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第62話 ワガママな女たち

 セシリアを訓練場に送り出したエルは、シェリアたちを集めて作戦会議を行った。


 結果、セシリアに近づけさせないようミモレーゼを監視することに決まったのだが、他の3人が王族寝所や王宮出入口、訓練場周辺を警戒するのに対し、エルは王宮大ホールの見張りを担当したことをすぐに後悔した。


 王宮大ホールでは、社交に訪れた貴族たちを接遇するためたくさんの執事や侍女が下働きをしていたが、エルがみんなに紛れて働くふりをしていたところ、なぜか若い貴族令息たちがエルにばかり仕事を頼んで来たのだ。


「すまないキミ、フォークを床に落としてしまった。拾ってくれないか」


「・・・お前今わざと放り投げただろ。自分で拾え」


「そこのキミ。棚の荷物を取ってくれたまえ」


「・・・いや高すぎるだろこの棚。そこに台があるから自分で取れ」


「あ~キミキミ。あそこにいる侍従から書類をもらってきてくれないか。急ぎなので走って行ってくれ」


「・・・なぜ俺を走らせようとする。自分の従者なんだから大声で呼べ」


 そう、若い貴族令息たちはあの手この手でエルのスカートの中を覗き込もうとしていたのだ。


 もちろんエルもそれに気づいて、彼らには徹底的な塩対応をしていたが、彼らはめげることなくその要求はエスカレートするばかりだった。


 鼻を長く伸ばして太ももや胸元をチラチラ見てくる貴族令息に、今にも怒りが爆発しそうなエル。


(ぐぬぬぬ・・・この色情魔のインキュバスどもめ。これが監視作戦でなければ真の男はどうあるべきかを徹底的に教えてやったのにな。くそっ!)


 そんな彼らに囲まれ、激しい攻防を繰り広げていたエルだったが、昼時に差し掛かる頃にようやく4人の夫を連れたミモレーゼが姿を現した。


(今頃起きてきやがったのかよアイツら。だがあの様子じゃセシリアの作戦には全く気づいてないな)


 エルはミモレーゼから身を隠すために、自分にデレデレの貴族令息たちに命じて、周りに壁を作らせた。



           ◇



 アレクセイと腕を組んで登場したミモレーゼに、王宮大ホールは騒然としていた。


 それもそのはず、アレクセイはサキュバス社交界でもかなりの有名人で、自分の娘と結婚させようと狙っていた貴族も少なくなかったからだ。


 もちろんアレクセイの身体は一つしかなく、結婚できる令嬢はたった一人。


 見栄と嫉妬が渦巻く貴族社会において、先を越された相手がまだ初婚の王族だったら、有力貴族たちも諦めがついたかもしれない。


 だがアレクセイを射止めたのが、まるでアクセサリーのように夫を増やしていくミモレーゼ第二王女となれば話は別。


 自分たち貴族階級も平民と同じく一夫一妻制を強いられている現状において、彼女だけ特別扱いする国王への不満が一気に高まったのだ。


(うわぁ・・・あのオッサン連中があからさまに怒ってやがる。このままだと反乱が起きちまう勢いだな)


 だがミモレーゼは、そんな貴族たちの敵意などお構いなしに、逞しいアレクセイに寄りかかって得意気な笑みを浮かべている。


(この雰囲気の中で、平然と火に油を注いでやがる。コイツが王位に就けばその日のうちに革命が起きそうだな)


 そんな不満渦巻く貴族たちを押しのけるように、今度はミモレーゼの取り巻き夫人たちが姿を現した。


「まあっ! アレクセイ指南役とご結婚されたのですね。おめでとうございます、ミモレーゼ殿下」


「ありがとう皆さん。でもアレクセイって本当に素敵なのよ。エルフのように華麗な容姿なのにオークのように激しい愛。あ~あ、寝不足でつらいわ・・・」


「そうですか・・・と、とてもうらやましいですわ。ねえ皆様?」


「そうですわね、オーーホホホホ・・・」


「アレクセイ指南役こそ、ミモレーゼ殿下にふさわしい殿方ですわね」


 上滑りなおべっかを繰り出す貴婦人たちに有力貴族たちのイライラがさらに募る。


(生き地獄だ・・・ミモレーゼの監視じゃなければ、今すぐここから逃げ出したいぜ)


 まともな神経の持ち主なら、すぐに取り巻き夫人を黙らせるか、さっさとどこかに行っているだろう。


 だが火種であるはずのアレクセイまで、まるで空気を読まずミモレーゼに甘い言葉をかけながらピンクのツインテールを撫でている。


(かなりの常識人のアレクセイ伯爵閣下までこの有り様だ。精神が操作されるって本当に怖えな・・・)


 エルは改めて魅了の恐ろしさを痛感し、秘宝・アドネラの雫を携えたシェリアとクリストフの無事を願わずにはいられなかった。



           ◇



 結局その日のミモレーゼは、昼過ぎまでホールに居座ってアレクセイを見せびらかし、その後は取り巻き夫人を引き連れて王宮庭園でお茶会を始めた。


 そして夕方になると4人の夫を連れて自分の寝室に帰ってしまった。


(アイツ、仕事もしねえで一日中遊んでただけじゃねえか。そりゃ国王が王妃に相談もなくセシリアを後継者に指名するのも当たり前だ)


 ワガママは女のアクセサリーぐらいにしか考えていなかったエルにとっても、ミモレーゼと王妃のワガママは完全に度が過ぎていた。


 同時にかなりまともな部類の国王が、どうして王妃に強く言えないのかが理解できなかった。


(それにあの王妃は、何でセシリアのことをあんなに嫌ってるんだろうか)




 この日は王宮舞踏会が開催されないため、大ホールの後片づけをして一日の仕事を終えたエルは、セシリア離宮に戻ってみんなと食事を済ませた。


 そしてセシリアの寝室に戻り、彼女から訓練の成果を聞いた。


「どうだ上手くいったか」


 だが彼女は表情を曇らせ、


「・・・ダメでした。指導頂いた先生からは威力は相当なものだと太鼓判を押されたのですが、狙った相手には全く当たらず・・・」


「つまりあらぬ方向に飛んでいくということだな」


「はい・・・」


「よし、明日は一緒に訓練所に行ってやる。俺も打開策を考えてやるからな」


「・・・そうしていただけると助かります。では明日に備えてそろそろ寝ましょうか」


「いいけど、今夜は自分の部屋で寝るぞ」


「どうしてですかっ!」


「いやだってお前、裸で俺に抱きついてきたじゃん」


「お恥ずかしい限りです・・・でも自分がどうしてあのような破廉恥なことをしたのか、全く記憶になく」


「そうなのか。まあ、お前が眠るまでは話をしてやってもいいけど」


「そ、それで十分ですっ!」


「じゃあ風呂を作ってくるから、ちょっと待ってろ」





 その後風呂に入って、昨夜同様セシリアのベッドで他愛もない話をする二人。


「なあセシリア、お前の母ちゃんはなんでミモレーゼばかり可愛がるんだ」


「実は、お母さまはエルフ族の名門の生まれなのですが、両親が長女ばかり可愛がって妹の自分はあまり見向きもされなかったそうです」


「え?」


「しかも両親の命令でサキュバス王国に嫁がされたことを今だに根に持っており、自分と境遇が似ているミモレーゼを可愛がって長女のわたくしを目の敵に」


「完全にとばっちりじゃねえか! なら父ちゃんに言って注意してもらえよ」


「・・・無理です。お父様はお母様にベタ惚れな上、お母様に負い目を感じて魅了も他のインキュバスに奪われない程度にしかかけていません。ですのでお母様のわがままが何でも通ってしまい・・・」


「そういうことだったのか」


「サキュバス王国の殿方はみんな、お父様のように愛に生きる人ばかり。その点帝国の殿方は違う生き方をされているようで、とても興味がございます。今夜も帝国の殿方のお話を聞かせてくださいませ」


「そう言うことなら大歓迎だ。硬派な男の話ならいくらでもしてやれる」


「ではサクライ様のお話をまたお聞かせください」


「よしきた。じゃあ中坊の時に隣の中学の番長とタイマンした時の話をしてやろうか」


「キャーッ!」


 こうして二人の夜は更け、エルはまたしてもそのまま眠りについてしまうのだった。

 次回もお楽しみに。


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