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第48話 キャティーの里帰り(中編)

 水平線に夕日が沈むと、キャティーの実家主催によるバーベキューパーティーが盛大に始まった。


 主賓席にはエルとキャティーが座り、キャティーの両親が二人を挟む。


 キャティーと母親の仲睦まじい様子に参加者全員がホッコリし、父親はエルの両手を握りしめて感謝の言葉を繰り返した。


「ウチの娘を助けてくれて、本当にありがとう」


「いいってことよ。こちらこそ、こんな楽しい夏休みにしてくれて感謝するぜ」


 ビーチに設けられたテーブルには焼きあがったばかりの肉料理が次々と運ばれ、エルたちだけでなくキャティーのご近所さんや使用人たちまでもが美味しそうに食べている。


 飲めや歌えの大騒ぎの中、キャティーは帝国でのエルとの生活を楽しそうに語り、それを両親が興味深そうに聞いている。


「するとお前は貴族令嬢の学校で勉強させてもらってるのか。大したものだ」


「えへへ。実はエル様って、帝国の皇女殿下なのよ」


「なんと! 本当にいい人に助けてもらえたんだな、キャティー」


「・・・それでお父さんにお願いなんだけど、このままエル様の侍女になってもいいかな?」


 恐る恐る尋ねたキャティーだったが、父親は笑顔でそれを承諾した。


「もちろん構わないさ。盗賊に拐われた時点でお前はもう死んだものと諦めたし、婚約相手とも既に破談になっている。だから残りの人生はお前の好きなように生きなさい」


「ありがとう、お父さん!」


 こうして父親の許しを得たキャティーは正式にエルの侍女となった。



           ◇



 翌朝。


 キャティーの家に泊まったエルたちは、朝食が終わるとすぐにビーチに飛び出した。


 エルはシェリアとクリストフの他、ラヴィとユーナだけを連れて、ボートで沖合いの無人島に渡った。


「ふう・・・ここまで来れば大丈夫だな。うちのパーティーメンバーはみんな美人過ぎて、俺にとっては目の毒にしかならねえ。猫人族のやつらもやたらと美男美女が揃ってるし全く参ったぜ。なあシェリア」


「それどういう意味よ! 私だって美人でしょ!」


 エルの言葉にほっぺたを膨らまして拗ねるシェリアに、クリストフがすかさずフォローする。


「アメリアは世界一美しいよ。特にビーチの君は最高に輝いていると僕は思うよ」


「ふーん。それってエルやアリア姉様よりも?」


「もちろんさ。二人ともとても魅力的だけどアメリアの足下にも及ばないさ」


「そ、そこまでっ! 何か褒めすぎのような気もするけど、あんたの目には私がそう映ってるんだ。そんなことよりもエルよ。あなたはどう思ってるの」


 上目遣いで尋ねるシェリアに、エルはハッキリと答えた。


「昨日も言ったとおり、その可憐な水着がすげえ似合ってるぜ」


「可憐! そっかそっか、うんうん♪」


 そんなエルたちの所に、海辺で遊んでいたラヴィとユーナが戻ってきた。


「エルお姉ちゃん、お話もいいけどラヴィと遊ぼ」


 子供用のかわいい水着を着たラヴィがエルの手を引っ張って海に入ろうとすると、


「じゃあボクも一緒に!」


 競泳水着を着たユーナがエルの隣を走る。


「おうよ!」


 そしてラヴィに水泳を教えたり、ガチの競泳でクタクタになるまで遊んでいた頃、ボートに乗ったキャティーが無人島までやって来た。


「エル様。さっきお父さんが慌てて王宮から戻って来たのですが、うちの王様が是非エル様にお礼が言いたいと。王宮まで一緒に来てください」


「王様が?」


 話を聞くと、王宮勤めの父親がキャティーの帰還を王様に報告したそうだ。


 すると、いたく感心した王様がエルに直接会ってお礼がしたいと父親に言ったらしい。


「なら、昼飯を食ったら王宮に行くか。クリストフ、王宮にはこの水着のまま行けばいいのか」


「相手はおそらくエルさんが皇女であることを知っています。ここは帝国流の正装がいいでしょうね」


「わかった。俺は帝都と同じ聖女服を着ていく。みんなにも自分の服に着替えさせて全員で王宮に行くぞ」



           ◇



 王宮は南国風のエキゾチックなお城で、すぐに謁見の間に通されたエルたちは、そこで王様と対面した。


「待っておったぞエル皇女殿下! 余が猫人族国王のナーゴだ」


 ナーゴはかなり若く、クリストフと同い年ぐらいの美青年だが、玉座ではなく一段高くなった広い台座の上にあぐらをかいて座っている。


 猫人族の正装が水着なのは本当のようで、王様も水着なら、謁見の間に控える侍従や侍女、ここまで案内してくれたキャティーの父親まで全員が水着だった。


 だがエルが驚いたのはそこではなく、王様と同じ台座の上に座る水着の猫人族美女たちだ。


 王様と同じように膝をくずして座ると、エルたちに向けてニッコリとほほ笑んでいる。


「すすすすげえ・・・」


 本物のハーレムを前に度肝を抜かされたエルだったが、気を取り直すと挨拶を始めた。


「オホンッ! えーっと、俺がエルだ。そして隣にいるのがランドン大公家に嫁ぐ予定のエレノアだ」


「するとそなたがブリュンヒルデ殿下の」


「はい。南方新大陸全権大使である義母の代理として参りましたエレノア・レキシントンです」


 公爵令嬢然とした華麗なドレスに皇家のみが着用を許されるティアラを身に付けたエレノアが優雅にお辞儀をする。


 ブリュンヒルデ・メア・ランドンは、「全権大使」と「古代魔法研究者」の二足のわらじを履いて南方新大陸に長年住んでいたが、ゲシェフトライヒの領主に着任してからは全権大使が空位のままだった。


 そこで夏休みの旅行の間は、エレノアがその代理に任命されている。




 エレノアの口上が終わると、エルは仲間たちを順番に紹介した。


 エルのすぐ後ろには侍女であるスザンナ、アリア、キャティーの3人が並んでおり、エレノアの後ろにシェリアとクリストフが並ぶ。


 さらにその後ろに他のメンバーが並んでいるが、ジャンを含めたヒューバート騎士団は人数が多いため、王宮の外で待機している。


 全員の紹介が終わると、ナーゴの口から改めて感謝の意が述べられ、詳しい経緯を話すようキャティーに命じた。


 するとメイド服を着たキャティーがエルの隣に歩み出ると、誘拐された経緯から助けられた後の帝国での暮らしぶりまで詳しく話し、ナーゴは自分のことのように喜怒哀楽を表に出しながら真剣に聞いていた。


 そして話が終わると、キャティーを笑顔で労った。


「事情はよく分かった。しかし無事に里に帰ることができて本当によかったな」


「はい! これもエル皇女殿下のお陰です」


「しかもあの海賊団レッドオーシャンまで討伐したとは大したものだ。だが盗賊どもはいくらでもわいてくるし、里の警備をさらに厳重にせねばならんな」



           ◇



 謁見も無事終了し、謁見の間から退出しようとした時、ナーゴがキャティーを呼び止めた。


「待て、キャティーはここに残れ」


「え?」


 突然声をかけられ驚いたキャティーは、笑顔を作ってナーゴの方を振り返った。


 すると、


「余はそなたに惚れた。余の王妃になれ」


「ええっ! ・・・こ、この私を王妃に」


 ナーゴの突然のプロポーズに目が点のエルたち。


 そしてキャティーも頭の中が真っ白になって、一言発せないまま固まってしまった。




 ハッと我に帰ったエルは、キャティーの幸せを思うなら笑って送り出してやるのが真の男だと思った。


「すごいじゃないかキャティー。侍女を辞めて王妃になりたければそうしてもいいぞ」


 そんなエルの言葉に急に表情を曇らせたキャティーが不安そうに尋ねる。


「エル様は私が王妃になることをお望みですか」


「俺が望むのはお前の幸せだ。だから王妃になるのを選ぶなら喜んで送り出すつもりだ。これはお前の人生、お前自身で決めろ」


「では一つだけ教えてください」


「なんだ?」


「エル様は私がいなくなっても平気ですか」


 そう言ってエルの目をじっと見ながら答えを待つキャティー。


 少し考えたエルは頭をかきながら、


「・・・平気ではないな。だってお前とは同じ部屋に住んで朝から晩までずっと一緒だし、風呂まで一緒に入ってるぐらいだからな。居なくなると寂しいよ」


「じゃ、じゃあ、私のことが好きですか?」


「もちろん好きに決まってるさ。お前はもう家族みたいなものだからな」


「そっか。嬉しい・・・」


 そして目に涙を浮かべたキャティーは、王様に向けてきっぱりと言った。


「申し訳ございませんが、お断りさせてください」


「なっ!」


 キャティーの言葉に謁見の間の空気が凍りつく。


 侍従や侍女たちの顔は真っ青になり、王様は予想外の答えに呆然とする。そして何かの間違いじゃないかとキャティーを問い正した。


「断るって・・・王妃だぞ! そなたは猫人族の王妃になれるんだ!」


「・・・以前の私ならきっと大喜びしたでしょうが、今の私にはエル様の侍女という大切なお仕事があります。そして生涯エル様のお側にいようと・・・」


「何だとっ! そんなバカな・・・」


 ショックを受けた王様は、だがその事実を受け入れられず顔を真っ赤にして怒り出した。


「許さん・・・絶対に許さんぞ。そなたは今日から余の王妃。これは決定事項だっ!」


「え?」


 態度を豹変させたナーゴに当惑するキャティー。


「余の言葉は絶対なのだ! 帝国の服など脱ぎ捨て、今すぐ王妃にふさわしい格好に着替えてこい!」


「嫌です! お断りします!」


 反抗するキャティーに完全に頭にきたナーゴは、傍で控えていたキャティーの父親にも雷を落とした。


「貴様は娘にどういう教育をしている! 王命に従うよう貴様からも言え!」


 一連のやり取りを黙って見ていた父親は、だが娘ではなくナーゴに向けて答えた。


「せっかくのお話ですか、私は娘の意思を尊重して帝国に送り出してやるつもりです」


「何だとっ! 王宮勤めのくせに王命の何たるかを全く理解できていないのか貴様! 王命は絶対だ!」


「王命の重さは理解してますが、こればっかりは聞けません。娘の幸せを望む父親のささやかな希望をどうか・・・」


 主君の命令より家族の意思を優先し、頭を深く下げて謝罪する父親の態度に、エルは真の男の姿を見た。


 自然と笑顔になったエルは、ナーゴに告げた。


「おい王様。二人もこう言ってるし男ならキャティーのことはスッパリ諦めろ」


 その言葉にナーゴの怒りはエルにも向いた。


「帝国人は黙ってろっ!」


「いいや黙らねえ。嫌がってる女を無理やり自分のものにするのは、最低の男のやることだ。真の男なら、フラれた女のことはキレイさっぱり忘れろ!」


「・・・ふふふふフラれただとっ! 国王の余に向かってよくもそんな口を・・・衛兵、こいつら全員ひっ捕らえろ!」

 次回もお楽しみに。


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