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第61話 サキュバス王家の晩餐会

 身分を隠してセシリア王女の侍女・執事として王宮への潜入を果たしたエルたち4人。


 ちょうどその夜は週に一度開かれるサキュバス王家の晩餐会だった。


 王宮の最奥にある王族専用ダイニングのテーブルには銀の食器が並べられ、雛壇にはインキュバスの国王とエルフの王妃が並んで座っている。


 テーブルの両側には王族がズラリと並び、国王から見てテーブル左側には長女のセシリアとまだ幼い王子と王女が、テーブル右側には次女ミモレーゼとその夫たちが並び、さらに分家たちが続く。



 サキュバス王国では王族だけが複数の伴侶を持つことが許されているが、国王はたった一人の妻しか娶らなかった。


 これは国王が率先して国民に範を垂れるためで、種族の繁栄には一夫一妻が必須。


 そんな姿勢を徹底させたい国王は、だが父の考えなどお構いなしに次々と夫の数を増やしていくミモレーゼに忸怩たる思いをしていた。


 そして今日、夫たちの末席にアレクセイの姿をみた国王は、ひきつった表情でセシリアに顔を向ける。


 すると彼女はガックリ肩を落として首を横に振り、小声でささやいた。


「・・・後でお父様に相談がございます」


 父王が小さく頷く隣では、王妃がミモレーゼに話しかける。


「あらまあミモレーゼちゃん。また素敵な旦那様が増えたのね。しかもその人って社交界で今話題の」


「そうなのお母様。今日離婚が成立したアレクセイを早速手に入れたの!」


「まあっ、それは良かったわね」


 満面の笑みで喜ぶ王妃はどうやらミモレーゼをかわいがっているらしく、ションボリしているセシリアには目もくれなかった。





 厨房から料理が運ばれてきた。


 エルは侍女として配膳係をしていたが、この時すでに侍女になったことを後悔している。


 というのも王宮侍女のメイド服のスカート丈が短すぎて、他の侍女たちが屈む度に下着がチラチラ見えているのだ。


 しかもそれを王族の男たちがニヤニヤ笑って見ている始末。


 もちろんエルも超ミニスカートと純白のニーソックスを着用し、太ももだけが露出している有り様。


 エルは侍従長に猛抗議したが、サキュバス王国ではこの部分を「絶対領域」と呼び大変尊いものだという説明を繰り返すばかりだった。


「ビキニもかなりキツかったが、このメイド服に至っては屈辱以外の何者でもない。さっきから男どもの視線が気持ち悪いし、サキュバス王国は服まで頭がおかしいんだよ!」


「私にとっては天国ですけどね、ムフフッ」


「ベッキーお前・・・」


 そんなエルはセシリアの配膳係として彼女の後ろに待機していたが、その結果、正面に座るミモレーゼの一挙手一投足が嫌でも目に入ってしまった。


 ミモレーゼは、食事前にみんなが祈りを捧げているにも関わらず勝手に食事を始め、好き嫌いが多いのか料理をいじくり回しては口に入れずに残してしまう。


 また隣に座る夫メネラウスに食べさせてもらっては自分達の熱愛ぶりをセシリア見せつけたり、魅了が使えない姉は次期女王にふさわしくないと国王夫妻に文句を言い始めた。


 それが目に余った国王が彼女を諫めようとすると、王妃が国王をたしなめる。


「あなたはセシリアのことばかり贔屓して、ミモレーゼちゃんのことは怒ってばかり。同じあなたの娘なんだからもっとかわいがってあげて」


「だがたとえ妹でも、次期女王たるセシリアへの暴言を許していては臣下に示しがつかんではないか」


「そんなこと知りません。わたくしに何の相談もなくセシリアに王位を継がせることを決めたあなたが悪いのです」


「だがセシリアは長女で魔力も強く、まじめで勉強家だ。王位を継がせるのは当然だろう」


「でも魅了が使えないのは致命的。18にもなってままだ結婚もできず、いつお世継ぎが産まれるのか目処すら立っていない」


「そ、それは・・・」


「それにわたくしに何の相談もせず勝手に決めるあなたにも不満があるのよ。もうわたくしのことなんか愛していないんでしょ!」


「そ、そんなことはない! 余はそなた一筋に決まっておろう」


「だったらミモレーゼちゃんを叱らないで」


「うっ・・・」


 惚れた弱みか、美人エルフ妻に何も言い返せない父王を舐めたミモレーゼがさらに調子に乗り始めた。


「お母様。お世継ぎを産めばきっとお父様のお気持ちも変わり、この国をわたくしに譲ってくださるはず。どうせお姉様なんか一生結婚できないし、このわたくしがさせてあげないんだから」


「それもそうね。お勉強ばかりで可愛げがない上に、魅了も使えないポンコツサキュバスより、ミモレーゼちゃんの方が女王にふさわしいとお母さんも思うわ」


 そう言ってセシリアを見ながらクスクス笑う二人。


 そしてメネラウスを始めとする夫たちもミモレーゼに同調する。


「ミモレーゼの足りないところは、僕が全力で補う。だから安心してサキュバス王国の王位を継ぐといい」


「そのためにはまず僕たちとの愛の結晶が必要だな」


「新しい仲間も増えたし、今夜は君を寝かさないよ」


 そう言って3人のエルフ夫がミモレーゼに甘い笑顔を見せるのだった。



 セシリアは、自分と目すら合わせてくれなくなったメネラウスに寂しさで心がつぶれそうになり、そんな愛娘を悲しげに見つめる国王。


 そしてセシリアを吊し上げるかのような王族晩餐会を目の当たりにしたエルは、怒りで肩をブルブル震わせ必死に我慢していた。


(落ち着いてください、エル様)


(だがベッキー、あの母娘どもが・・・ぐぬぬぬっ)


(アレクセイ卿を助けたらこんな国とは縁が切れるし、むしろ帝国としてはこの国が弱体化した方が好都合。ミモレーゼが女王になった方がいいのです)


(それはそうだが、この性悪女だけは絶対に許せん)




 食事が終わると、真っ先にダイニングを後しようとするミモレーゼ。


「それでは新しい夫との夜もございますので、わたくしたちはこれで失礼いたしますわね。オーホホホホ」


 その言葉を合図に、メネラウスがスッと席を立ちあがるとミモレーゼの手を取って席を立たせる。


 そして末席で控えていたアレクセイが彼女の側に寄ると、その両腕で抱き上げた。


「ミモレーゼ、俺たちの愛の巣に向かうぞ」


「ええ! ではわたくしたちの寝室までこのまま連れて行って下さる」


「もちろんだよハニー! 君は俺に愛される以外もう何もしなくていいぞ」


「素敵・・・愛してるわアレクセイ」


 こうしてアレクセイを先頭に、5人の夫婦がダイニングから去ってしまった。


 静かになったダイニングは、国王夫妻の退席を合図に晩餐会が終わりを告げ、誰もいなくなったテーブルを後片付けする侍女たち。


「エル様、ここは私たちに任せて早くセシリア殿下の所に行ってあげて」


「おっとそうだった。後を頼むぜベッキー」



           ◇



 その後セシリアと合流したエルは、国王の執務室を訪れた。


 セシリアが侍女を連れて入ってきたことに、最初は怪訝な表情を見せていた国王だったが、事情を知ると驚いた表情でエルを見つめた。


「まさかランドン=アスター帝国の皇女が我が王宮に潜り込んでいようとは。だが話は分かった。セシリアとの密約通りアレクセイを返すことを約束する」


「話の分かる王様で助かったぜ。それじゃあしばらくはこの王宮で厄介になるぜ」


「ああ。セシリアの作戦が上手くいくよう手伝ってやってくれ」


 こうしてエルとセシリア、そして国王の3人ががっしりと手を握った。



          ◇



 執務室から退出したエルとセシリアは、そのまま王宮を離れてセシリア離宮に向かった。


 豪華で壮大な王宮とは異なり、セシリア離宮は質素でこじんまりとしている。


 それでも王女一人が住むには十分な広さがあり、エルはセシリアの傍仕えとして彼女の寝室で寝泊まりすることになった。


「ここがエル様の控室です。大帝国の皇女殿下には狭すぎると存じますが、アレクセイ卿を取り戻すまでの僅かな期間ですのでご容赦くださいませ」


 そう言って寝室脇の扉を開けて中を見せるセシリアだったが、


「いや俺には十分広すぎる。それより今日は色々あったし、早く風呂に入って寝ようぜ」


 そう言うとエルは、王女専用の浴室に入って風呂の準備を始めた。





 風呂から上がってパジャマに着替えたエル。


 寝室には大きな本棚がいくつもあり、難しそうな本が所狭しと並んでいる。


 そんな部屋の主は、天蓋付きのベッドに腰掛け分厚い本を読んでいた。


「勉強熱心だなセシリア殿下」


「あらエル様。とても素敵なパジャマですね」


「これは俺の侍女が作ってくれたものなんだ。最初はこんなフワフワした女の服なんかと思ってたけど、サキュバス王国のおかしな服ばかり着てたから心がホッと安らぐよ」


「そうですよね。わたくしも我が国の服装には違和感しかございません。みんなどうしてあのような破廉恥な服ばかりを好むのでしょうか」


「そう言えばお前、サキュバスのくせにやたら清楚だし変わった奴だよな。さあ明日も早いし俺は寝るよ。おやすみ」


 そう言ってエルが控室に入ろうとすると、セシリアが声をかけてきた。


「あの・・・もしよろしければ、もう少しだけわたくしのお話し相手になっていただけませんか」


「話し相手? 別に構わんが」


 エルがセシリアの隣に腰掛けると、本を閉じた彼女が嬉しそうに笑顔を見せた。


「この離宮に閉じこもるようになってから侍女たちは何かとわたくしを気遣って、わたくしが眠りにつくまで話し相手になってくれるのです」


「みんな優しいな。それよりその本は何だ」


「魅了スキルの理論について書かれた本です。もう絶対に失敗はできませんので」


「勉行熱心だな・・・頑張れよ」


「はい!」




 それからしばらく、とりとめのない話をした二人。


「侍女たちとはどんな話をしてるんだ」


「そうですね・・・例えば魅了スキルのコツや、夫婦生活のいろはを教えてもらっています。わたくしにいつ配偶者ができても困らないよう、殿方に関することは何でも覚えていくつもりです」


「そっちの勉強かよ・・・。まあ俺には侍女達みたいな知識はないが、こと男に関しては一家言あるぞ」


「まあっ! わたくしはメネラウスぐらいしか殿方と話したことがありませんので、ぜひ帝国の殿方のお話をお聞きかせくださいませ」


「よっしゃっ! じゃあ耳をかっぽじってよく聞け。真の男というものはだな・・・」


 それからエルは、堰を切ったように話し出した。


「真の男は硬派でなければならない。女の尻ばかり追いかけているナンパ野郎は・・・」


「ふむふむ・・・」


「真の男たるもの女に手を上げてはいけない。多少のわがままは愛嬌であり、それを受け入れるたけの包容力が必要だ・・・」


「なるほど・・・」


「俺が目指す理想の男は本宮先生が描く番長で、例えば・・・」


「す、すてき・・・」


 いつ終わるとも知れないエルの男語りに、だがセシリアは目をキラキラさせて聞いていた。


 エルの語る男は全員、四六時中女に愛を語っているサキュバス王国の男たちとは真逆で、周りに絶対いないタイプばかりだった。


 特にセシリアが魅力を感じたのは桜井正義という少年の話で、聞けば聞くほど彼に惹きつけられていく自分に気づいてしまった。


 夜通し語り明かした二人はいつの間にか眠ってしまい、そしてそのまま朝を迎えた。



           ◇



 セシリア王女を起こしに来たベッキーは、ベッドで並んで寝ている二人の姿に目を輝かせた。


「エル様、私も仲間に入れてくださいっ!」


 その声でようやく目が覚めたエルは、


「う、うーん・・・あれ? いつの間にか俺はこのベッドで眠っちまったのか。ていうか身体が動かん!」


 隣を見ると、抱き枕のように自分にしがみつくセシリアの安らかな寝顔が間近にあった。


「ちょっと離れてくれセシリア。むぐうっ!」


 身体をよじって必死に離れようとするエルだったがセシリアの力が存外強かった。


「くそっ! 寝技が完璧に極ってやがる。全く身動きがとれん・・・」


「し、辛抱たまらん・・・私も交ぜてーっ!」


 メイド服を脱ぎ捨てて下着姿になったベッキーが、ベッドにダイブしてエルに抱きついた。


「おわーっ、何やってるんだベッキー! お前の色んな場所が俺に当たってるぞ!」


「わざと当ててるんですよエル様、あんっ!」


「アホかーっ!」


「う、うーん・・・サクライさま・・・好き・・・」


「セシリアも寝ぼけてないで早く目を覚ませ! ていうかお前、全裸じゃないかっ! お前ら二人とも朝から刺激が強すぎるんだよーーーーっ!」

 次回もお楽しみに。


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