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夢巡り、天の川号と共に  作者: 笹原 蛍雪
第一章
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第三話 夢見る人とは

色あせた朱色の煉瓦で建てられた風車小屋にたどり着いた二人。

丘を登り終わった頃には、既に空は暗くなっていた。

星と月明かりが照らしていた小道の色は、次第に小窓から覗くランプの灯りへと移ろう。


「中に人が…?」

「そう。そして恐らくここの人間が」


二人が見てきた夢を作り上げている張本人。或いは、今回の夢を醒ませる対象者。

ミルは入り口であろうその木製の扉を軽くノックした。

ぎしぎしと建付けの悪いそれが開くと、少しやせっぽちの好青年が出てきた。


「…えーと。どちら様?」


顔が合うや否や、彼は少しあっけにとられたような表情で二人に話しかける。

ミルは少し考える動作をしたかと思うと、ただ一言「私達はあなたの夢の案内人です」と告げた。


「夢の、案内人。なるほどね」


意外にも、彼はその言葉をすんなり受け入れた。そんな様子に、リンは眉をひそめてミルの耳元に囁いた。


「ねぇミル。この人、夢見てるとかって分かってるんですか…?」

「訝しむのも分かるよ。でも、その方がボクも仕事がしやすい…それに、ほら」


ミルはそう言って、リンに向けていた視線を前の青年に戻した。

彼女も同じ様に前を見てみると、彼は二人の服装をまじまじと見つめている。

その反応はまさしく、初めて見るモノへの興味を示す時と同じだった。


「やはり、僕が見かけたことの無い服……夢の中なのに、あなたたちが僕の知らない人達だと言うことにも納得がいく……」

「え…ゆ、夢の中ですよ?」


リンがそう聞くと、青年は軽く頷いた。


「僕が夢で会った人は、全員僕が知ってる人だったからね……っと、とりあえず立ち話でもなんでしょう、中に入りません?」

「で、でも初めて会うんですし……しかも夢で、ですよ?!自分の知ってる人たちしかいないはずの」

「分かってます。だから、僕の夢を案内しに来たんでしょう?」


そう言って、青年は二人をその風車小屋へ招き入れた。


「ゆ、夢ってわかってて。でも記憶にない人がいるのにあんなにあっさり…」

「そういう人もいるんだ。あきらめている人とかは特にね。それに」


青年のあまりの理解の速さに付いていけないリンを見て、車掌は彼女の服を小さく指差して微笑んだ。


「こんな服装してる人。どんな夢でも、ボク達以外居ないから」


青年のあまりの理解の速さに付いていけないリンを見て、車掌は彼女の服を小さく指差して微笑んだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「早速僕のことについて、聞きたいことがあれば、なんでも聞いていいよ」


リンは彼の用意してくれた椅子に、行儀良く足を揃えて座った。そのまま、部屋の中を見回す。

その部屋は、たった一つのランプの明かりでも十分足りそうなくらいには狭かった。

そしてそこに置いてあるものは、どれもこれもリンの知らないものばかりだった。

しかし、壁に掛けてあるそれらの形状を見れば、彼女にはなんとなくそれが何かは予想できる。


「随分と…あっさり受け入れますね。では、まずはキミの名前についてお聞きしても?」


一方でミルは席に座らずに、腕を組んで小窓の側の壁に寄りかかった。


「僕の名前はヴェナーディだ。君たちの探している人であれば良いけど」


「あの……質問なんですが」


壁に掛けてあるそれらを見回しながら、リンが口を開く。


「どうしました?」

「ここに置いてあるものを見る限り……多分、狩人か何かですよね?」


指でそれらを指すと、彼は頷いた。


「そうだ。僕は魔物を狩る職をやっている」

「魔物……」


それはついさっき二人が聞いた単語。

この世界では忌み嫌われている存在。


「けれど、キミのことをいい人間だと言っている魔物がいた。ヴェナーディ」


ミルは彼の目の色を伺いながら、穏やかな声で言葉を返した。


「それは違う。選別をしているだけさ」

「選別?」


リンが聞き返す。


「そう、選別。僕達人間に危害を加えないなら、僕達からも危害を加える必要はない」


分かりきった風に彼はそう言った。

確かにそのことはミルやリンにも分かる。だがこの世界でその常識が通用しないとも、二人はあの魔物の言葉からなんとなく察していた。


「まあそうは言っても」


彼は椅子から立ち上がると、壁に掛けてある猟銃の磨かれたバレルに振れた。

まるで、昔から慣れ親しんだ相棒の様に。


「僕は、困ってるのを見たらほっとけないタチでね。この世界じゃ、全然弱い癖に」


軽く困った表情で笑いながら、彼はそう話す。

裏表のなさそうなその言葉を聞きながら、リンは彼の顔を聞き入るように見つめていた。


「だから、まあ僕の心の芯。みたいなものさ、誰かに親切にすることはさ」


毎回上手くはいかない、と彼は苦笑しながら言葉を続けた。ミルは静かに目を瞑りながら、ゆったりと息を吐くように話しかけた。


「それであの、ハーピー達は……」

「そうか、彼らと会ったのか!元気にしてたかい?」


青年はリンの方を振り向く。

リンが青年に、ここに来た経緯を含めて彼らのことを話すと、青年の顔は懐古の念が湧いた様な笑みで満たされた。

満足気に再び椅子に座りなおすと、青年は二人に昔話——彼らと会った時のことを話し始めた。


「そう、母親と会ったのが丁度、彼女がまだ小さい時。彼らの寿命は、魔物の中でも儚い方でね。七年前、僕がまだ見習いの時だ。彼女が巣から落ちているのを見かけて……そうだ、まさに話であったその大木だよ……」


深々と椅子に座り、揚々と語る彼の口に二人はじっと視線を当てた。すると、途中で彼がそれに気付いたのか、少し取り乱す様にして話を元に戻す。


「え、えっと、そんなことがあったんだ。うん、そう!……聞きたいのは僕の話だよね、ごめんごめん」

「は、はい」


キョトンとした顔で、リンは相槌を打った。


「で、キミの話。あなたがここに…夢に落ちた経緯を教えて欲しいんだ」


ミルの言葉に彼はしばらく沈黙する。

そんな様子にリンとミルが視線を合わせ、首をかしげたと同時に。


「すまないが、僕がここに来た経緯は…言いたくない」


それまでの口調とは異なり、彼が物々しく口を開いた。


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