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第5章 高校生活と初デート



 約束の日。誠は約束した高峯駅に少し早めに到着してサクラを待っていた。


 時間はもうすぐ11時をまわるところ。


「宗方くん…」


 誠が暇潰しに本を読んでいると後ろから声をかけられた。サクラだ。誠は本をしまい振り返る。


「ようやく来たか…遅いぞ!」


「ごめんなさい…ってまだ11時になってません!」


 わかりにくい誠のからかいにも真面目に反応するサクラは、相変わらず髪はぼさぼさだったが、彼女なりにオシャレをしたらしい。清潔感の感じられる長袖の黒いワンピ―スだった。


「とりあえず予約までに時間があるから適当に時間潰すぞ」


「スルーされました…予約ってなんですか?」


「それはな、今日はお前のイメージチェンジだ」


「イメージチェンジ?」


 サクラはキョトンとする。


「そうだ。そのぼさぼさを切るぞ」


「髪をですか?でもなにも予約とかしてないですよ?」


「それは大丈夫だ。とりあえずどこかでご飯でも食べるか?」


「は、はい…」


「なにか食べたいものはあるか?」


「いえ…わたしこういうのはじめてなのでどこに行けばいいのか…」


 サクラは戸惑っている。


「そうか…。無理を言ったのは俺だからな…。単純に今食べたいものを言ってくれていいぞ。その方が助かる」


「ありがとうございます…」


「…それで、本当になにか食べたいものはないのか?」


「それでは…イタリアンがいいです…ひとりではお店に入りづらいので…」


「そうか…それならあそこでいいか?」


 誠は指を指す。そこには、レンガ調のオシャレなイタリアン料理のお店があった。


「はい!」


 店内はシックで落ち着く雰囲気だった。高校生が入るには少し背伸びをしすぎたかもしれない。

 けれど感じのいい人の良さそうな店員に席に案内してもらったことで肩の力も抜け少し安堵し、二人は席に着いた。

 

「宗方くんはなに食べるんですか?」


「俺は鮭の海鮮パスタ。鮭大盛にしてもらおう」


「宗方くん…それはさすがに出来ないと思いますよ…」


「なんだ…と」


「いやそんな世界の終わりみたいな顔で言われても…。宗方くんってそんな顔もできるんですね」


「お前は俺をなんだと思ってるんだ?お前こそ、ちゃんと笑えてるじゃないか」


「そりゃ笑えますよ…人間ですから」


「そうだったのか…感情を中途半端に備わった機械かと思ってた…」


「宗方くん…酷すぎます!」


「まぁ注文決まったなら呼ぶぞ?」


 そのあと二人はご飯を食べながら、会話をする。口数の多い二人ではないので無言も多いがサクラには居心地の悪い空間ではなかった。


 ご飯も食べ終わり、まだ時間があるので次はサクラの希望で本屋に行くことになった。


「なかなかおいしい店だったな!」


「そうですね!わたしのたらこスパも美味しかったです!」


 美味しい料理のおかげもあり、お店に入る前の緊張しきった表情がすっかり緩んでいる。


「あぁ。友達が出来たら、また食べにいったらいいさ」


「は、はい…。……そうですね」


 誠はなにとはなしにそう伝えたが、それを受けたサクラの表情は少し曇っていた。

 しかしそれは誠には気づかない程度のもので、そのまま歩みは進み、目的の店へとたどり着く。


「おい…着いたぞ?」


「はい!」


 街の大きい本屋に入ると、店内は所狭しと本の世界に溢れていた。


「なにか欲しいものあるのか?」


「いえ!特にはないんですけど、わたし本屋さん好きなんです…いろんな世界があるみたいで…」


「それはすこしわかる気がするな…俺もここでHowto本買うからな」


「宗方くんの本ここで買ったんですか?あの貸してくれた本」


「あれはネットで買った!読んだか?」


「え、えぇ。まぁ読みました…」


「参考になっただろ?」


 表情は変わらないものの、誠はあきらかに目を輝かせている。


「そうですね、多少は…」


 サクラは誠を傷つけないで済むような返答がなにかに困り、やんわりとごまかした。


「そうかそうか」

 

 誠は鈍い。サクラを困らせたことなど露知らず満足げに頷くのだった。


「あっ!小説のところ見てもいいですか?」


 サクラは誠への罪悪感から話を反らした。


「おう!俺はトイレ行ってくるからそこらへんで待っていろ」


「はい!わかりました!」


 誠は機嫌がよさそうに軽い足取りで店の奥のトイレへと向かっていく。


 その背中を見送りサクラがいろいろな小説を漁っていると、しばらくして後ろから声がした。


「なにかいいのあったのか?」


「わっ!びっくりしました…急に後ろに立たないでくださいよう…」


「お前は殺し屋かなにかなのか?」


「ちがいます!」


「ところでいいのあったのか?」


「いいえ、いろいろあって決めれなくて…ひとまずこの小説買おうかなって…」


「どんなやつだ?友達の作り方か?」


「違います!恋愛小説ですよ…」


「おまえも好きなんだな」


「はい!なんだか憧れちゃいますよね…」


 誠と恋愛小説を話題にするには恥ずかしいらしく、サクラは少し照れている。


「乙女みたいだな…」


「これでも乙女ですよぉ」


「はいはい…いいから買ってこい!」


「わかりました…」


 軽く流されたことにサクラはどこか釈然としない気持ちでレジまで向かっていった。

 小説を購入して戻ってきたサクラに誠が話しかける。


「よし、もうそろいい時間だしいくか」


「行くってどこにですか?」


「なに言ってる?美容室だ!」


「えぇー予約取ってくれてるんですか?」


「あぁ。うちの母親が美容師で、店やってるんだ」


「いきなりの宗方くんのご家族との対面ですか…」


「まぁ、そんな緊張するな!時間に遅れるからいくぞ!」


「は、はい!」


 二人は本屋から出ると駅の方向に向かう。

 駅から歩いてすぐのところに早苗の店はあった。

 建物にはヘアーサロン Seedlingsと書いていた。


「ここが宗方くんのお母さんのお店なんですね」


「そうだ!そういや髪の長さなんだが…今回自分を変えるために、短くするのはどうだ?」


「短くですか?どれくらいですか?」


「そうだな肩に掛かるくらいはどうだ?」


 誠の提案に、もともと特に目的があって髪を長くしていたわけではないサクラに抵抗はなかった。しかしサクラはどこか不安そうな表情をしている。


「いいですけど…似合うかどうか…」


「お前はただでさえ暗いからな…それくらいしないと印象が変わらないと思うんだ」


 誠の意図を知ったサクラは受け入れる。


「わかりました…でも短くしたら宗方くんにひとつお願いしたいんですけどいいですか?」


「あぁ、俺に出来ることなら検討しよう」


「わ、わたしのこと…お前じゃなくてサクラって呼んでください…」


「そんなことでいいのか?」


 思ってもみないサクラの条件に誠は内心驚くも、拒否する理由もない。


「はい…お願いします!」


「わかった…それくらいならいいぞ」


「わぁ!ありがとうございます!」


「それじゃ入るぞ?」


「はい!」


 お店の扉を開けると女性の声がした。


「いらっしゃいませぇ…って誠ね!」


 母親の早苗が息子だとわかり、愛想のいい接客用の顔から母親の顔へ表情を変える。


「おう!昨日言ってた通り、連れてきた!」


「こ、こんにちは!」


「あらっ!かわいい。なになに?誠の彼女?」


 早苗がそういうとサクラは赤くなる。


「ち、ち、ち、違います!」


「母さん!サクラはクラスメイトだ!」


「あらっ、そうなの?残念…。ついに息子に春が来たのかと思ったのに…」


「はいはい…こいつの髪を切ってやってくれ」


「仕方ないわね!サクラちゃんでいいのかしら?こっちに座って!」


「は、はい!木村サクラっていいます!今日はよろしくお願いします!」


「はい!よろしくね!こっちにいらっしゃい」


 早苗はサクラの髪を触って髪質を確認する。


「すこし痛んでるわね…トリートメントとかもしましょ!髪の長さはどうする?」


「は、はい!髪は肩にかかるくらいにしてください!」


「そんなに切るの?」


「はい!自分を変えたくて!」


「そう!了解!可愛くしてあげる」


「ありがとうございます!でもわたしそんな手持ちなくて…」


「あぁいいわよ!カットモデルってことで!息子のお友達にお金なんて頂けないわ」


「あ、ありがとうございます…」


「いいえ!これからもあの愚息をよろしくね」


「はい!こちらこそ!」


 二人は笑顔でそういうと早苗はカットを始めた。


 そうしてカットが始まって1時間ほど、その間誠は待ち合い室で寝ていた。


「宗方くん…」


「んっ?終わったのか?」


 誠が寝起きの目を擦りながら目の前を見ると、髪の毛がぼさぼさで目立たなかった女の子の変わりようにびっくりした。


「おまえは…だれだ?」


「ひどいですよう…サクラです!」


「すまん…あまり変わってて混乱した」


 誠がびっくりするのは当然だった。


 髪を肩まで切っただけで、目の前には紛れもない美少女が立っていたのだから…


 地味で影も薄いせいで気づかなかったが、顔のパーツは整ったらしい。あまり人の美醜に興味がない誠でも、ビフォーアフターの代わりように内心驚いた。


 艶がなかった髪の毛も、艶を取り戻し所々跳ねて目立っていた髪も今はナチュラルにセットされていた。


「宗方くん…ど、どうかな?」


「あぁよく似合っているよ!これなら明るくあいさつも出来そうだな」


「良かったぁ…」


「誠どうよ?かわいいでしょ?しばらく母さんに顔があがらないわね~?」


「そのうざ絡みが無ければな!でもありがとう!」


「うざ絡みぃ?1ヶ月日の丸弁当にするわよ?」


「すいません!母上のことは心から尊敬しております」


 誠は90度で丁寧にお辞儀をした。


「最初っからそうしなさい!」


 サクラは誠の意外な一面を知ってまたほっこりとしていた。


「それにしても、ここまでサクラちゃんが化けるとはねぇ!学校いったらモテるよ!」


「い、いいえ!わたしなんて」


 顔を赤くしながら手を横にふる姿が誠には小動物みたいに見えた。

 そうして髪をカットした二人は歩いて帰っていた。


「これで月曜からまた友達づくりに励めるな」


「はい!そうですね!わたし、すこし自信がついた気がします…」


「あぁそれは良かった!でもまだこれからだぞ?」


「わかってますよう」


 可愛らしく膨れているサクラの姿は、暗くて地味な女の子ではなく普通の可愛い女の子だった。


「あっ、そうだ。これサクラにやる」


 誠は鞄から小さな紙袋を出すとサクラに渡した。


「えっ。これなんですか?」


「新しい自分になった記念品だ。要らなかったら捨てろ」


「えっ!いつの間に?開けてもいいですか?」


「俺がトイレにいった時に買った…開けていいぞ?」


 サクラは小包をあけると先端に本の飾りが付いてるヘアピンだった。


「わぁ…かわいい!これ頂いていいんですか?」


 サクラは目を輝かしながら言う。


「あぁ。でも要らないなら返せ」


「嫌です!また宗方くんはいじわる言う!大事に使わせていただきます!今つけていいですか?」


「サクラの物だから好きにしろ」


「宗方くん本当にありがとうございます!」


 サクラはもらったヘアピンを髪につけた。


「宗方くん!どうですか?似合います?」


「さぁどうだろうな」


 誠はサクラのほうを見ないで言った。


「えぇー!ちゃんと言ってくださいよ!」


「知らん!さぁ帰るぞ!」


「はぁい…」


 言ってはくれなかったが誠の耳が赤くなっていることにサクラは気付いた。


 気付いたサクラもつられるように赤くなる。


 そして二人の初めてのお出掛けは終わった。



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