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第51話 港町シュターク浄化作戦

 翌朝、エルたちは早速行動に移した。


 作戦は至極単純、町長を逮捕してマフィアとの繋がりを吐かせ、警備兵も倒して町の実権を握る。


「俺が港町シュタークの番を張る。行くぞっ!」




 町外れにある町長の屋敷に到着したエルたち。だが高い塀に囲まれて中が全く見えない。


 大きな門扉には犬人族の警備兵が立っており、鋭い嗅覚で周囲に怪しい者がいないか監視している。


 そんな彼らに見つからないよう、少し離れた物陰に隠れたエルが突撃開始の合図を送る。


 今回の作戦で注意しなければならないのは町長に気づかれて逃亡を許すことであり、少人数で静かに接近して身柄を確保する。


(シェリア、カサンドラ、ユーナ、インテリ行くぞ)


 少数精鋭の選抜メンバー6名の身体を、ラヴィの闇の球体が包み込んだ。



           ◇



 屋敷の周囲に展開された魔導結界をも余裕で突破できるラヴィの「ハーピー強化転移魔法」により、エルたち6人は塀の中へと転移した。


 塀を乗り越えて初めて分かったことだが、見通しのいい庭の中央付近に大きな屋敷が建っていて、たくさんの警備兵が警戒を強めている。


 大袈裟とも言えるこの警備体制に、町長が裏社会の人間であることをますますエルは確信した。


 そんな警備兵たちが気づくより先に、再びラヴィが転移魔法を発動させると、彼らの死角となる屋敷の屋根へ跳躍した。


(無詠唱で何回でも連続転移できるなんて、インテリのハーピー強化魔法は凄すぎるぜ)


(いやいやなんぼ強化してる言うても、こんな無茶な転移ができるんはアニキとラヴィはんのずば抜けた魔力があったればこそや。こんなん普通はできへんで)


 そして6人は屋根に身体を這わせて大きな煙突近くまでたどり着くと、そこから直下の部屋へ3度目の転移を果たした。





 6人が潜入したのは、屋敷最上階の居間だった。


 上品な調度品や天蓋付きのベッドが並んでおり、この部屋が町長の居室であることを物語っている。


 だが部屋に人影はなく、町長は既に執務室に向かったと思われた。


(シェリア、町長の執務室ってどこにあると思う)


(そうね・・・この屋敷の造りだと1階正面玄関から廊下を通った一番奥ってとこね。つまりこの真下よ)


(分かった。よしラヴィ、もう一回転移魔法を頼む)


(うん、エルお姉ちゃん)


【闇属性中級魔法ワープ】



           ◇



「誰だ貴様らっ!」


 4度目の転移を成功させたエルたちに声を荒げたのは、鳥人族の中年男だった。


 身長2メートルもある筋骨隆々のその男は、上品なスーツに身を固めて執務机で書類仕事をしていた。


「お前が町長のビルドか」


 エルが尋ねるが、男は無視して大声を張り上げた。


「曲者だ! 早くこいつらを捕まえろ!」


 すると辺りに警笛が鳴り響き、庭を巡回していた警備兵が一斉にこちらを振り向いた。


 だがその時既に、ユーナが男の背後に回っていた。


「なっ!」


 小柄で敏捷性に優れたユーナの動きに全く反応できなかった男は、彼女が窓を塞ぐようにバリアーを展開したため、空に逃げる選択肢がなくなったことを理解した。


 彼女の手際のよさに、男は自分の命の危険を察知し、もう一つの脱出経路である隣室の転移陣に向けて身を翻した。


 だが今度はカサンドラが、その扉を塞ぐように仁王立ちした。


「もう一度聞く。お前が町長のビルドか」


 エルの問いかけに苦々しく顔を歪めた男は、


「そうだと言ったら、私をどうするつもりだ」


「貴様を逮捕してマフィアとの関係を全て吐かせる。覚悟しろっ!」


「今まで我らに不干渉だった帝国人が・・・くそっ」


 男が右腕をエルに向けると、指輪が怪しく光ってその魔法が発動した。



【古代魔法・アビス】



 次の瞬間、ビルドの前に暗黒球体が出現し、そこから激しい水流がエルめがけて発射された。


 この古代魔法アビスは、自分の場所と海底数千メートルの地点を亜空間で直結し、数百気圧の超高圧水量が相手に噴射される破格の攻撃魔法だ。


 その威力は金属をも容易に貫くほどで、水流が到達した瞬間、相手の身体は木っ端みじんに飛び散るはずだった。


 だが、



【火属性中級魔法・フレアー】



 エルのすぐ後ろで魔法の準備を終えていたシェリアが、ビルドより僅かに早く超高温の火球をエルの前に出現させていた。


 すると膨大な量の超高圧水流が全て火球に飲み込まれ、その体積が1700倍に膨れ上がった。


 結果起きたのが水蒸気爆発。


 町長の屋敷は木っ端みじんに吹き飛んでしまった。



           ◇



「・・・痛つつ」


 瓦礫の山から這い出したエルは、シェリアとラヴィ、インテリの3人が仲間を必死に捜索している姿を見つけた。


「おーいみんな~、俺は無事だぞ!」


「あ、エルだっ!」


「エルお姉ちゃん、無事でよかったあ・・・」


「あれで無傷とはさすがアニキやな。でもカサンドラはんとユーナはんがまだ見つかってへんのや」


 聞くと、ラヴィとインテリは先に亜空間に逃げ込んでいたらしく、シェリアはあの程度の爆発では何ともなかったそうだ。


 だがカサンドラとユーナの二人の姿はなく、町長のビルドや犬人族の警備兵たちとともに瓦礫の中に埋もれたままらしい。


「すぐに二人を助けよう! だが念のために先に治療をしておいた方がいいな」


 そう言うとエルは、瓦礫全体に効果が広がるよう、巨大な魔法陣を上空に出現させた。


【光属性初級魔法・キュア】


 純白のオーラが光り輝き、特大のキュアが辺りを優しく包み込む。


「手あたり次第治癒魔法をかけたから、ビルドや警備兵たちも全員身体が完治したはず。逃げられる前にヤツを捕まえるぞ」



           ◇



 急いで瓦礫を撤去したエルたちは無事にカサンドラとユーナを救出した。


 だがそれ以外に生存者はなく、無残な遺体が次々と発見されていく。


 特に爆心地にいたビルドの遺体は四肢がバラバラになるほど損傷していて、マフィアとのつながりが確認できないままあの世へと旅立たれてしまった。


「・・・おいシェリア、お前はいつもやりすぎなんだよ。せっかく生け捕りにしようと苦労して忍び込んだのに、全て台無しじゃないか。破壊神かよお前は!」


「私のせいじゃないわよ! 初手フレアーは近接戦闘の基本だし、あの町長が古代魔法なんか使わなければこんなことにはならなかったのっ!」


「だからって、こんなでかい屋敷を木っ端みじんに破壊するか、普通・・・」


「もう済んだことだし、早く次の作戦に移るわよ」



           ◇



 町長の屋敷が大爆発を起こしたことで、シュタークの町は大騒ぎになった。


 詰所の警備兵たちは慌てて現場に駆けつけたが、その隙に他の仲間たちが詰所を占拠して町の治安機構の掌握に成功した。


 一方帰る場所を失ったことも知らず、木っ端みじんになった町長の屋敷の前で呆然とする警備兵たちを、瓦礫に潜んでいたエルたちがバリアーで取り囲んだ。


 そして彼らの前にエルがおもむろに現れると、


「マフィアの手先だった町長ビルドは、たった今この俺が始末した。文句のあるヤツはかかって来い!」


 両腕を組んで仁王立ちするエルの気迫に、警備兵たちは群れのリーダーがビルドからエルに代わったことを本能で理解した。


 頭としっぽを下げて膝をつき、恭順の意思を見せる警備兵たちだったが、それでも数人は表情を硬直させたままその場に立ち竦んだ。


 その中の一人、バニラをゴブリンに売り渡し、その居場所も断固教えなかった例の隊長に、エルがつかつかと歩み寄った。


「よう隊長さんよ。バニラは無事に取り返したぜ」


「・・・ウソだ」


「そこのゴブリンの族長のおかげで、町長のビルドがマフィアの手先だとわかったし、こうやって残りのメンバーも炙り出せた訳だ。さあマフィアとの関係を」


 エルがそう聞き出そうとした瞬間、隊長と数人が腰のサーベルを抜き、自らの首筋を切り裂いた。


 真っ赤な鮮血とともに崩れ落ちる仲間たちを見て、他の警備兵は自分がマフィアの手先として利用されていた事実を、この時初めて理解した。



           ◇



 エルに下った警備兵を従え詰所に戻ったエルは、全員を整列させ、港町シュタークの新体制を発表した。


「いいかよく聞け。港町シュタークはこの俺様がいただいた。そして新町長はバニラに任せる」


 そう言ってエルがバニラの両肩に手を置いて不敵に笑うと、警備兵たちは驚愕の表情でバニラを見た。


「こんな小さな子供が町長って・・・」


 一向にざわめきが収まらない警備兵たちに、エルは近くにあった机を力いっぱい叩いた。


 バギャーーーーッ!


 木っ端微塵に砕け散った机の破片が宙を舞い、群れのリーダーの激怒に恐怖した警備兵は、しっぽを垂らしてエルに跪いた。


「今日からバニラが町長だ。わかったかっ!」


「「「はいっ!」」」


「結構。ではマフィアの手先が作ったくだらない掟は全部捨て、これからはバニラが作った掟に従うんだ。いいな」


「「「はいっ!」」」


「それとバニラは今日から帝国人になる。家も帝国軍の兵舎になるが、彼女が町を視察する際はお前たち警備兵が守ること。もし少しでも危害が加えられたら、帝国軍が徹底的に報復するぞ!」


「「「ひーーーーーっ!」」」


「返事が違う! やり直しっ!」


「「「はいっ!」」」


「よろしい。では新町長のバニラから新しい掟が発表される。耳の穴をかっぽじってしっかり聞いておけ」


「「「はいっ!」」」


 そしてバニラが壇上に上がると、警備兵を前に町の掟が発表された。




【シュタークの掟】


1.鳥人族マフィアの追放及び取引の禁止

2.奴隷制度、人身売買の禁止

3.大銅貨の使用停止と紙幣の発行

4.大銅貨から紙幣へは1:1で交換できるが、紙幣から大銅貨への交換は帝国人以外認めない

5.商品の値段は自由

6.税金の使い道は各種族の代表の意見を参考に、町長が決定




 このバニラが作った町の掟の根底にあるのは、鳥人族マフィアの根絶だ。


 空を自由に飛び交うことのできる彼らは、町ごとの商品価格差を利用して容易に利益を上げられる。


 そのため大陸に広く流通する大銅貨ではなく、港町シュタークでしか使えない紙幣を導入して、町の経済からマフィアを排除する秘策であった。


 なおバニラは当初、大銅貨の代わりに浜辺で拾ったキレイな貝殻を使おうとしていたが、インテリが紙幣のアイディアをバニラに教え、それを聞いた基地司令官がドワーフ王国に印刷機を発注することになった。





 こうしてバニラを町長とした新体制がスタートしたが、エルにはもう一仕事残っていた。


「バニラの実家に行って、ドレスを取り返すぞ!」

 次回エピローグ。お楽しみに。


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