージョン】

【火属性上級魔法・エクスプロージョン】


 地下空洞の天井ギリギリの場所に重なるように現れた2つの巨大魔法陣と、その中心部から生み落とされた2つの白い光点。


 禍々しいまでの凶悪な魔力を秘めた二つの光点が、まるで双子星のように互いの周りを回りながらゆっくりと地表に降下してきた。


「これがアリア姉様の・・・」


 シェリアが初めて目の当たりにする、アリアの完璧なエクスプロージョン。


「どうして今まで隠していたの・・・」


 当惑するシェリアのすぐ後では、虹色のオーラをその身にまとったエルとソフィアが手をつないで立っていた。


 そんな二人の魔力でブーストされたレオリーネのワープが、全員を暗黒球体で包み込む。


【闇属性魔法・ワープ】


 その瞬間、エルは自分の身体が遥か上空に飛ばされて行くのを感じた。




            ◇




 気がつくとそこは、最初に侵入した岩山中腹の大きな裂け目だった。


「よし、無事にここまで戻って来れたか!」


 全員の無事を確認してホッとするエルだったが、それもつかの間、地面を突き上げるような大きな地揺れに襲われた。


「今、エクスプロージョンが起爆したけど、予想外に爆発の規模が大きかったみたい。どうして・・・」


 その理由をアリアに求めたシェリアだったが、エルの頭にその答えが浮かび上がった。


「・・・まさか、ハーピー魔法でエクスプロージョンもブーストされてしまったのか」


「マズい、総員逃げろ!」


 アレクセイが叫ぶと、全員その場から駆け出した。


 地揺れは全く治まる様子を見せず、少しでも油断すると足を踏み外して坂を転げ落ちそうになる。


 そんな仲間たちの殿を務めるエルが後ろを振り返ると、頂上付近からは巨大な岩石群が勢いをつけて転がり出し、さっきまでいた岩山の裂け目からは大量の噴煙が空へと舞い上がっていた。


「本格的に山が崩れ始めた! みんな急げ!」


 エルが大声で前方の仲間に叫んだものの、山の崩落の速度が想像以上に速く、地割れがエルたちのすぐ後方まで迫ってきた。

 

「うわ、落ちるっ!」


 そしてあっという間にエルの足下が崩れると、前を走るソフィアもろとも崩落に巻き込まれてしまった。


「きゃーーーーっ!」


 咄嗟にソフィアの腕を掴んだエルだったが、奈落の底へと落ちていく二人。


 その時、


「エルくん、私の手を!」


 目の前には同じく落下していくエミリーが、エルに手を差しのべていた。


 もう一方の手でエミリーの腕を掴んだエル。


 するとエミリーは【風魔法ウィンド】を下に向かって放ち、大空へと一気に舞い上がった。


「助かったのか・・・。ありがとうエミリーさん!」


 上空でエミリーの背中にしがみついたエルが礼を言うと、右手で引っ張り上げたソフィアも泣きながら感謝していた。


「ありがとう、エミリーさん・・・エル・・・さん」


「お! 初めて俺の名前を呼んでくれたなソフィア」


「グスッ、グスッ・・・うわあぁぁん!」


 本格的に泣き出してしまったソフィアの頭を、エミリーは優しく撫でた。


「エルくんもソフィアちゃんも無事でよかったわね」




 エミリーのおかげで九死に一生を得た二人。


 その眼下では、岩山を全力で駆け下りて行くシェリアたちの姿が見えた。


「エミリーさん、アイツらも助けないと!」


「そうね! でもシェリアちゃんたちは、クリストフ枢機卿のおかげで大丈夫みたい」


「・・・あれ、本当だ」


 よく見ると、地割れがシェリアたちのすぐ後ろを全く同じ速度で追いかけているように見える。


「土魔法ウォールよ。本来は岩壁を出現させて守りを固める魔法だけど、足元で発動させて地面を舗装しながら岩山を駆け下りているみたい」


「すげえ! やっぱり頭がいいなクリストフ」


「・・・でも崩落の勢い自体は止まってないから、足下が完全に崩れたらどうしようもないわね。あ、シェリアちゃんが私たちに気づいたわ」


「本当だ。息を切らせながら、俺たちにズルいと文句言ってるぞ」


「うふふ、本当ね。かわいそうだし、やっぱり助けに行きましょうか」


「そうだな。待ってろシェリア、今行くぞーっ!」



           ◇



 こうしてエルたちの作戦は終わった。


 崩落に巻き込まれた構成員はもちろん、4か所の出入り口から逃げ出そうとした奴らは全員、エルの仲間たちの奮戦で一網打尽にした。


 結果たった一人の犠牲も出さずに、鳥人族マフィアが大陸全体への出入口としていた巨大施設を壊滅させることに成功したのだった。

 次回もお楽しみに。


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