第14話 エルの素顔
シェリアの目の前で素顔を見せたエル。
そこでシェリアが目にしたのはゴリラのような大女なんかではなく、まだあどけなさが残るものの精悍な顔だちをしたショートカットの美しい少女だった。
その宝石のようなエメラルドグリーンの大きな瞳と舶来の陶器のような真っ白い素肌からはどこか妖しげな色気が放たれ、だが顔の造形は触れるのが恐くなるほど完璧な調和を保っている。
勇猛、妖艶、清楚、およそ相容れない3つの形容がなぜか共存するアンバランスな美がそこにあった。
「綺麗・・・」
同性のシェリアですら息を飲むほどの美少女がエルの正体であり、だがこの顔のどこにシェリアが離れていく理由があるのか全く理解できなかった。
そんなエルがゆっくりと後ろを向いて髪を上げる。
すると首筋から右肩にかけて黒くておぞましい紋章が刻印されていた。それを見たシェリアは思わず叫んでしまう。
「奴隷紋っ!」
エルは再びシェリアの方に向き直ると、とても悲しそうな顔で答えた。
「そう・・・俺は奴隷なんだ」
その言葉にシェリアの胸は締め付けられた。
「奴隷って・・・誰の奴隷なのよ」
「この街有数の大商人、デニーロ商会だ」
「デニーロ商会・・・聞いたことがあるわね。エルはその商人の奴隷だったんだ・・・」
「がっかりしただろシェリア、パーティーメンバーが最下層の人間で」
だがシェリアは頭をふると、
「そんなことない! そんなことないけど、あなたのような綺麗な女の子が奴隷の身分で、しかもこうして冒険者になっているのが不思議で・・・」
「不思議?」
「こう言っちゃ悪いけど、どうしてあなたは奴隷商人に売られもせずに、今も無事でいられるの?」
「実は・・・」
そしてエルはこれまでの経緯を包み隠さずシェリアに話した。
◇
「事情は分かった。デニーロのヤツめ、私のエルによくもっ! ・・・本当は今すぐにでもエクスプロージョンで灰にしてやりたいところだけど、奴隷解放の条件は示めされてるし今は手を出さない方が得策。でも2000Gってありえない金額だわ」
「やっぱりシェリアもそう思うか。だがこの金額は俺の両親を購入した金額で間違いないらしい」
「あなたのご両親を2000Gで買った・・・」
「ああ」
それを聞いたシェリアはなぜか難しい顔をすると、しばらく黙り込んでしまった。
そしてエルに尋ねる。
「・・・ねえエル、家族のみんなもあなたと同じような顔をしているの?」
「顔? ・・・俺は母ちゃんに似ているとよく言われるし、弟たちはみんな父ちゃんに似て背が高く、青い瞳がとても綺麗だ」
「青い瞳。するとあなたのお母様が翠眼なのかしら」
「この緑の眼は俺だけで、他のみんなは青い目をしている。インテリにも聞かれたが何か変か?」
「別に変と言う訳ではないわ。ご先祖様にそういう人がいれば、家族の中で一人だけ目の色が違うことなどよくあるし」
「だよな・・・」
「でもねエル。緑色の瞳というのは、この国では特別というか別の意味合いを持っているのよ」
「別の意味合い?」
「でも私にはうまく説明できないし、一歩間違えれば首を跳ねられるような恐ろしい話なの」
「命を奪われるのか・・・何か複雑な事情でもありそうだな」
「ええ。でもあなたの場合はただの偶然だと思うし、今の話は忘れてちょうだい」
「俺はバカだしその方がよさそうだな。だがシェリアに本当のことが話せてやっとすっきりしたよ」
「私もあなたの真実が聞けて本当によかった。もちろんこの事は口が裂けても絶対に言わないからね」
「ありがとうシェリア」
こうしてエルから奴隷であることを明かされたシェリアは、その日以降も何事もなかったかのように普段通りの日常を送った。
でもエルの姿を見るたびシェリアの心臓は高鳴り、それに気づかれないよう周りに誤魔化すのが大変になったのだが・・・。
次回から新章です。お楽しみに。
このエピソードを気に入ってくださった方はブックマーク登録や評価、感想、いいねなど何かいただけると筆者の参考と励みになります!
よろしくお願いします。