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第1章〜元カレを見返すためにクラスの三軍男子をスパダリに育てることにします〜⑫

 ここで、映文研こと映像文化研究会の活動内容とメンバー構成について、部長であるオレ、深津寿太郎(ふかつじゅたろう)から説明させてもらおう。

 

 自分たちが所属する映像文化研究会は、実写映画のみならず、アニメーションやゲームなどを含めた映像作品全般を研究し、制作活動を行うことを目的として、それまでの映画研究会が発展的に名称変更を行った団体である。

 これでも、自分たちが高等部に進学して、入部する直前の年度には、『映像甲子園』という高校生を対象とした映像作品のコンクールで準優勝を果たしたこともあるのだ。

 

 あるのだが――――――。


 現在、学内の大多数の生徒および教職員から、我が映文研は、「奇人・変人」が集う、()()()()()の集団と見られている。


 とくに、クラス内の人間関係(スクールカースト)において、ヒエラルキー外に近い『三軍』扱いされているオレや不知火(しらぬい)は、クラスの陽キャラ連中である一軍や一軍半に所属している連中から、不可触民(ふかしょくみん)=アンタッチャブルな存在として、


「映文研には、手を出すな」


などという、ありがたくない評価をくだされている始末だ。

 

 しかし、これらの悪評の原因になったと思われるイベントについては、自分たちにも言い分がある。

 春休みに行った学内の撮影は、事前に許可を得ていたにもかかわらず、届け出を受け付けた先生が、他校への異動時に事務室への提出を忘れていただけだし、夏休み中に、大型ディスプレイで動画の投影を行ったのは、部活などで登校している生徒たちに世界的なスポーツイベントの生中継をリアルタイム視聴してもらいたかったからだし、冬休み直前に行った打ち上げ花火のライブ配信については、正式に学校側の許可を得たものだった。


 自分たちの主張に、「非の打ち所などない」と思っているわけではないが、この他にも、映文研に対する学内の評価のうちのいくつかは、周囲の誤解から生じているものも少なくないとオレ自身は感じている。


 もっとも――――――。

 その誤解の発生源の主な原因は、オレとともに視聴覚教室に移動してきたクラスメートにあるのだろうが……。


(我ながらトンデモナイ奴と関わったもんだ……こういうのを『悪友』というのか?)

 

などと、高須不知火(たかすしらぬい)の人となりを考えながら視聴覚教室に入ると、すでに後輩部員たちは、メンバー全員が集合していた。


「部長、待ってましたよ!」


 声をかけてきたのは、二年生部員の浜脇(はまわき)。続けて、同じく二年の安井(やすい)が、


「今日こそは、スゴい企画をプレゼンしてくれるんですよね?」


と、こちらの事情を察しているのか、プレッシャーをかけてくる。


「高等部の『三日月祭(みかづきさい)』も、全国大会の『映像甲子園』の参加も初めてなので、楽しみです!」


 無邪気な笑顔で、一年生部員の広田(ひろた)が語り、


「ボクたちは、どんなことをすれば良いですか?」


と、同じく一年の平木(ひらき)が、期待に満ちた眼差しを向けてくる。

 そんな彼らから、有形無形の精神的重圧を感じたオレは、かわいい後輩たちの期待に答えられていないことに、申し訳なさと不甲斐なさを感じつつ、


「まだ、具体的なアイデアは出てない……スマン……」


と、素直に頭を下げる。

 学園祭出典と映像コンクール出品の責任者である部長の頼りなさに、落胆の表情が広がるかと思いきや、後輩たちの反応は、意外にも、


「まぁ、仕方ないですね〜」

 

というアッサリしたものだった。

 

 もう少し、非難や無念の表情が並ぶものだと思っていたオレが、なんだか肩透かしをくらったように感じていると、副部長の不知火(しらぬい) が、後輩たちを叱咤する。


「そういうわけで、今日は、企画会議だ! もう時間も残り少ないし、サッサと決めてしまうゾ!」


 部長である自分に代わって、場を仕切りつつある悪友にため息をつきつつ、議題に加わる。


「あと、一ヶ月少ししか時間がないなら、もうドラマとかの撮影は、無理ですね〜」


「あ〜、部長が夏休みに出してくれた『魔法少女マジカル☆スイーピー』の企画が実現できれば良かったんですけど〜」


 二年の浜脇と安井が口にする。

 安井が話した『マジカル☆スイーピー』とは、三日月祭と映像甲子園の出品のために、オレ自身が原案・脚本を務めた特撮ヒロイン・ドラマだ。


 ご近所の平和を守る少女、マジカル☆スイーピーが活躍する笑いあり、涙ありの感動巨編のシナリオが完成し、撮影企画を立てる段階まで至ったのだが――――――。

 

「部長、とっても面白そうなストーリーなんですけど、主人公のスイーピー役は、誰が()るんですか?」


と、一年生部員のふたりが至極真っ当な疑問を口にしたとたん、計画は頓挫してしまった。

 

 一度、夏休み中に、兄の威厳などかなぐり捨てて、妹の柚寿(ゆず)の機嫌を取り、映画出演のオファーをしようとしたことがあるのだが、タイトルを口にしたとたん、ゴミを見るような目で、


「誰が出演するか!? ○ね! ク○兄貴!」


 短いフレーズの中に二度も伏せ字を入れなければならないような返答で、有無を言わさず却下された。


 こうして、オレの高校生活を賭けた渾身の自信作は、全世界の映画研究系サークルが直面する出演者(主に女優)の確保という現実を前に、アッサリとお蔵入りが決まってしまったのである。

 

 それ以来、夏休みが終わって、早くも一ヶ月近くが経過したにもかかわらず、映像文化研究会は、いまだに新たな企画を立てられないまま、九月も下旬を迎えていた。


「ここまで締め切りが迫っている以上、もうドラマ撮影はあきらめて、映像素材をそのまま活かせるドキュメンタリー系の作品にするしかねぇな〜」


 切迫したスケジュールを考慮しながら、ポツリとつぶやくと、不知火(しらぬい)も、


「まぁ、それが現実的な考えだな……」

 

と、珍しく穏当な返答をよこす。 

 こうして、企画会議という名の堂々巡りの議論(というか、お察しのとおり、建設的な内容は少なく、ほぼ雑談に終始していた)を小一時間ほど継続したあと、スマホのデジタル時計が、そろそろ午後五時を知らせようかという頃――――――。

 

 突然、我が映像文化研究会の学内の根城(ねじろ)である視聴覚室のドアをたたくノックの音がした。

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