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第39話 アメリア王女の真実

 王都バビロニアを出発して1週間後、エルたちは無事ゲシェフトライヒに帰還した。


 季節は既に初夏。


 南国特有の日差しが、朝の街路に照りつけていた。




 修道院に戻ったエルは、ジル校長に事情を話してアリアを4人目の同伴者として入学を許可してもらい、そのまま教室へと向かった。


「アリアと申します。皆さまよろしくお願いします」


 当分の間、アリアの正体はみんなに隠すことになったが、彼女の美しさや王女としての気品と風格は隠しきれるものではなく、生徒たちはざわめき、スザンナやエレノアですら息を飲んでいた。


 だがエレノアにとって、アリアの正体より突然舞い戻ったエルの方が遥かに重要で、スザンナと共にエルの両隣に陣取ると、エルにくっついて来た。


「わたくしたちを置いて長い間学校を休んでおられたのですから、これからはわたくしたちを優先していただかないと困ります。ねえスザンナ様」


「その通りですエレノア様。わたくしたち二人はエル様成分が完全に不足しておりますので、今夜は絶対に寝かせません。覚悟しておいてくださいね」


「それって土産話をゆっくり聞かせろと言う意味だよな。スザンナが言うと別の意味に聞こえてしまうから怖えよ」


「あら? エルさまが受け入れて下さるなら、わたくしはいつでも準備できておりますが」


「いや、ちょっと待ってくれスザンナ」


 スザンナが嬉しそうにエルに身体を寄せると、それを見たベッキーもエルに抱き着いてきた。


「だったら私も参加させてください。バビロニア王国では私だけのけ者扱いされていたし、エル様成分足りないのは私も同じですから」


「ひーーーーっ!」


 帰還早々、女子にもみくちゃにされるエルだったが、ベッキーに後ろめたさを感じていたエミリー、マリー、ユーナは、多少のことなら見てみぬふりをすることを決めていた。




 そんなエルの帰還と共に再開したのが、午後のクリストフの特別授業だ。


 久しぶりの開催ということもあり、アリアを含めたクラス全員がこれに参加した。


 そして放課後。


「さあ放課後だ。今日は何をしようかな」


 いつもなら貧民街での奉仕活動をしているエルだったが、アリアの顔を見て思い出す。


「そう言えばアリアは冒険者になるんだったな。今日は俺と一緒に冒険者ギルドに行くか」


「はいエル様、喜んで」




 意気揚々と街に繰り出すエルとアリア。


 その後ろをエレノアを筆頭に全員がゾロゾロとついて来たが、その中になぜかクリストフの姿もあった。


「ちょっと待てクリストフ。なんでお前までついて来るんだよ。お前、枢機卿だろ」


 だがクリストフは当然のように、


「だってエルさんが言ったじゃないですか、最初にすべきは冒険者登録だって。僕はまだ帝国での登録が終わってませんよ」


「アホか! お前は枢機卿なんだから、今さら冒険者証なんかいらねえだろうが」


「ですが登録をしないと、エルさんのパーティーに入れてもらえないじゃないですか」


「え? ・・・まさかお前も「獄炎の総番長」に入るつもりか」


「もちろんです。それともウチの寄宿学校みたいに、男子禁制のルールでもあるのですか」


「冗談じゃねえ! 真の男を目指す獄炎の総番長に、そんな女々しいルールはねえ! ・・・まあ貴族嫌いのシェリアがいるからお前がメンバーになれる保証はどこにもないがな」


「貴族嫌い・・・でも誠心誠意頼めばシェリアさんだって許してくれるはず」


「それはどうかな。まあ俺はどっちでもいいから勝手にしてくれ」


 そう言ってエルが突き放すと、なぜか先輩風を吹かせたエレノアが、シェリア対策を教え始めた。


 そんな騒々しい仲間たちを引き連れたエルがギルドに入ると、受付嬢たちの間に緊張が走った。


「「「お、おかえりなさい、エミリーさん」」」


「ただいまみんな~。元気にしてた?」


「「「はいっ! エミリーさんのご指導のおかげで何事もなく」」」


「そう。じゃあ久しぶりに私もカウンターに立つから、ちょっと着替えて来るわね」


 そう言って奥に入って行ったエミリーは、修道女から受付嬢へと華麗に変身してカウンターに立った。


「じゃあエル君、今日はクリストフさんとアリアさんの冒険者登録をすればいいのよね」


「ああ。よろしく頼むよエミリーさん」



           ◇



 冒険者登録が滞りなく終わり、クリストフはバビロニア王国の冒険者証を引き継ぐ形でDランク冒険者に、アリアはその強力な魔力が評価されてEランク冒険者のライセンスが与えられた。


 その後しばらく酒場で時間をつぶしていると、クエストを終えた獄炎の総番長がギルドに帰還した。


 エルたちに群がるオッサン連中の怪気炎に気づいたシェリアが、手を振ってエルの所に走って来た。


「おかえりなさいエル! 無事に帰って来たんだ!」


「ただいまシェリア! みんなも元気そうだな」


 シェリアの肩にはインテリが座り、その後ろにはカサンドラの姿もある。


「相変わらずべっぴんさんでんな、アニキは」


「うるせえ!」


「エル殿が無事で何よりでした」


「心配かけたなカサンドラ。それから今日は新しいパーティーメンバーを連れて来たんだ」


「え・・・またなの?」


 笑顔だったシェリアの顔が、急にどんよりと曇る。


「そう邪険にするなよ。二人ともいい奴だから仲間にしてやってくれ」


「もうっ! エルは知らないと思うけど、ウチのパーティーは入団希望者が多くて、断るのに苦労してるんだからね。私の苦労も少しは分かってほしいわよ」


 ぶつぶつ文句を言いながら、シェリアはエルの後ろにいる二人をジト目で睨んだ。


 だがシェリアの顔がみるみる青くなると、クルリと後ろを向いて一目散に逃げ出した。


 そんなシェリアの腕をクリストフが素早く掴むと、


「やめてっ! ちょっと離してよ!」


「ダメだ。僕は絶対にこの手を離さない。やっと見つけたよアメリア・・・」


「アルトグラーデスに居るはずのあなたが、どうしてこんな所に!」


 ただならぬ雰囲気の二人に、目が点になったエルが思わず割り込んだ。


「ちょっと待て。まさかとは思うが、シェリアがアメリア王女だって言うんじゃないだろうな」


 だが興奮気味のクリストフがエルに大きく頷いた。


「そのまさかですよ! ここにいる彼女こそが僕の婚約者のアメリアです!」


「でもコイツはどう見ても王女って柄じゃないし、髪だって白銀じゃなくピンクだ」


「髪を染めてるんですよ」


「何だと・・・シェリア、お前は本当にアメリア王女なのか」


 今度はシェリアに尋ねるエル。


 いつもなら強気のドヤ顔で否定するシェリアだったが、今回は気まずそうにエルをチラチラ見ると、


「じ、実は・・・黙っててごめんエル」


「マジかよ・・・あんな苦労して探していたのに、まさかこんな近くにいたとは」


 そう言って茫然と立ちすくむエルと、同様に脱力して床に座り込んでしまうラヴィと聖騎士たち。


 一方、話について行けず、シェリアとクリストフを交互に見つめるスザンナやエレノアたち。


「ここでは何も話ができない。とりあえずシェリアの宿に場所を移すぞ」



           ◇



 みんなの前で全てを明かしたシェリアに、ソファーに深々と腰を下ろしたエルが問い詰める。


「貴族嫌いが聞いてあきれるぜ。お前、貴族どころか王族じゃねえか」


「・・・ウソをついていてごめんなさい」


「要するに貴族と距離を置いていたのはネルソン侯爵家の捜索から身を隠すためだったと」


「ええ・・・」


「宗教完全NGってのも同じ理由だよな」


「そうよ。・・・でもエルも悪いのよ! せめてここの枢機卿の名前ぐらい教えてくれていたら、逃げるチャンスはいくらでもあったのに」


「それは無理だろ。だってお前に修道院の話をするとメチャクチャ機嫌が悪くなるし、宗教は完全NGだっていつもうるさいじゃん」


「・・・う」


「それよりもだ。どうしてクリストフの元から逃げ出した。コイツいい奴じゃんか」


「だって、あのままクリストフと結婚してアルトグラーデスで一生を終えるのが我慢できなかったのよ」


「それならそうと、ちゃんと話し合うべきだったと思うぞ。なのに盗賊団の仕業に見せかけて逃走するなんて、騒ぎを大きくするだけだ」


「盗賊団って何のこと? 着の身着のまま逃げ出しただけだけど」


「着の身着のままだと? ああ、そういうことか」


「エルさん、何か分かったんですか!」


 シェリアの逃走劇のカラクリが全て分かってしまったエルは、クリストフの勘違いを説明した。


「つまりこういうことだ。シェリアって部屋の掃除が全くできないし、いくら片付けてもすぐに散らかしてしまう。つまり盗賊団が物色したのと勘違いするぐらい、アメリア王女の部屋が汚かったんだ」


「いえいえ、そんなレベルの散らかり方ではなかったのですが」


「お前がアメリア王女の部屋に入ったのは、その時が初めてだったんだろ。俺はコイツの部屋を毎日掃除していたから、その時の王女の部屋の散らかり方が目に浮かぶぜ」


 エルの種明かしを呆然と聞くクリストフ。


「それより問題は今回の騒動をどう落とし前つけるかだ。お前のせいで帝国内は諜報機関が暗躍するわ、教会による情報統制が行われるわで大変な騒ぎだったんだぞ」


 そう言ってジト目でシェリアを睨むエル。


「それにクリストフがどれだけお前のことを心配していたか。ちゃんと謝ってやれ」


「・・・ごめんなさいクリストフ。でも私は自分の人生を自分で歩きたいの。私のことは忘れて、別の人と幸せになってね」


 謝罪しつつもクリストフに別れを告げるシェリア。だがクリストフもそれを受け入れようとはしない。


「そんなの無理だよアメリア。僕には君しかいないし一緒にアルトグラーデスに帰ろう」


「それだけは絶対に嫌。そうだ、エルの隣のアリアさんって子、ちょっとだけ私に似てるじゃない。いっそ彼女と結婚すれば」


「僕が好きなのは君だけだ。頼むから僕の所に帰ってきてくれ」


 シェリアに必死に懇願するクリストフだが、彼女は断固としてそれを受け入れない。


 そんな二人にうんざりしてきたエルが、クリストフに援護射撃を送る。


「シェリア、少し落ち着いて考えてみろよ」


「何よエル」


「言われて初めて気がついたが、アリアとお前は髪色以外瓜二つだ」


「・・・そうかしら」


「だがアリアには王女としての気品と風格、そして大きな胸まであるが、お前にはそのいずれもない。つまりお前の完封負けだ」


「何よ! 言うに事欠いてそれはないでしょエル!」


「俺が言いたいのは、そんな残念なシェリアをクリストフは愛しているということだ」


「残念って言うな!」


「そうですよエルさん。アメリアにはアメリアにしかない魅力がたくさんあります」


「そんなのあったっけ?」


「アリアさんは完成された大人の女性ですが、アメリアは発展途上の可憐さがあり、その天真爛漫な性格に加えて僕を引っ張ってくれる強いリーダーシップも兼ね備えた、完全無欠の美少女です」


「お、おう・・・そりゃあよかったな、クリストフ」


(恋は盲目、いや、蓼食う虫も好き好きだったかな。まあ何でもいいが、人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死ぬともいうし、ここは若い二人に任せて年寄りは退散するか)


「なんかバカバカしくなってきたから、俺はもう家に帰る。後は二人でゆっくり話し合ってくれ」


 そう言ってエルは立ち上がると、みんなを連れて寄宿舎に帰ろうとした。


 だがシェリアがエルにしがみつくと、


「嫌ーーっ! 帰らないでよエル! 私を一人にしないで!」


「そうですよエルさん! 僕たちはアメリアを探しにバビロニア王国まで行った戦友じゃないですか。だったら二人の行く末を最後まで見守るべきでは」


「えええええ・・・・」


 クリストフにまでしがみつかれたエルは、結局明け方まで二人の痴話げんかに付き合わされてしまった。

 次回、本章のエピローグ。お楽しみに。


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