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夢巡り、天の川号と共に  作者: 笹原 蛍雪
第一章
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第八話 偽物の願い

「感謝してるよ、ミレアさん」


狩人が居た小屋の外壁に寄りかかりながら、ミルは隣の少女に話し掛けた。

赤髪の彼女はゆっくりと首を横に振った。


「それは、私の方です。夢の中の私に会わせるという選択肢、そのきっかけを与えてくれたのはあなたですから」

「いいや、君に会わせようとしたのはボクじゃない。リンだからね。ボクは何もしてないさ」


二人ともが、リンたちの向かった方向を見ていた。


「でも会うことを許してくれた、私なんかに会わせてくれることを」

「……むしろ、彼を留まらせず覚まさせようとしてくれたことに感謝したいよ」


車掌は帽子の位置を直しながら、礼をするかの様に頭を下げた。


「もちろん。私だって彼と一緒にいたいですよ?でも」

「彼の心に後悔を生む、そして本物の自分に顔が立たなくなる。なんて、普通は思わないさ」

「え?」


彼女は意外そうにミルの方を振り向いた。


「夢はあくまで夢。そしてそれは彼の逃げ先、現実逃避の先、そして理想的な桃源郷。もしあの時、君が留まるように語りかければ、彼は一生醒めずに彷徨うだけだったの

かもしれない」


車掌の言葉に、偽物の少女は下を俯き押し黙る。


「ましてや、あなたは彼が作った妄想だ。彼のなりたい様に、あなたもなりたいはず」


そう、彼が願う事は目を覚まさぬ事。ならば寧ろ、彼の理想である偽物の気持ちは本当の思いと異なる。

それでも彼女は、空を見上げながらしっかりと言葉を返した。


「そうかもしれません。でも、私は彼と私の過去を知る私。そしてあなたたちという存在を知る私。だから、敢えてあんなこと言ったのかもしれません」


竜の子は、さっきまで見ていた方向に振り向き直し、自分の言葉を噛みしめる様にゆっくりと頷いた。


「…ふふっ」

「ん?何かおかしい、ですか?」

「いやいや、彼の過去を視た時の本物のミレアさんと違うなと思ってね」


そう言うとミルはいつものように目を閉じ、腕を組み直した。


「そうですか?」

「彼も目を覚ましたら苦労するかもね」

「そんなこと!……ちょっとあるかも」

「かも?っと、そろそろお別れですか」


竜の子の周りに、光の粒が現れる。その体も次第に景色を透過するように薄くなっていった。輪郭も、容姿も、何もかも褪めていく__彼の夢がそうなるにつれて。


「そうみたいですね」


それでも、彼女は満足している風に言った。


「色々とお世話になりました」

「世話したさ。仕事だもの」


その返しに彼女はクスッと笑った。手を振ると、そのまま空に誘われるように消えていった。


「……後は頼んだよ」


偽物の少女がいた場所に向けてボソッと呟く。それは夢を醒ました彼に向けた言葉なのか。はたまた、現実で彼を待つ少女に向けた言葉なのか。

その答えは示さないまま、ミルはリンのいる方向に歩いていった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


彼を見送ったリンと合流しての帰り道。

深い森を抜けると、見覚えのある列車がお出迎えしていた。それを目指しながら、ふとリンは声を掛ける。


「ちゃんと、ごめんなさいって言えたんですかね?」

「さぁね?」


二人はこの夢の残りの時間を最後まで堪能するように、ゆっくりと歩いていた。


「でも、あの狩人はもう迷わないと思うよ。きっと」


思いを伝えられるなら、とミルは苦笑いで付け足した。

狩人が見せたこの世界もあとちょっとで消えてしまう。何もなくただ真っ白な地平線の裏紙に投影された彼の夢は、もう少しで。

天の川号の側まで来ると、リンはゆっくり周りを見渡した。

まだ完全には消えていないその世界が、淡い色合いを彼女の瞳に映す。


「夢が醒めるまでって、あっけないですね」

「あぁ、そうだね」

「なんかちょっと寂しいような、そんな気がします」


そう言って俯くリンの肩に、ミルはそっと手を置いた。

そしてまた、初めて会うときのような優しい声で。


「一期一会、それがこの仕事だよ。リン」


車掌も同じ空を見上げる。

一方は初めての寂しさを感じながら、その幸せを祈り。

一方はいつも通りの新鮮さを感じながら、自分の言葉に、彼女と会うまでの後悔を覚え。

二人はその世界を後にした。

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