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第29話 サクライ商店の門出

「違うんだエミリーさん!」


 腰に手をやり、顔を近づけてエルを詰問するエミリーの圧が強い。


「違わないでしょ! 他の冒険者たちもみんな言ってたわよ! 食事の時もずっとイチャイチャしてすごい迷惑だったって・・・もうエル君のバカっ!」


 頬を膨らませてカンカンに怒るエミリーと、浮気がバレて慌てふためく彼氏のようなエル。


 これ以上エミリーを誤魔化すのは無理だと判断したエルは、クリストフに全部丸投げした。


「あれは全て演技だったんだ! なあクリストフ!」


「えーっ?! ここで僕に話をふるんですかっ!」


「そりゃそうだよ。お前の用事でバビロニア王国まで来たんだし、俺の口からは何も言えないじゃないか」


「ですがエミリーさんはエルさんの仲間ですし、ここはエルさんが」


「あーっ! 二人が仲良くなってる・・・もしかして本当に結婚しちゃったの?」


 今度はクリストフにジト目で迫るエミリー。


「違うんですエミリーさん、これは演技。全ては王国に潜入するための作戦で・・・」


「そんなこと言って本当はエル君のことが好きなんでしょ。絶世の美少女でオッパイも大きいし、子供をたくさん産めそうな立派なお尻もあるし、エル君を好きにならない男なんて一人もいないはずよ!」


「たたたた確かに、エルさんがあまりにも魅力的で、途中何度も過ちを犯しそうになりましたが、僕にはアメリアという立派な婚約者が」


「アメリアって誰よ!」


「しまった・・・」


 エミリーの追及に、ついアメリアの名前を口走ってしまったクリストフ。


 エルも「あっちゃー」と思わず天を仰いでしまう。


 その後も必死に言い訳を重ねたクリストフだったが、大きなため息を一つつくと真面目な顔でエミリーたちに向き直った。


「仕方ありません、もう本当のことを話すしかなさそうですね。今から話すことは秘密厳守です。分かりましたねエミリーさん、マリーさん」


「ええいいわよ。その代わりちゃんと納得できる説明をお願い」


「私はエル様に忠誠を誓う騎士。ご命令とあらば秘密は墓場まで持っていきます」


「じゃあ二人にも僕の事情を話すよ。実は・・・」



           ◇



「疑ってごめんなさいクリストフ枢機卿。でも素敵な話ね。そこまで愛されているアメリア王女が本当に羨ましいわ」


 ハンカチを目に当てて涙ぐむエミリーと、腕を組んで大きくうなずくマリー。


「クリストフ枢機卿こそ騎士の中の騎士。天晴れとしか言いようがありません」


「ありがとうございますエミリーさん、マリーさん」


 だがマリーが少し表情を曇らせると、クリストフに確認をする。


「こう見えて私は社交界にも顔が通ってますが、クリストフ枢機卿に婚約者がいたなんて話はまるで聞いたことがありません」


 するとクリストフは、


「実は枢機卿としてゲシェフトライヒに着任するまで僕は実家のあるアルトグラーデスから外に出たことがなく、おかげで僕とアメリアの存在自体がこちらの社交界ではほとんど知られていません」


「確かに着任されるまでクリストフ枢機卿のことを知っている人は誰もいなかった・・・」


「ご存じの通り僕が枢機卿になったのはつい最近のことで、まさにアメリアがさらわれた後の話。そしてアメリアのことを社交界に隠しておくために、実家が情報を封鎖してしまったんです」


「ネルソン家・・・つまり教会の情報封鎖」


「ええ。だから帰国した後もここで見聞きしたことは絶対に人に話してはいけません。いいですね」


「し、承知しました!」


 エミリーとマリーが顔を見合わせて頷くと、話が落ち着いてホッとしたエルが二人に作戦を伝える。


「ということで高級娼館アデルにいるアメリア王女を取り返すのが俺たちの任務だ。そのためまずは街の大商人の仲間入りをして信用を勝ち取らなければならないが、俺とクリストフは商品の仕入れと商業ギルドを担当するから、店のことは全て二人に任せたい」


「そういうことなら任されました。元ギルド受付嬢の実力を見せてあげるわね」


「私も微力ながらお手伝いします。見たところとても質のいい品物がそれっていますし、立地もよく貴族や大富豪が立ち寄ってくれそうです。ただ私は絵画や骨董品に詳しくなく接客にもあまり自信が・・・」


「それなら僕に任せてください。ここにある商品の来歴をしたためたメモを準備しておきます。それを頭に入れておけば大丈夫でしょう」


「それを聞いてホッとしました。ではここの店番は我々二人がなんとかしましょう」



           ◇



 早速エルとクリストフが仕入れに出かけ、店番を始めたエミリーたち。


 少し待っていると店の扉が開き、お客さんが中に入ってきた。


 恰幅のいい40代ぐらいの紳士と60代ぐらいの執事の二人組で、しばらく絵画を眺めていたが気に入ったものが見つかったらしく、マリーに声をかけて作者や作品について質問してきた。


 するとマリーは、


「それはチェルスの初期の作品『踊り子の習作』です。躍動感あふれる踊り子の動きが見事に表現されており、これが後の代表作『ダンサー』へとつながる連作ものと位置付けられています」


「なんと! そのような作品がたったの10万BKGで手に入るとは・・・是非譲ってほしい!」


「承知しました」


 執事が金貨10枚をエミリーに渡し、絵画を大切そうに抱えて馬車へ乗り込む。


 その間も紳士はマリーから他の絵画の説明を受けていて、最後は名残惜しそうに店を後にした。




「ふう・・・枢機卿のメモがあって本当に助かった。騎士の私にはどれも同じに見えるからな」


「でもマリーってさすがお貴族様よね。外見も所作もとてもエレガントだし、自信を持って説明するから、目の肥えた大富豪も簡単に信用してくれるもの」


「こんな私も一応は貴族令嬢の端くれだし、騎士団で鍛えた度胸だけはある」


「メモの内容は頭に入れたし、私も接客に挑戦してみようかしら」


「それがいい。私もカウンターをやってみたいので、お金の扱い方を教えてくれ」



           ◇



 今日もブラックマーケットにやってきたエルとクリストフは、だが密売人に難癖をつけられてしまった。


「お前ら、商品をチマチマ選んでるんじゃねえよ! 全部まとめて買っていけ」


「これを全部ですか・・・そうするといくらで?」


「そうだな・・・倉にある分もまとめて100万BKGでどうだ」


「法外ですね。僕が買おうとしていた絵も1万BKGが関の山ですし、他は二束三文のガラクタばかり」


「なら兄ちゃんに売ってやれるものは何もねえ」


「そうですか。ではここで仕入れるのは今日限りでやめることにします」


 そしてクリストフが密売人に背を向けて立ち去ろうとすると、店の中に用心棒がゾロゾロと入ってきた。そして、


「兄ちゃん、有り金全部と仲間の女騎士を置いて行けば命だけは助けてやる」


「毎日のようにスラムに入り浸って絵画を買い漁ってやがるし、大金を隠し持っていることぐらいお見通しなんだよ」


「それにその女騎士は随分いい身体つきをしてるし、俺たち全員が楽しんだら、ちゃんと娼館に売りさばいてやるからな」


 そんなゴロツキどもが、店の周りを数10人ほどで取り囲み、剣や斧を振り上げて二人を脅しにかかる。


 だがクリストフを守るようにエルが前に出ると、背中に担いだ「ボスワーフの剣」を抜いた。


「やっと俺の出番のようだな。真面目に商売してればもっと長生きできたものを、誰にケンカを売ったのかその身体に分からせてやるぜ」


「おうおう、威勢がいいなこの姉ちゃんは。だがそのセリフをそのまま返してやるぜ。俺たち盗賊団の恐ろしさをその身体にたっぷり教え込んでやるから、装備をここで全部脱ぎな」


「断る! 全員まとめてかかって来い!」


「ふざけやがって・・・野郎どもかかれ!」


「「「ひゃっほう!」」」



           ◇



「さてと。お宝はこれで全部か、クリストフ」


「はいエルさん。いい絵画や骨董品がかなり手に入りました。あとのガラクタは必要ありませんので全部おいていきましょう」


「俺には全く区別がつかんが、お前がそう言うなら間違いない。だがコイツらのおかげでただで商品が手に入ったぜ。ラッキー、ラッキー」


 ゴロツキを全員半殺しにして縄で縛り上げたエルは、必死に命乞いする密売人の倉にあった貴重品を根こそぎ収納魔術具に放り込んでいった。


 そしてそれを遠巻きに見ていた他の密売人たちが真っ青になって震えあがり、その後エルたちが立ち寄るとすぐに倉を解放し、クリストフの言い値で全ての商品を売り渡した。


「これで、王都バビロニアにあるめぼしい盗品は全て俺たちが手に入れたな」


「はい。もう仕入れをする必要がないほど商品が集まりましたし、次は社交に力をいれましょう」


「作戦もいよいよ次の段階だな。この盗賊どもを冒険者ギルドに売り払ったら、服を着替えて商業ギルドに向かうぞ!」

 次回もお楽しみに。


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