表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
101/203

第18話 エピローグ(後編)

 アニー巫女隊の全員が入っても、まだまだ何人でも入れそうなほど広かったランドン大公家の露天風呂。


 それでも巫女たちはみんなエルと話がしたくて周囲に集まって来た。


「こりゃ本当にキュアの出番が来そうだな」


 キャッキャウフフと楽しそうな巫女たちに鼻血が止まらないエルだったが、さらに別の女性たちが風呂に入って来ると、騒がしかった彼女たちが静まった。


「あれ? どうしたんだ急に・・・」


 その全員が温かい目で彼女たちを迎えたので、エルも思わず後ろを振り返えると、そこには聖騎士に叙せられたあの3人の女騎士の姿があった。




 救出からそれほど日数も経っておらず、まだ心の傷も癒えていない3人は、昨日までずっと修道院に引きこもっていた。


 だが今日は聖騎士の栄誉を受けるために不安な気持ちを隠して式典に出席し、そしてエルに感謝を伝えようと露天風呂にやって来たのだ。


 エルの前で静かに跪く3人。


 エルも姿勢を正して3人に向き直ると、彼女たちの姿をしっかりと目に焼き付けた。



 リーダーはマリー・レナード男爵令嬢(19)。


 長い黒髪と青い瞳が特徴の眼鏡の美少女で、貴族令嬢らしく長身でスラリとしたプロポーションだ。


「この度、シリウス中央教会の聖騎士に叙せられたマリー・レナードと申します。命を助けていただいた上にエル皇女殿下の身辺警護という栄誉まで授かり、全身全霊をもってその任に当たりたいと存じます。以後お見知りおきを」


 真剣な表情でエルに忠誠を誓うマリーは、絵に描いたような生真面目な女騎士だった。


 その右隣はベッキー・ラウル準男爵令嬢(19)。栗色のショートヘアに茶色の瞳が愛らしい美少女だ。


「エル皇女殿下のおかげで、この身体を綺麗に浄化していただいた上に、聖騎士にもなることができました。今後は私の全てをかけて、このお美しい皇女殿下を男どもの魔の手から守り抜いて見せます」


 そんなベッキーは、マリーより少し背は低いが、胸と尻はエルと同じぐらい大きく、とても直視できないほどだった。


 最後はマリーの左隣で跪くユーナ・ベクレル騎士爵令嬢(19)。この3人は同い年の幼馴染らしい。


 ユーナは血管が浮き出るほど真っ白な肌で、3人の中では一番小柄で胸も尻も平坦。例えるなら、思春期前の少年のような身体つきをしている。


 そして金髪碧眼ながらショートカットでボーイッシュな美少女だった。


 そんなユーナが、ボーイソプラノを思わせるような清らかな天使の声でエルに挨拶をした。


「ユーナ・ベクレルです。ボクのような穢れた女にまで過大なる御慈悲を頂き感謝の言葉もありません。どうか皇女殿下の心のままにボクを使い捨てください」


「・・・えっ!?」


 その天使のような姿や声と、話す内容のギャップにエルは言葉を失った。



 そんな3人が膝を付いたまま騎士の礼を取り続け、涼やかな春風が彼女たちの素肌を優しくなでた。


「くしゅん!」


 栗色の髪のベッキーがくしゃみをすると、たまりかねたエレノアが彼女たちに命じた。


「エル様への挨拶はもう結構です。早く湯に浸かりなさい」


「「「はいっ、エレノア様!」」」


 3人を呼び寄せたエレノアがエルの隣を譲ると、スザンナとエミリーもエルの周りを空けてくれた。



           ◇



 エルが彼女たちと話をして分かったことは、マリーはとても生真面目で考え方が保守的。まるで風紀委員のような性格だった。


 だから海賊たちにされたことが彼女に重くのしかかり、時折暗い表情を見せる。


 一方のベッキーは、甘えたがりでスキンシップの大好きな少女だが、元々男嫌いだった上に今回のことで男を見るだけで虫酸が走るようになったそうだ。


 そして家門のために政略結婚をしなくてよくなったことが不幸中の幸いだと言っていた。


「こんなお美しいエル様の専属騎士になれて本当に幸せです。もう少し近くに寄ってもいいですか?」


 エル的には、3人の中でも特にベッキーには近づいてほしくなかったが、今は彼女たちの心を癒すのが先決であり、決死の覚悟で彼女を受け入れた。


「・・・かっ、かかって来い!」


「うれしい・・・」


 ベッキーは頬を赤らめると、少し遠慮がちに背中からエルに抱き着いた。


「うぐっ!」


 ベッキーの豊満な胸がエルの背中に軽く押し当てられ、彼女の右手がエルの胸に、そして左手がエルの腹部に優しく触れた。


「エル様のお肌、きめ細やかでしっとりしてとっても素敵・・・」


「ぐぬおおーーーっ!」


 エルの耳元に艶かしい吐息がそっと吹きかけられ、心なしかベッキーの呼吸が荒くなっていく。


 そんな彼女をスザンナとエレノアがむっとした顔で見つめており、マリーが慌ててベッキーに注意する。


「皇女殿下に対して失礼です。今すぐ離れなさい!」


「・・・はあい」


 寂しそうな表情でエルから離れたベッキー。そんな彼女にエルが男気を見せる。


「別に構わん。俺にくっつきたければ好きにしろ」


「えっ? ・・・本当にいいんですか?」


「ジャンも言っていたが、今日は無礼講だ」


「やったー!」


 満面の笑みを浮かべたベッキーが力いっぱいエルに抱き着くと、何を思ったのかスザンナまでエルに抱きついてきた。


「無礼講であれば、このわたくしも参戦させていただきます。・・・ああ、わたくしのエル様・・・」


「ほわあーーーっ!」


 美人で抜群のプロポーションのスザンナがエルに抱き着いた瞬間、エルの脳は焼き切れた。




          ◇




「・・・あれ、ここは?」


 いつの間にか気を失っていたエルは、露天風呂の脇に設置されたデッキチェアに寝かされ、その周りを女騎士たちが守っており、傍らではサラが治癒魔法を施していた。


「もう大丈夫のようですね、救世主エル様」


「・・・サラが助けてくれたのか」


「はいっ! エル様が鼻血を噴き出してお倒れになられたので、女騎士さんたちがエル様をこちらにお運びし、このサラめが全力でキュア&ヒールをかけました。血も精力も回復させましたので、いくら鼻血を流しても大丈夫ですよ!」


「サラの全力・・・しかも精力だと?! 確かに元気にはなったが、なんかムラムラしてきた。うぐぐぐぐ・・・サラめ、余計な魔法を・・・」


 サラの魔法で元気になりすぎたエルに、申し訳なさそうに立っていたスザンナが頭を下げた。


「エル様が突然お倒れになったのは、もしかしてわたくしが悪いのでしょうか・・・」


 今にも泣きそうなスザンナに、エルが慌てて目をそらしながら否定する。


「スザンナが悪いんじゃなく、俺が女の裸に耐性がないだけなんだ。だから頼む、素っ裸でそんな所に突っ立ってないで、タオルか何かで隠してくれ!」


「女の裸に耐性がないって、ではご自分の裸は?」


 スザンナが混乱していると、アニーがバスタオルを全員に配ってエルの事情を話し始めた。


「エルちゃんは訳あって私たち平民と同じ暮らしをしてきたんだよ。平民の女は人前で肌をさらさないし、修道院の大浴場ではみんなこうやってバスタオルで身体を隠すんだよ」


 エルが奴隷だったことを知るアニーが上手く説明してくれたため、いくら自分が男だと言っても誰も信じてくれないエルは、アニーに乗っかることにした。


「貴族令嬢は侍女に身体を洗ってもらうから抵抗はないが、俺は裸を見るのも見られるのも恥ずかしい。キャティーと風呂に入る時も目隠しは欠かせないんだ」


「なるほど、そういうことなのですね!」


 デルン城でのエルの奴隷騒動を思い出したスザンナは二人の説明に納得すると、アニーから手渡されたバスタオルを身体に巻き付けてニッコリほほ笑んだ。


「エル様、これで大丈夫でしょうか」


「助かったよ・・・あれ? スザンナの場合、バスタオルをつけてもエロさは変わらんな」



           ◇



 気を失ってる間に露天風呂にはすっかり人がいなくなっていたが、身体が冷えてしまったエルはもう一度風呂に入り直すことにした。


 もちろんエルが目を覚ますまでずっと傍に控えていたマリー、ベッキー、ユーナ、スザンナ、アニー、サラの6人も、エルを取り囲んで露天風呂に浸かった。


 一息ついたエルは、改めて女騎士に話しかける。


「さっきはユーナとあまり話せてなかったな」


 エルがそう言うと、真後ろに隠れていたユーナが暗い口調で話し始めた。


「ボクのような価値のない女にもお心配りいただき申し訳ありません。海賊に穢されたこの身体など、肉の壁にでもお使いください」


「おいユーナ、そんなに自分を卑下するなよ。そりゃ海賊にあんなことされたら心の傷は残ると思うけど、できる限りの治療はしたつもりだし、自分に価値がないなんて言われると俺も悲しくなるじゃないか」


 ユーナへの接し方が分からず戸惑うエルに、マリーが事情を教えてくれた。


「エル様、ユーナは昔からこういう性格なんです」


「性格? つまり、海賊団の件とは関係なく昔からこんなことばかり言っていたのか」


 マリーによると、ユーナは自分に自信のない、後ろ向きな性格なのだそうなのだ。


 だったら自信をつけさせればいいと思ったエルは、ユーナのいいところを褒めることにした。


「ユーナは自分の容姿が嫌いなようだが中々の男前で俺は好きだぞ。もしどちらか身体を選べるとしたら、俺はユーナの身体を選ぶな」


「それはさすがに無理があります。正統派美少女のエル様が、ボクみたいな貧相な身体になりたいわけないじゃないですか」


「俺を産んでくれた母ちゃんには申し訳ないけど、俺は自分の身体を見るたびにガッカリするんだ。この無駄に大きい胸と尻が正直みっともないんだよ」


「そんなバカな・・・もし選べるなら、ボクは断然エル様の身体を選びますよ!」


「絶対にやめた方がいい。剣を振ると胸が邪魔になるし、尻がデカすぎて狭い通路で必ず引っ掛かる。ギルドに行けば冒険者たちからエロい目で見られて、挨拶代わりに子作りしようと土下座する奴までいる。もう勘弁してほしいぜ」


「そもそもエル様は皇女殿下なのですから、冒険者などやめて嫁げばよろしいのです。こんなボクと違って絶対子宝に恵まれますし、幸せな人生を送れるはず」


「いや俺は男なんかと結婚する気はないし、子供を産むなど考えただけで身の毛もよだつ。俺はこのまま一生冒険者を続けるよ」


「そんな勿体無い! ボクは幸せな結婚をして、子供たちに囲まれるのが夢でした。でもこの貧相な身体のせいで政略結婚の相手すら見つからず、挙げ句の果てに海賊たちに凌辱の限りを尽くされて完全にその夢も絶たれました・・・もう死んでしまいたい」


「死ぬって、ちょっと落ち着けユーナ! その少年のようにシャープで鍛え上げられた肉体があれば冒険者として必ず成功する。それにそれだけ男前だったら、女冒険者にモテ放題だぞ」


「女にモテても全然嬉しくありませんよ!」


 エルの言葉に肩を落とすユーナだったが、そんな彼女を押しのけてベッキーがエルに抱きついてきた。


「ええ、分かりますエル様っ! 男なんかと結婚せずに、女の子にモテたいというエル様の気持ち、とてもよく理解できます。こんな私でよければ一生お傍でお仕えいたしますっ!」


「おわあっ!」


 ベッキーがエルに身体を密着させると、すぐにマリーが引き離そうとする。


「やめなさいベッキー! 女同士でそのような関係になるのは不健全だって、いつも言ってるでしょっ!」


「マリーこそ、今回のことで男の穢らわしさを理解できたでしょ。この世界に男など不要な存在なのよ!」


「良妻賢母こそ帝国乙女の目指すべき道。なのにこの私は海賊どもに・・・ううっ・・・」


 トラウマが呼び起こされ頭を抱えるマリーと、エルにしっかり抱きついたまま離れないベッキー。


 エルはマリーを慰めようと声をかけるが、スザンナがベッキーに噛みつく声にかき消された。


「いい機会ですので、ベッキー様にハッキリと申し上げておきます。エル様のおそばに一生お仕えするのはこのわたくしです」


「そ、そうなのですか、スザンナ様・・・」


「ええ。さあエル様、女の子をお望みでしたらまずはこのわたくしからお召し上がり下さいませ!」


「何言ってるんだスザンナ・・・ああっ! お前のその目、海賊団アジトの時と同じじゃないか。早く正気に戻るんだっ!」


 ベッキーとスザンナにもみくちゃにされ、また鼻血が止まらなくなったエルに、すでに詠唱を終えていたサラがその魔法を発動させた。


【光属性魔法・キュア&ヒール】


 強烈な輝きを伴ってサラの特大魔法が炸裂すると、エルの鼻血はピタリと止まったが、同時にムラムラが治まらなくなった。


「やめろサラ! これ以上勘弁してくれ!」


 カオスと化した露天風呂に、だが突然、既に修道服に着替え終えたエミリーが中に入ってくると、ムッとした顔でエルの目に目隠しをかけてしまった。


 そしてスザンナとベッキーを叱りつけた。


「あなたたち二人ともいい加減にしなさい! いくら貴族だからって私のエル君に好き勝手しないでよ! さあエル君、私と一緒に寄宿学校に帰りましょうね」


 エミリーはそう言うと、エルの手を引いて露天風呂からさっさと連れ出してしまった。

 次回より新章スタート。お楽しみに。


 このエピソードを気に入ってくださった方はブックマーク登録や評価、感想、いいねなど何かいただけると筆者の参考と励みになります!


 よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ