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第73話 準決勝vsレギウス戦

「ファイトッ!」


 準決勝第1試合が始まった。


 初戦同様、魔金属オリハルコン製の赤い鎧に身を包んだエルが、ボスワーフのこん棒を握りしめてレギウスと対峙する。


 そのレギウスも軽装だった初戦とは異なり、魔金属オリハルコン製の漆黒の鎧に身を包んで、魔金属製のこん棒を握りしめる。


 赤と黒、相対する二人の重騎士が同時に肉体強化魔法を唱えた。


【光属性初級魔法・エンパワー】

【無属性魔法・パワーブースト】


 駆け引き無用とばかりにその初撃から潜在能力を超える全力パワーを引き出した二人は、カサンドラを賭けた真剣勝負を始める。


 ガキーーーンッ!!!


 鏡合わせのように互いの横っ腹にこん棒を打ち込んだ二人だったが、結果エルが大きく吹っ飛ばされた。


「地力が違いすぎる。オーガ流格闘術にエンパワーまで使ったのに、やはりこの非力な女の身体では屈強なオーガに勝てないのか」


 体勢を立て直してもう一度レギウスの攻撃を真正面から受けてみたものの、その一撃を受けるたびに大きく後退させられる。


 バキッ! ガキッ! ドギャッ!


「くっ・・・やはり真正面からのパワー勝負では勝機ゼロ。ならスピード勝負を試してみるか」


 エルはこん棒を短く握ると、あえてレギウスの懐に飛び込んでコンパクトに振りぬいた。


 一撃で倒すことはできなくても、確実にヒットさせてダメージを蓄積させる。


 そんなエルの作戦を見切ったレギウスは、同じくこん棒を短く握るとエルと同じ戦法に変えてきた。


 スピード重視に切り替えた二人は、互いの攻撃が空を切り続けることとなる。


「くそっ、攻撃が全く当たらねえ・・・だがコイツの攻撃も全部避けるけどな」




 同じ格闘術を使う二人は、相手の動きを数手先まで読むことができる。


 猛烈な速度で闘技場全体を駆け巡りながら空を切り続ける二人の攻撃に、スタンドの観客は固唾を飲んで見守るしかなかった。


「凄えぜあの二人。動きが速すぎて俺っちの目がついて行かねえ」


「いや何が凄いかって、相手はランキング2位のレギウスだぞ! 俺たちのエルちゃん強すぎじゃね」


「本当だよ。ハーフエルフの美少女がオーガ流格闘術を身に着けて、本職オーガのサラブレッドと互角に打ち合ってるんだぜ。しびれるぅ!」




 そんな観客の大応援を背に受けたエルは、数十回ほどの攻防を越えたところでついにレギウスの一撃を喰らってしまった。


 ガキーーーンッ!!


「うぐうっ・・・」


 紙一重で避けたはずの攻撃がエルの甲冑の胸の部分をかすめたのだが、それだけでエルの体勢は崩れてしまうほどレギウスの一撃は重かった。


「また無駄にデカい胸が・・・邪魔だくそっ!」


 エルは自分の身体を呪いつつ、すぐに体勢を立て直してレギウスの追撃に備えるが、せっかく手に入れたチャンスにも関わらずレギウスは動かなかった。


「ならこっちから行くぞ!」


 地面を強く蹴ってレギウス間合いに飛び込んだエルは、こん棒をレギウスの土手っ腹に命中させる。


 当てるだけのコンパクトなスイングだったが、小さくうめき声を上げたレギウスの身体が少し後退する。


「初ヒット!」


 だが今ので目を覚ましたレギウスは、すぐに体勢を立て直すとエルの間合いに入ってきた。


「俺に一発食らわせるなんて、やるな妹弟子」


「ああ。俺の一撃はどうだった、兄弟子さんよ」


 こん棒が命中したのはそれっきりで、再び空の切り合いとなった二人の攻防は、さっきよりもさらに激しいものとなった。


「君がカサンドラの修行を受けてからまだ1年にも満たないはずなのに、よくここまでオーガ流格闘術を自分のものにしたな」


「お褒めいただき光栄だぜ兄弟子。これもカサンドラが本気で俺を鍛えてくれたおかげだ」


「本気で鍛えた・・・か。なあ妹弟子、若くして騎士団長に登り詰めたカサンドラが、オーガ王国でどういう存在だったか聞いているか」


「いや何も。アイツは昔のことを話さないんだ」


「そうか。カサンドラはオーガ王国史上最年少の騎士団長で、しかも女の騎士団長は彼女が初めてだった。彼女は孤高の天才であり、騎士団の中に彼女の武術指導について行ける騎士はほとんどいなかった」


「孤高の天才・・・あのカサンドラが」


「だから彼女の弟子を名乗れる者は、この世に二人しか存在しない。つまり俺と君だよ」


「たった二人・・・」


「だから彼女の修行について行けた君は、それだけで十分評価に値するんだよ」



           ◇



 激しい攻防はその後も続いた。


 空ばかり切っていた互いの攻撃は、戦いの中で何かを掴んだのか少しずつヒットするようになっており、それが壮絶な打撃戦に変わるまでに、そう時間はかからなかった。


「カサンドラを嫁にくれ!」


 ガキーーンッ!


「お前にはやらん!」


 ガキーーンッ!


「絶対に幸せにするから、頼む!」


 ガキーーンッ!


「カサンドラが嫌だと言ったんだから、俺が認める訳にはいかん!」


 ガキーーンッ!


「そこを何とか!」


 ガキーーンッ!


「なぜカサンドラにこだわる! お前も王子なら、どこぞのお姫様と結婚しろ!」


 ガキーーンッ!


「姫など興味ない! 俺は生涯カサンドラ一筋だ!」


 ガキーーンッ!


「んなこと本人に言え! 俺に言われても知らん!」


 ガキーーンッ!


「だがカサンドラはお前に忠誠を誓ってしまった。こうなったらお前を倒して無理やり結婚を認めさせるしかない。行くぞ妹弟子! うおおおおおっ!」


 ガキーーンッ! ガキーーンッ! ガキーーンッ!


「ぐわあーっ!」


 さらに一段ギアを上げたレギウスが、猛然とエルに襲い掛かる。


「うおおおおおおおおおっ」


 ガキーーンッ! ガキーーンッ! ガキーーンッ!

 ガキーーンッ! ガキーーンッ! ガキーーンッ!

 ガキーーンッ! ガキーーンッ! ガキーーンッ!


「がはーっ! う、うぐうっ・・・コイツ」


 これが愛の力なのか、防戦一方になったエルに打つ手はもうほとんど残されていなかった。


(マズい・・・俺はもう限界まで肉体強化したのに、コイツはさらに一段上を行きやがる)


(俺にはもう勝ち目はないが、カサンドラのためにもここで負けるわけにはいかん・・・)


(これだけは使いたくなかったが奥の手を出すしかない。魔力も大量に使うし賭けにもなるが仕方ないか)


 既にかなりの魔力を消費してしまったエルは、これ以上普通に戦っていても敗北への道をひた走るだけなのを理解した。


 だからここが勝負どころと決めると、レギウスから一目散に逃げながら鎧兜を脱ぎ始めた。


「何だとっ!」


 次々と収納魔術具に吸い込まれて行く甲冑に面食らったレギウスは、身軽になったエルが一気に加速したためその姿を見失う。


【光属性初級魔法・キュア】


 だが次の瞬間、レギウスは自分の背後で異国の詠唱呪文を耳にする。


 すぐに振り返ってエルに対して構えるが、たった一言の詠唱呪文で魔法を発動させたエルの身体を純白のオーラが優しく包みこんでいた。


「ウソだろ・・・」


 薄手のシャツに短パンという完全無防備なエルから一瞬目を逸らしたレギウスは、次の瞬間、自分の身体が高々と宙を舞っていることに気づく。


「がはあーーっ!」


 遅れてレギウスの脳内に、エルのこん棒が自分の土手っ腹にクリーンヒットした映像が駆け巡った。


(やられたっ! あの野郎、重い甲冑を脱ぎ捨てて、スピードに全フリしやがった)


 空中で体勢を立て直して着地に備えたレギウスは、だが既に落下地点にエルがいることを察知。


 地面にしっかり踏ん張ってこん棒を振りぬこうとするエルに対し、レギウスもあらん限りの一撃を繰り出した。


 ズガーーンッ!!


 互いの一撃が共にクリーンヒットし、猛烈な速さで逆方向に飛ばされて行く二人。


 だが落下エネルギーで倍加されたエルの一撃はレギウスをノックアウトするのに十分な強打だった。


 薄れゆく意識の中でレギウスが最後に見たものは、あばら骨を砕かれ大ダメージを負ったエルの身体が、瞬く間に治癒されていく姿だった。



           ◇



「・・・俺の負けだ」


 意識を取り戻して自力で立ち上がったレギウスは、兜を脱いでスタンドの大声援に応えるエルに握手を求めた。


 レギウスに気づいたエルは、頭をかきながらバツが悪そうに握手に応じる。


「悪かったなレギウス。どうしても負けられない戦いだったから、卑怯とは思いつつもつい女の武器を使っちまった。本当にすまん」


「え? 女の武器ってどういうことだ?」


「まさか気づいてなかったのか? お前って自分の攻撃が俺の胸や尻に当たるたびに動きが一瞬止まるんだよ。だから冒険者インナーしか着てない俺を見せればお前に隙ができるかなと」


「え・・・」


「俺もそうだからピンと来た。女に免疫ないだろ」


「・・・あ」


 さっきまでの戦いを思い出して合点がいったのか、レギウスは自嘲気味に笑った。


「くくくっ・・・この俺にそんな弱点があったとは。今まで全く気づかなかったよ」


「今さらかよ。だがそんな弱点気にする必要はない。俺たち硬派な男はみんなそうだし、男の勲章だと思ってむしろ誇れ」

 次回もお楽しみに。


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