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第85話 アリア

 突然倒れたアリアに駆け寄るエル。


【光属性初級魔法・キュア】


 その場にいる全員が見守る中、エルの腕に抱かれたアリアがゆっくりと目を開いた。


 焦点の定まらない目で辺りを見渡したアリアが、うわごとのようにつぶやく。


「・・・ここはオーガ王国。それにお母様の姿も」


「気がついたか、アリア!」


 光のない瞳をエルに向けてつぶやくアリア。


「・・・本当にここまで来れたんだ私・・・いいえ、お母様の説得はまだこれから・・・」


「・・・何を言ってるんだ、お前?」


 しきりにうわ言を繰り返すアリアだったが、その瞳に突然光が戻ると、彼女は慌てて立ち上がった。


「・・・え、エル様。ご、ご心配をおかけしました。わたくしならもう大丈夫です」


「おいおい、まだ無理するな。回復魔法はかけたけど頭が痛いならしばらく横になっていた方が」


「いいえ、もう大丈夫です。それに頭の方もスッキリいたしました」


「そうか、それならいいが・・・よしみんな心配かけたな。ここはもう大丈夫だから、全軍出撃だ!」


 おおおっ!


 雄叫びを上げて意気揚々と謁見の間を出発する鬼人族の王たち。


 そんな彼らに手を振って見送るエルの姿に、アリアは目に涙を浮かべていた。



           ◇



 ゴウキ王に後を任せ、王城から出撃したエルたち。


 その翌日には北方国境線を越えて、山岳地帯の奥深くへと足を進めた。


 国境より先は北へ向かうほど高度が高く、密林での狩猟を生業とする鬼人族には生活が厳しい環境。


 そのため鉱業や農業、牧畜を生業とする獣人族の集落が転々としており、そんな高地でエルたちが最初に立ち寄ったのが、街道から外れた大きな岩山だった。


「この洞穴の中にアジトがあるんだな、タイガ」


「ええそうよ。パッと見どこにでもある岩山だけど、大陸各地に構成員を送り込むための大規模な施設が地下に隠されているの。ここを落とせば組織にとっては大打撃よ」


 男の大切な部分を切り落とされ、すっかりお姉言葉を話すようになった虎人族の大男タイガが、身体をくねくねさせながら組織の情報をエルに売り渡す。


 それによると、ここには廃鉱山を利用した巨大な居住区と倉庫があるようで、出入口は全部で4か所。


 また通気口がいくつも通っているらしく、そこからも中に侵入することができるとのこと。


「帝国軍にここを攻めさせてもいいけど、盗賊団ヘルスケルトンのアジトみたいに崩落させれば俺たちだけでもできるんじゃないか」


「面白そうね。でもトンネル掘りよりもっといい方法があるわよ」


「どうするんだシェリア」


「地下深くでエクスプロージョンを爆発させるの」


「結局それかよ」


 シェリアの立てた作戦はこうだ。


 シェリアと少数の突撃隊でアジトのど真ん中に侵入し、そこでエクスプロージョンを炸裂させる。


 するとアジトは崩落を始めるので、突撃隊はバリアートンネルを掘りながら脱出。


 魔力を持たないマフィア構成員はその多くが生き埋めになるはずで、崩落から逃げ延びた構成員も4つの出入口を封鎖したヒューバート騎士団によって一網打尽にされる。


「いい作戦だ。それで行こう」


 次に突撃隊のメンバーだが、エルとシェリア、そして地下ダンジョンに必須の風魔法使いエミリーの3人はすぐに決まった。


「ワープ使いも確保したいが、ラヴィはまだ小さいしさすがに・・・」


「ではわたくしが参りましょう」


 そう言って立候補したのは、闇魔法使いで同じエルフ族のレオリーネだった。


 そしてアレクセイが何かを思いついたらしく、


「妻が行くなら俺も行く。それとソフィアも」


「アレクセイは歓迎するが、ソフィアはまだ14だし危険じゃないか?」


「お前もまだ16だろ、ソフィアと大して変わらん。それよりお前たちには、光属性魔法カタストロフィー・フォトンの修行をしてもらいたい」


「それって、この指輪に秘められた必殺技だろ」


 エルが左手の指輪を見せるとアレクセイは首肯し、懐に持っていたロザリオをエルに見せた。


「このロザリオはアスター大公家の家宝で、これを身に着けていればカタストロフィー・フォトンを放つことができる。皇帝の後継者が決まるまで俺が借りてるんだが」


「すると俺の指輪もあるから、二人同時に使えるということだな」


「俺が呪文を教えてやるからお前ら二人で競争しろ」


「競争か面白い。ならソフィアも来い!」


「望むところです。わたくしが先に覚えて、お兄様の指輪を絶対に取り返してみせますから」




 主要メンバーも決まりエルはクリストフに告げた。


「1km以上離れないよう念の為に付いてきてくれ」


「はい、足手まといにならないよう頑張ります」


「それからインテリ、お前もだ」


「へい、アニキ」


 声を掛けられ、ラヴィのポシェットからひょっこり顔を出したインテリが、何食わぬ顔でシェリアのポシェットへと引っ越した。


 そんなインテリに、エルがジト目を向ける。


「・・・前から気になってたんだが聞いていいか」


「なんでっしゃろ」


「お前いつも二人のポシェットに入ってるけど、何で俺の所に来ねえ」


「そらアニキがポシェットを持ってへんからですわ」


「ポシェットみたいな女々しい物、この俺様が持つわけないだろ。いいからお前はこのズタ袋に入ってろ」


 そう言ってエルは自分のズタ袋を開けてみせたが、インテリは嫌な顔をしてそれを断った。


「そん中、魔獣の肉やら内臓の匂いが染み付いてて、メチャクチャ臭いんやけど」


「臭いだと? どれどれ・・・うーん確かに臭うな。じゃあ俺のポケットに入ってろ」


 そう言ってセーラー服のスカートを指差すが、インテリはブンブンと大きく横に首を振った。


「そないな所におったら、ワイ死んでまうがな」


「はあ? なんで死ぬんだよ」


「そやかてアニキは、すぐゴツいオッサンと肉弾戦をおっ始めるし、そんな危険な輩のポケットにおったらワイなんか一瞬でミンチでっせ」


「うっ・・・」


「それにチェリーボーイのワイに、アニキのダイナマイトバディーは刺激が強すぎるんや。その点シェリアはんやラヴィはんは安心できるというか・・・」


「アホか! 相棒のくせに気持ち悪いこと言うな!」


「幼女と一緒にすんな!」


 パコッ! ボスッ!


「ぐはぁぁぁぁっ!」


 エルとシェリアに同時に叩かれたインテリは、力いっぱい地面に叩きつけられた。





「あの、エル様?」


 インテリを握りしめて説教するシェリアの後ろで、真剣な表情のアリアがエルに申し出た。


「どうしたアリア」


「わたくしも突撃隊に入れてもらえませんか」


「えっ? お前ほとんど戦闘経験がないし、スザンナやサラと一緒にヒューバート騎士団の回復役に回ってもらうつもりだったんだけど」


「こう見えて実は、エクスプロージョンが得意なんです。必ずお役に立ちますから是非エル様のお傍に!」


「攻撃魔法なんか使えたっけ、お前・・・」


 エルは不思議そうに首を傾げたが、魔力はかなり強くバリアー要員には使えそうだ。


「分かった、お前もついて来い」


 その後、残った仲間たちとヒューバート騎士団で4つの分隊を編成すると、タイガに教えられた出入口に向けて出発していった。



           ◇



 タイガに案内させ岩山を登っていくエルたち。


 山の中腹に差し掛かると、目の前に大きな裂けめが現れた。


「随分大きな穴だが、ここに飛び込めばアジトの中に入れるのか」


 どこまでも続く深い大穴を覗き込みながら、タイガに尋ねるエル。


「ここは一番大きな通気口で、居住区の近くに繋がってるの」


「よし、ここから全員で飛び降りるぞ。エミリーさんは風魔法を思い切りぶっ放してくれ」


「任せてよエルくん」


【風属性魔法・ウィンド】


 マジックバリアーを展開したエミリーが、大穴に飛び込むと同時に強力な風を噴射。


 球体バリアーに包まれたエミリーがシャボン玉のようにゆっくり降下を始めると、彼女に続いて次々と飛び降りた仲間たちも数珠つなぎの球体バリアーを形成して、大穴の底へと沈んで行った。

 次回もお楽しみに。


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