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夢巡り、天の川号と共に  作者: 笹原 蛍雪
第一章
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外伝1 狩人の夢

彼は暗闇の中に意識を灯した。ただ、不快な気持ちはない。申し分ないほど、朗らかな気持ちの目覚めだ。


「ッ!?ヴェナーディ!!」

「……ミ、レア?」


ゆっくりと目を開けると、その眼前一杯に彼女の泣き顔があった。

目を覚ます為の朝の日差しにとって代わるかのように、ミレアの涙が彼の頬を伝い落ちる。


「た、ただいま」

「ただいまじゃない!バカっ!!」


嗚咽を漏らしながら、ぎゅっと彼女は彼の顔に抱きついた。


「うっぐ、苦しいって……」

「やめない、罰だから」

「っ、え?」

「私に嘘付いた、罰」

「わ、悪かったって」


なんとか両手で退かそうとするが、その力はとても強くなかなか離れない。


「酷いよ!嘘付いた所為で私があなたを殺しかけたじゃない!」

「……ありがとう、二度も助けてくれて」

「ばか……しかもそれ言うのは私の方だし」


そう言うと、彼女は抱きしめていた体を離した。

ゆっくりと上半身を起こし、辺りを見回す。それは、夢が覚めた場所と同じ切り株のすぐそばだった。


「ここは……」

「私たちが昔約束した場所。ここぐらいしか、アイツらから目を眩ませられなくて」

「…いや、ここでいいんだ。ここじゃないと言えないから」

「え?」


彼は体を起こし、足に付いた土を振り払いながら彼女の方を見た。

まだ不安そうに揺れるその瞳に、彼もまたじんわりと目頭が熱くなるのを感じていた。


「あの時の約束。すっぽかしてごめん」


誰かがそうしているのを見たこともないほど、彼は勢いよく頭を下げた。

そんな真剣さ、ミレアは懐かしいような嬉しいようなくすりとした笑いを溢した。


「そんなの、どうでも良いよ」

「分かってる。けど謝りたくて」

「ううん、もうどうでも良い。死んだと思っていたあなたに、今こうしてまた逢えたんだから」


その言葉で彼は顔を上げた。そうして見える彼女の瞳は、今度は違う意味で揺れているように見えた。嬉しさがこみ上げたときの瞳だった。

その瞳から涙が零れ落ちた瞬間、今度は正面から、狩人が彼女をぎゅっと抱き締める。肩に乗った腕に手を乗せて、彼もまた同じように涙を流した。

本当に欲しかった、ずっとかけていた温もりが、ようやく二人を繋げた。

そんな二人の胸元には、あの時のネックレスがしっかりと身につけられていた。




あの一件から月日が経った。その後はというと、二人は一緒に思い出から遠く離れた場所に暮らしていた。

逃げる様にして来たこの場所。だからなのか、道中懐かしい故郷を捨てる後ろめたさが、狩人の心に浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返した。


しかし、しばらくここに住んでからは、そんな風に気持ちが後引くことも無くなっていた。或いはその理由も、彼から言わせれば至ってシンプルなものだった。


想い出をちゃんと、ここに連れて来たから。

そう、いつかのネックレスと……そして彼のパートナーと共に。


「ねーヴェン、どこにいるの?」


小屋の外に置いてある飾りの丸椅子に腰を掛けながら、青年はぼんやりとその風景を眺めていた。

足音と同時に玄関の扉が開き、エプロン姿の少女が飛び出してくる。


「って、こんなとこに。ほら、朝ご飯冷めちゃうから食べましょ?」

「そうだね」


と言いつつも、青年の腰は相変わらず重い。

あまりの反応の悪さに、少女は彼の顔へと身を乗り出すようにして覗き込んだ。

視界いっぱいに広がるミレアの顔に、狩人は少しびくっとする。


「なーに考えてたの?」

「い、いやあの……ほら。昔さ、君に起こされるまで見てた夢を思い出してさ」


視線をずらしながら、彼は言った。


「あ~、あの時ね。それで、どんな夢見てたの」

「君がその夢の中の夢で出てきたよ」


彼がそう答えると、少女は少し考え、そして思わず吹き出した。


「ゆ、夢の中の夢って、ややっこしい…それで、夢の中の私はどうだった?」


狩人は拙い記憶を辿りながら、一先ずの言葉を返す。


「なんか夢で会った君は違かったなぁってね」

「えっ。どこが?」


探っていた記憶の節々を思い出しながらも、からかうように言った。


「んー。言葉遣いがね、優しかった」

「ちょっとそれ、どういうこと!!」

「ふふっ、冗談だって。ほら、それより一緒にご飯食べようよ」

「む〜……まーたいい感じに流された気がする!」


むすっとしながらも、笑みを堪えた顔で彼女は家に戻った。その後ろをついていくように、彼も立ち上がる。家に入る前に後ろを振り返り、もう一度空を見上げた。


夢なのに鮮明に彼の脳裏に思い浮かぶ記憶。

夢が醒める前の、自分に決心がついた時の空を思い出しながら。


「二人とも。ありがとう」


そう、小さな声で呟いた。



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