再出発
「うう……?」
…どうやら、私は気を失っていたみたいだ。
目を開ければ、そこには輝く照明がある。横を見れば、窓があって、その奥は真っ暗だ。
…外の景色を見るに、ここはノウスギアの病院か…。ということは…今の私って…。
今の状況を知るために、私は身体を起こした。痛みというものは特に無く、不思議と身体は軽かった。
…こんなに軽いと、自分の身体が心配になるが、流石に包帯が巻かれていた。
「おはよう、ようやく目が覚めたようだな…。」
目覚めて間もない私に、誰かが声をかけて来た。とても馴染みのある声で、最近共に戦ったあの男の声がする…。もしや…!
「よう、レイ!お前、随分寝ていたな…!」
私が声のあった方を見ると、そこには腕を組みながら立つ、デンジの姿があった。彼の姿をマジマジと見ると、身体に一切の傷が無いのが分かる。
「で、デンジ…!身体は大丈夫なのか…⁉︎」
私がデンジにそう聞くと、デンジは頭をボリボリと掻きながら言った。
「当然だ…!何せ、あの時から一週も経ったからな!」
「…い、一週間⁉︎」
私はどうやら、一週間も眠っていたようだ。道理で身体が軽いわけだ。
デンジによると、あの時、私をノウスギアまで運んだのはデンジで、そこから私達は治療を受けたらしい。このノウスギアには病院自体はあるが、そこにいる魔術師は回復魔法を初級と中級しか習得出来ていないらしく、私達の細かな傷は治せたが、私の腕や脚は修復出来なかったようだ。ちなみに上級魔法を治せる魔術師はいるようだが、今はノウスギアを離れ、北の方の魔王領にいるらしい。
「んでこの一週間、俺は何をやっていたかというとな、相変わらず依頼を受けていたぜ。少しでも稼ぎたいからな!」
…私が眠っている間にも、デンジは頑張っていたようだ。本当に、デンジには申し訳ないことをしてしまった。
「…これが俺の稼いだ分だ!これぐらいなら、明日の装備代にはなるだろう!」
「…⁉︎」
デンジからお金の入った袋を受け取り、中を覗くと、大量のフォールコイン(この世界の通貨…1Fは日本通貨で一万円)が入っていた。
「す、凄い…⁉︎」
「あはは…それはオーガキングの討伐分も含めてだから、実際はそれの半分だな。」
あのオーガキングを討伐した分が半分と言うが、その分をこの一週間で稼ぐとは…。デンジはやはり凄い…。
「さて、医者からは明日退院出来ると聞いたぜ?だから、退院したら、そのまま約束の装備を取りに向かおうぜ?」
…そっか、一週間丸々寝ていたから、取りに行くのが明日なのか。約束の次の日に意識を失ったから、私にとっては昨日に思える…。
「うん…。」
私は小さく頷いた。
「…どうした?」
「いや、その…デンジが色々やってくれたから、も、申し訳ないなぁ…と思って…。」
「ああ、そんなことか…。」
デンジは「なるほどなぁ…」と言って頷くと、突然、ベッドの上に座った。
「…別に、俺はただレイに返すために色々やってきただけだ。レイの目的が達成出来るまで、死なれちゃ困るからな…!」
デンジはそう言うと、また立ち上がり、病室の扉を開けた。
「それじゃあ、また明日迎えに行くから、安静にしてろよ。」
「うん、今日はありがとう…。」
デンジは振り返り、こちらを見て手を振る。そしてそのまま去っていった。
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次の日、私は退院し、デンジと共に約束の店に向かった。
店主は私の脚も無くなったことを知っており、何と魔力で動かす機械製の左腕と右脚を用意してくれていた。
私はそれを取り付け、そのまま新装備を着用した。
「お、お待たせ…。」
「おお〜‼︎」
私は更衣を済ませ、デンジや店主にお披露目した。
動き易さとかも考え、前回みたいに軽装にした。例えるのなら、盗賊職みたいなものか。
胸や腹の出る露出度の高い布の服、その上に胸鎧と外套。ここまでは前回とはそこまで変わらない。しかし、スカートから軽い素材のショートパンツになったり、鉄の剣からデンジの使っているような異世界の剣になったりなど、細かい所も変わっている。中でも、変わっている所は…!
「いや〜まさか、貴方から機械化した腕から鎖を出す機械を作れと言われた時はビックリしたぜ!」
…そう、機械化した腕に取り付けた鎖を発射する装置である。私は<覚醒>を取得したが、魔法を使うことが出来ない。故に遠距離や集団相手に不利だ。そこで私は鎖を発射する装置を導入することで、魔法の代わりにしたり、鞭として広範囲攻撃を仕掛けようと考えたのだ。もちろん鎖なので相手の身体の一部に巻きつけ、相手を引っ張って近づけさせることも出来るし、逆に鎖を巻き戻す力で相手に近づくことだって可能だ。
最初、店主はこの装置について「難しいな…」と言っていたが、装置の案を細かく説明していく内に「やってみよう…!」と言ってくれた。その結果、この装置が出来上がったのだ。もう、店主には感謝でいっぱいだ。
「俺も最初聞いた時は驚いた…。あれほど断っていたはずのレイが、そんな注文をするとは思わなかったからな…。」
「…あんなに催促してくるもの…。言葉に甘えただけよ…。」
私はそう言いつつも、機械化した腕を上げ、手首辺りに取り付けられた装置を撫でる。
「…とりあえず、これでレイさんの装備も整ったぜ!」
「はい、ありがとうございます‼︎」
私は満面な笑みを浮かべている店主に、何度も何度もお辞儀をする。その横でデンジもニコニコと笑っていた…。
店主に挨拶を済ませ、私は店を出た。出た瞬間、夏の暑さが押し寄せてくる…。五月承週光の日…つまり元いた世界では六月末〜七月始めぐらいだから当然か…。
「そういえば、レイ?レイは剣術大会に出るんだっけ…?」
デンジが私に質問した。ここで質問されるとは思わなかったので、私は頷くことしか出来なかった。
「そうか…。だったら、提案したいことがある…‼︎」
「…提案?」
「ああ…‼︎」
デンジは私の腕を掴むと、真剣な表情で言った。
「その…今日から剣術大会までの間、俺がレイを鍛えるってのはどうだ…?レイはこの世界の戦闘にまだ慣れていないからな。今まで一人で戦ってきた俺が鍛えて、剣術大会でも優勝できるようにするぜ!」
…確かに、私はまだまだこの世界に不慣れだ。だから戦闘経験豊富なデンジに鍛えてもらった方が良い。…ここは、デンジにお願いするべきだろう。
「…じゃあお願いします…‼︎私にこの世界の戦い方を教えて下さい…‼︎」
「分かった…‼︎俺の鍛錬は厳しいからな!覚悟してくれよ!」
デンジはニヤッと笑うと、私を連れて街を駆けていく…。私もそのデンジの背を見ながら、街の中を共に駆ける。
この世界に来てからはまだ一ヶ月ちょっと…。まだまだ分からないことでいっぱいだが、相棒を見つけ、そしてその相棒と目指す目標も見つけた。もしかしたら彼について行けば、私の最初の大きな目標である彼にも会えるかもしれない。そう思うと、ワクワクしてきた…!
私が主人公の外伝はこれで終わり…。だけど私とデンジの冒険はまだ始まったばかりだ。果たして、目的に達するのはいつだろうか。それはまだ、私達にもあのアイリス様も分からない…。
〜銀髪の少女の異世界転生、完〜