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第70話 大武闘会決勝トーナメント開始

 翌日、王都中央コロシアムには5万人以上もの観衆が集まっていた。


 格闘家が最も人気の職業であるリザードマン王国だけあって、試合が始まる前から熱心な応援合戦が始まっており、そんなスタンドの8割は竜人族の男たちで埋め尽くされていた。


 残りの2割は他国から来た観光客の男女で、4年に1度の大会に興奮するスタンドのファンの熱気に呆気にとられている。


 そしてスタンド最前列には海外から招待された来賓席が設けられており、エルの仲間たちもそこに陣取っている。


 最も目立つボックス席で異彩を放つ美少女集団に、男ばかりの観客が色めき立っていたが、彼女たちを守るようにヒューバート騎士団が座っていたため、ちょっかいを掛けようとする男は皆無であった。




 やがて開会時間が訪れ、直径100メートルある円形闘技場に予選を勝ち抜いた8人の武闘家が一人ずつ登場すると、スタンドからはこれから繰り広げられる熱い戦いを期待して大歓声が上がる。


 だがそこに9人目の選手として真っ赤な鎧兜を身にまとった見たこともない女騎士が並ぶと、スタンドにどよめきが走った。


「女? まさか大会に出るつもりじゃないだろうな」


「この大武闘会に女が出るなんて聞いたこともない」


「だがセコンドという訳でもなさそうだし、選手として堂々と並んでやがる」


 そんなスタンドに向けて、ドラゴ国王が大武闘会決勝トーナメントの開会を宣言する。


「さあ4年に1度の楽しい祭の開幕だ、みんな楽しんで行ってくれ。あ~そうそう、国王である俺の一存で女騎士エルを参加させることにした。以上」


「「「はあぁぁぁぁぁ?!」」」


 スタンドの観客は口々に疑問の声を上げたが、国王の決定は絶対であり、有無を言わさずそのまま大会は始まった。


 そしてやや慌て気味の審判長から決勝トーナメントの変更が発表されると、第一試合の前にオーク戦士・オーランド(ランキング8位)とエル(ランキング9位)の試合が行われることになった。



          ◇



 武闘会の大まかなルールはこうだ。


 原則何でもありの真剣勝負だが、相手の命を奪うと即失格となる。


 またランキング上位者がその試合の競技方法や、使用できる武器や魔法を決めることができる。


 つまり試合は上位者有利のルールとなるのだが、


「使用する武器はこん棒。足での攻撃と魔法の使用は不可。直径10メートルの土俵上での力勝負とし、身体の一部が地面に付くか土俵から出ると負け」


 エルの出場によって余計な試合を組まされたオーランドが半ば切れ気味にルールを告げると、エルがすぐさま確認する。


「魔法を使うつもりはないが、魔力も一切使ってはいけないのか」


 するとオーランドの代わりに審判が説明。


「いいえ。それだと妖精族が不利になるので、魔力の使用自体は認められています。今回の試合では詠唱魔法とバリアーの攻撃的使用を禁止することにします。例えば、バリアーを広域的に展開して土俵から押し出すのは反則というように」


「なるほどそりゃ反則だな。ならバリアーは身体を守るために使ってはいいが、押し出しを防ぐための支え棒として使うのは反則ということでいいか」


「はい。その当たりはルールの趣旨に照らして、審判が都度判断します」




 エルがルール確認をしている間も、大会スタッフの手によって闘技場の真ん中に直径10メートルの土俵が準備されていく。


 土俵の両サイドにはオーランドとエルが対峙して座り、二人まで許されるセコンドとしてエルの陣営にカサンドラとサラが座った。


 そしてカサンドラが手招きすると、エルとサラに対して小声で話し始める。


「このリザードマン王国大武闘会は大陸最高峰の一つに数えられ、私も顔を知る出場者が何人もいる。初戦のオーランドもオーク族最強戦士の一人だ」


「マジかよ・・・」


「それにランキング9位のエル殿の場合、決勝までの4連戦は常に不利なルールでの戦いとなる」


「そう言われると決勝まで残れる気が全くしなくなった。まあ胸を借りるつもりで戦うさ」


「いや、やるなら優勝を目指そう」


「本気かカサンドラ」


「ああ。体格で劣るエル殿が試合に勝つにはオーガ流格闘術が必須。つまり一番怖いのが魔力の枯渇」


「それは分かるが、魔力を節約してたら満足なパワーも出ねえ」


「そのためにサラをセコンドにつけた。エル殿の代わりにキュアとヒールを使わせるために」


「そういうことか。よしサラ、俺の治癒は全てお前に任せるがいいか!」


「お任せください! エル様がどんな重傷を負われても、このサラめが命に代えて治癒します!」


「頼りにしてるぞ。それからカサンドラ、俺にこん棒を貸してくれ」


「ではボスワーフのこん棒をお使いください。エル殿には少し大きいですが、世界に二つとない一級品」


 ドワーフ職人の手による最高のこん棒を手渡されたエルは、そのズシリと重い感触に思わずバランスを崩してしまう。


 それを見た対戦相手のオーランドが、その巨体を震わせて大笑いした。


「ドワッハハハ! お前のような小さな女がこの俺に勝とうってか? どうやってドラゴに取り入ったか知らんが、一撃でブッ倒して恥をかかせてやる!」


 あからさまにバカにするオーランドだったが、それはエルに対する敵愾心というより純粋に観客の気持ちを代弁したものだ。


 大会屈指の巨体を誇るオーランドは、エルがこれまで見て来たオークの中でも一番大きく、身長は2メートル50を超えている。


 それこそサキュバス王国で会った族長オクレウスなど目ではなく、盗賊団ヘル・スケルトンの頭目ゴゼルよりもさらに一回り以上大きな身体に筋肉がぎっしり詰まっている。


 一方のエルは人間女性としては高身長の1メートル75だが、総じて大柄な竜人族の男たちの目には鎧兜を身にまとってすら2メートルにも届かないひ弱な女にしか見えない。


 しかも戦いのルールが狭い場所でのこん棒の殴り合いであれば、100人が100人エルの負けを予想するだろう。


 だがエルはボスワーフのこん棒を2、3度軽く素振りすると、できたばかりの土俵へと登った。



           ◇



「ファイトッ!」


 審判の掛け声で始まったその試合は、オーランドの一撃から始まった。


 エルの身体ほどもある巨大なこん棒をフルスイングしたオーランドは、目の前に立つ重装備の女騎士を一撃で仕留めたと確信する。


 だが轟音を伴って振り抜かれたこん棒が切り裂いたものはステップバックした女騎士の残像であり、直後に再び間合いに入った彼女も魔金属製の巨大なこん棒を力いっぱいに振りぬいた。


 バギャッ!!


 利き足の右太ももに一撃を受けたオーランドが、身体のバランスを崩してよろめく。


「何だとっ! この女速い・・・」


 だがすぐに体勢を立て直してこん棒を構えるオーランドに、今度はエルが驚く。


「嘘だろ・・・俺の渾身の攻撃が全く効いてねえ」


 最初の攻防で互いの実力を感じ取ったエルとオーランドは、その後も息をつかせぬ攻防を続けながら相手の力量を測る。


(重騎士にしては速すぎる・・・しかも一撃が重い)


(バケモノかよこのオーク。一撃でも食らえば一瞬で土俵の外に放り出されるぞ)


 土俵中央に陣取り横綱相撲を取るオーランドに対して、土俵全体を駆け巡ってヒットアンドアウェイ戦法を繰り返すエル。


 互いに決め手のないまま時間だけが過ぎていき、だがオーランドへのダメージは徐々に蓄積していった。


 そんなエル有利な展開に、最初は女だと小バカにしていた観客の応援が徐々に増えていく。


「おいおい、あの女騎士やるじゃないか。何者だよ」


「顔が見えねえから分からんが、しっぽもねえし竜人族ではないな」


「俺には分かる。今アイツが使っているのはオーガ流格闘術。セコンドもオーガだし、あの女騎士はオーガで間違いない」


「いやあの魔力は妖精族のものだろう。怪力を誇るドワーフということもあり得るが、魔力と身長の高さからエルフの可能性が最も高い」


「じゃあアイツが勝てば、エルフ女がオーク族最強のオーランドを力でねじ伏せたことになるのか」


「そいつは傑作だ! ようし俺はエルフの姉ちゃんを応援するぞ!」


 そんな観客の空気を感じとったオーランドは、


(観客もこの女の実力に気づいて応援を始めたか。俺がコイツに負けるとは思わんが、次の戦いに向けて体力を温存したい。そろそろ決めるか)


 そう考えたオーランドは、土俵中央に留まるのをやめ、エルを土俵際まで追い詰める作戦に出た。


 その巨体とリーチの長さを活かして、エルの逃げ場を塞ぎつつ一歩ずつ前に進む。


 一方、オーランドの猛攻を必死にかわすエルだったが、彼の思惑通りいよいよ後がなくなった。


 一瞬後ろを振り返ったエルに、オーランドは最速の一撃を加える。


「これで終わりだ!」


 当てることだけに集中して巨大なこん棒をコンパクトに振り抜いたオーランドは、またもや女騎士が残像だけを残して消えてしまったことに衝撃を受ける。





 オーランドを倒し切るパワーが自分にはないことを悟ったエルは、持久戦で魔力を消耗するこの状況を何とか打破したかった。


 そのため積極的に仕掛けていったものの、土俵中央から一歩も動かないオーランドに焦りを感じていた。


(くそっ! もう一か八かの賭けに出るしか・・・)


 だが先に動き出したのはオーランドの方で、土俵際へエルを追い込もうとする作戦に乗ったエルは、猛然と襲いかかる攻撃を紙一重で避けながら逆転の一撃を放つタイミングを計った。


 そしてエルの足が土俵際に触れた瞬間、思いっきり地面を蹴って宙を舞った。


 遥か足下を巨大なこん棒が通過し、目の端に映るオーランドがエルを見失っている姿が見える。


 だがそれも一瞬で、高速で回転するエルが空中で身を翻すと、天地逆さまの状態からオーランドの背中にこん棒を撃ち込んだ。


 ドギャッ!!


 回転エネルギーの全てを真芯に集中させたその必殺の一撃は、オーランドの身体を土俵外へと押し出すのに十分な威力だった。


 そんな想定外の一撃に、自分に何が起こったのか分からないままオーランドは地面へと倒れ込んだ。


 ズシーーーーンッ!


 同時に軽やかに着地したエルに駆け寄った審判が、彼女の右手を空に掲げた。


「勝者エル!」


「「「うおぉぉぉぉっ!」」」


 スタンドは大歓声に包まれ、大金星を挙げた女騎士に熱い声援が送られた。



            ◇



 カサンドラとサラの二人とハイタッチをして勝利を喜ぶエルの姿に、来賓席のシェリアたちも自分のことのように喜ぶ。


「やるじゃないエル! さすが私の弟子ね!」


「でも今のエル君の戦い方って、シェリアちゃんじゃなくカサンドラさんの弟子って感じだったけどね」


 エミリーが笑いながらそう言うと、エルの本気の戦いを初めて見たセシリアが完全に固まっていた。


「エル様って、あんなにお強かったのですか・・・」


 まさに目が点の彼女にエレノアが自慢げに話す。


「セシリア様。エル様の実力はまだまだあんなものではございません。あの方の本当の強さは、その強大な光属性魔法にあるのですから」


「あれよりもまだ強くなるなんて、まさか・・・」


 そんな二人の会話を聞いていたレオリーネは、アレクセイの耳元で囁く。


「あのエレノアって娘も、まだまだ分かってないですわね。アスター血族の本当の力を」


「ああ。いずれアイツにも教えなければならないな。アスター血族に伝承される究極の光属性破壊魔法・カタストロフィー・フォトンの詠唱呪文をな」

 次回もお楽しみに。


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