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第1章〜元カレを見返すためにクラスの三軍男子をスパダリに育てることにします〜⑪

 コンピューター研究会からの撤退を早々と決断したわたしに、ナミは、ニマニマと笑みを浮かべながら語りかけてきた。


「早くも連敗スタートみたいだけど……アヤ、大丈夫そ?」


「うっさい! まだ、二つだけじゃん! まだまだ、これからだよ」


 ナミの挑発に少し熱くなって、すぐに反論したものの、


「でも、もう五時すぎだし……今日は、あと、一件くらいにしておいた方がイイと思うよ?」


というリコの言葉に、冷静さを取り戻したわたしが、


「あ〜、それもそうだね……今日のクラブ訪問は、次で最後にしとこうか?」


と、ふたりに提案すると、こちらの提案に、ナミとリコは、「だね!」と同意してくれた。

 そして、


(さて、次は、どのクラブに行こうか?)


と、考えていると、リコがナミに確認するようにたずねる。


「コンピュータ室の隣は、視聴覚室だよね? ここも、どこかのクラブが使ってるんだっけ?」


 友人の問いかけに、ナミは、記憶をたどるように、視線をやや右上に向けながら、


「視聴覚室を使ってんのは、たしか……あ〜、映文研だね」


と、苦笑いをしながら答えた。

 ナミの返答に、リコも「あ〜、そうなんだ……」と友人以上の苦笑を浮かべる。

 普段は、クラスメートや学内の他の生徒に対して、偏見の目を向けないリコが、困ったような表情を浮かべているのには、理由があった。

 

 映像文化研究会――――――通称・映文研。


 視聴覚室を活動の拠点にしているという彼らは過去に、学内でのゲリラ撮影、大型ディスプレイでの動画の無断投影、自主的に開催した学内大食い選手権の無許可ライブ配信などを実行し、先生からも、生徒からも、(もちろん悪い意味で)一目置かれている存在だ。

 その、あまりに規格外の活動ぶりに、関成学院高等部かんせいがくいんこうとうぶでは、


「映文研には手を出すな!」


という共通認識が生まれていた。

 特に、アフロヘアーのような髪型が特長の高須(たかす)と、その相方(あいかた)的な存在であるヒョロ眼鏡の深津(ふかつ)のふたりは、学内でも、奇人・変人と認識されている。

 

「どうする? ここは、普通にスルー?」


 半笑いの表情を浮かべ、ナミは、わたしとリコに問いかける。


「いや……部屋の目の前まで来ておいて、いまさら、それはないでしょ?」

 

 そう言いながら、なかば、自棄っぱちな気持ちで、わたしは、視聴覚室のドアをノックした。


 ※


 9月26日 PM 3:45


 三軍男子の憂鬱〜深津寿太郎(ふかつじゅたろう)の場合〜

 

 連休が明けた月曜日の放課後――――――。


 貴重な三連休であるにもかかわらず、その期間中に、腹の底から「やってみよう!」と自信を持てるアイデアが思い浮かばなかったため、重たい気持ちを引きずったまま、オレは、三年一組の教室をあとにして、映文研の活動拠点である視聴覚室に向かう、その途中のこと。


「それで? なにか良いアイデアは浮かんだのか、寿太郎?」


 説明するまでもないと思うが、四日前と、まったく同じ口調でたずねて来るのは、映像文化研究会の副部長にして、《学内一の奇人》として知られる高須不知火(たかすしらぬい)だ。

 

「妙案が浮かんでいたら、こんな渋い表情になってねぇよ」


 仏頂面(ぶっちょうづら)で、不知火(しらぬい)に返答する。


「おいおい、冗談はよせよ……不景気なツラも、陰キャっぽい雰囲気も、寿太郎にとっては、いつものことだろうに?」


「不景気なツラかつ、陰キャな存在で悪かったな……自分でも自覚してるんだ。それ以上、触れてくれるな」


「そうか、そうか! 自覚があるのは結構なことじゃないか? それなら、あとは、改善点を探すのみだ」


 ヒトが、容姿――――――ではなく、映像企画案の行き詰まりについて、真剣に悩んでいるというのに、この調子だ……。

《学内一の奇人》という赤の他人の評価は、この際どうでもイイが、せめて、すべてのクリエイターに共通する『産みの苦しみ』に悩む友人に対する気づかいくらいは、見せてほしいものである。


 ()()()、空気を読まないことが人間関係の潤滑油だ、と考えている友人の言葉を聞き流していると、不知火(しらぬい)は、


「まぁ、そういうことなら、今日の活動は、企画会議だな。この段階で会議をやってて、納期に間に合うかは、大いに疑問だが……」

 

と言いながら、不敵にニヤリと笑う。


(こいつ、この状況を楽しんでやがる……)


 高須不知火(たかすしらぬい)というオトコの真性の変人ぶりにため息をつきつつ、


「とは言え、さすがに今日中にテーマを決めとかないと、後輩たちにも申し訳が立たんよな……」


と、つぶやいたところで、ちょうど、目的地に到着したので、オレは、視聴覚室のドアを開いた。

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