プロローグ 新たな主人公の誕生
「…ん?こ、ここは…?」
私は暗い場所で目覚めた。周りは何も無く、何処かは分からない。
「げっ…⁉︎私、裸じゃん…⁉︎」
気づけば私は裸で立っていた。下を見ると、大きく膨らんだ胸が、私の視界を遮る。
「よくお父様から言われたよね…女のお前は一族の恥だ、てね…。」
私は胸に手を当てる。
一族の恥と言われ、私は努力をした。一族皆が習っていた剣術もやり、学園の成績でも一位をとった。だけど認められなかった…。
そんな時に出会ったのが、黒髪の気弱な少年だった…。彼は優しく、いつもピリピリしていた私にとって、唯一の友達だった…。
そうだ…‼︎私は彼を庇って死んだんだ…‼︎彼は大丈夫かな…。
ボコボコにされて死んだはずだけど…身体に傷は一つも無い。一体これはどういう状況…?
「目覚めたようね…。」
…今、声が聞こえたような…?
「気のせいでは無いわ。後ろを向きなさい。」
私はその声の指示に従い、後ろに向き直る。
向き直った先には鮮やかな銀髪を持ち、白い服を着た女が立っていた。
…綺麗。私のその人への第一印象はそれだった。
「私は女神。友を庇い、死んでしまった貴方をここへ連れて来たのよ。」
め、女神…‼︎道理で美しいわけだ…。
私はその女神様に向かって土下座をする。これは昔から、一族の長であるお父様に向かっていた日課だ。偉い者には頭を下げる。それはずっと教えられて来たのだ。
「顔を上げなさい。私はそんなに偉い訳では無いのよ…。今回はね、貴方にお願いをしようと思って喚んだのよ。」
私にお願いがある…?他の誰でも無く、私に…?
私が顔を上げると、女神様は微笑んだ。
「そう、貴方にお願いがあるの。友を守れるほどの強い意志のある貴方を。」
…お父様には認められなかったけど、どうやら女神様には認められたらしい。…嬉しい。
「で、その願いとは一体…?」
私が女神様に向けて聞いてみると、女神様はコクリと頷き、魔法か何かでテレビみたいな物を出現させた。
しばらく待っていると、テレビの画面に映像が映し出された。
《"元"魔王アルガァ=ナイト、貴様を投獄と処す!》
画面内ではボロボロになった黒髪の男が、武装した者達に縛り上げられていた。
…魔王。これは私の生きていた世界では無さそうだ。しかも、この魔王…何処かこの女神様に似ている…?
「これはある世界で起こった、哀しき事件です。人間達と友好な繋がりを求めていた魔王が、突如勇者を名乗った、この人間に化けた悪魔族に殺されたのです。これを期に、世界は闇に包まれました…。」
悪魔族…名前からして良い印象は持てない…。
「しかしその十数年後、殺された魔王は転生し、蘇りました。その魔王は15となり、勇者…いや、現魔王を倒すために少し前に旅立ちました。この少しの間にその魔王は勇者になり、仲間を沢山集めました。」
よ、蘇って勇者になった…⁉︎彼は凄い人だな…。
「…そこで貴方にお願いがあります。この勇者となった魔王の仲間になり、共に魔王テイム=ハザードを倒して欲しいのです…‼︎」
…私が魔王を倒す…⁉︎そ、そんなの出来るわけがない…。
「…実はこの勇者の仲間には一人、貴方の世界にいた人物がいるのです…。」
わ、私の世界にいた人物…?
「その人物の名は、エイル=ワークス。今はイルスと名乗っています。彼は貴方の世界から転生して来たのです。その世界での名前は…‼︎」
私はその名前を聞いた瞬間、目を見開いてしまった。何せ、その子の名前は、私が庇った友達の名前と同じだったのだ。
…偶然なのか、それとも必然なのか。ともかく、その子は他世界で頑張っているんだ…‼︎
「…どうでしょうか?やって頂けますか…?」
…この話を聞かなかったら、私は断っていただろう。だけど、今の話を聞いてたら、断りたくないと思った。
私は私の話を聞いてくれて、尚且つ友達でいてくれた彼が好きだった。勇者に協力すれば彼の助けにもなる、そう考えると、私には断るメリットが無くなったのだ。
「分かりました…‼︎女神様、私は貴方の依頼を受けます…‼︎」
女神様は「良かった…‼︎」と言うと、安心したのか、へたり込んでしまった。
「…これでやっと、世界が救われる…。お兄様…もう少しだけお待ちください…‼︎」
女神様はそう言って立ち上がると、私の肩に触れた。
「はあっ!」
女神様が短く気合を発すると、魔法の効果で私の姿が変わった。
白い布の服と黒いスカートが現れ、服の上に胸鎧が装着される。
「…女神様…?」
「…はい?」
「…私の服、結構際どい気がするけど…?」
そうなのだ、女神様に着させられた物はかなりの露出度を誇っていたのだ。
まず、私の胸元が大きく曝け出している。これではまるで魅せているように見えてしまう。胸鎧を着ていても殆ど変わらない。
そしてスカート。これもかなり短い。今はタイツを履いているから大丈夫だが、履いてなかったらかなり危なかっただろう。
「…そ、そんなこと無いですよ。もし、気になるようでしたら、こちらの外套を羽織って下さい。」
私は女神様から外套を受け取り、早速羽織った。
一応、際どい所は隠れたが、やはり出っ張っている大きな胸は目立ってしまう。
「…元々、その服は私が持っていた物の最後の一枚です。ですので、服を替えたかったら自分で買って下さい…。」
なるほど、女神様の物か。なら、仕方ないか。
私は服に関しては諦めることにした。
その後、私は旅に必要な物を女神様から受け取った。そして遂に、私がこの世界に向かう時が来た。
「女神様、様々な物資をありがとうございます…。」
「いえいえ、私は貴方にお願いした立場ですから、これくらいは当然です。」
女神様は左右に首を振る。
「そうだ、最後にもう一つお願いをしても良いでしょうか?」
「は、はい…?何ですか?」
私は首を傾げながら聞く。
「勇者アルガァ=ナイト…いや、私のお兄様に伝言を頼みたいのです。」
お兄様…ということはこの女神様は元魔族?
「お兄様には『私に手伝えることがあったら、ノウスギア北にある祠に来てください』と伝えてください。」
女神様は深いお辞儀を私に向けて行う。私もつられて浅くだがお辞儀をした。
その直後、私の身体が光を放ち始めた。転移魔法の効果だろう。
「私は貴方をこの場から見ています。訳あってここから出られないのですが、貴方の活躍を期待しています。」
女神様は私に手を振る。
私はそんな女神様にもう一度お辞儀をした。
「貴方…御守零の無事を私…アイリス=ナイトが心から祈っております…。行ってらっしゃい…‼︎」
私は女神様に見守られながら、私が愛した人がいる新たな世界へ旅立った…。