第1章 高校生活のスタート
今年もまた春がやってきた。
よく晴れた朝、外にはまだ冷たい風が吹く。黒髪に眼鏡の男、宗方 誠は部屋の中にいた。
真新しい高校の制服に袖を通した姿は、真面目な印象を与える部類に入るだろう。
この高校デビューとは無縁な男は、これまで運動も勉強もそつなくこなしてきた。
ただ1つ問題をあげるとしたら、彼は極端に人付き合いが苦手だった。
人付き合いが苦手と一言で言ってしまえばそれまでだが、詳しく言うと人の気持ちを理解するという能力が欠いているのだった。言葉をオブラートに包むということをしないため、誤解されることが多かった。
一通り支度を終えた誠は気だるそうに重い足取りでリビングまで降りた。
「ふぁ、ねむいな…」
「誠!おはよう!早く顔でも洗っといで」
母親の宗方 早苗がキッチンで朝御飯を作りながら声をかける。
黒髪ロングで幼い顔付きの彼女はとても高校生と中学生の子供がいるようには見えない。
「はいはい…おはよう」
「お兄ちゃん!朝御飯冷めるから早く洗ってきてよ!」
「先に食べてればいいだろ」
「いいから早く!」
すでにリビングの食卓についてるのは、妹の宗方 葵。黒髪のショートで顔は整っており、顔付きは母親の早苗に似ていた。
葵は今日から中学3年になる。偏差値も高く人気もある誠と同じ高校に通うため春休みも受験勉強に専念していた。
「あおい、顔洗ってきたから早く飯食うぞ!」
「誰のせいだか!」
「はいはい…おっ!この塩鮭旨いな!」
「まったくもう!そういやお兄ちゃん今日勉強教えてよ!」
「えっ?嫌だよ?」
「なんで!教えてよ?」
「はいはい!気が向いたらな、そんなことより早く食わないと遅刻するぞ?」
葵は文句を言いながら拗ねていたが、出発時刻が迫っているため、二人は朝御飯を急いでかけ込み準備して家を出た。
葵の中学と誠の高校は、途中までは同じ道だ。
「お兄ちゃん学校では愛想よくするんだよ?ただでさえ目付き悪いんだから」
「余計なお世話だ!」
「友達作らないと中学みたいに孤立しちゃうんだからね?」
葵は自分の兄が中学3年間孤立していたのを実は気にしていたことを知っている。優しいが自分のポリシーを曲げない
頑固さが心配だった。
「馬鹿かお前は。気の合わない奴とつるんでなにが楽しい?」
そんな妹の心配は兄には全く伝わっていないようで、葵は頬を膨らませなから言った。
「そんなこといってるから浮くんだよ?とにかく愛想よくね!」
「はいはい!気が向いたらな」
「もー!またそんなこといって!」
「葵、中学そっちだろ!早く行ったほうがいいぞ、ほら?」
誠は携帯の時計を葵に見せて急かした。
「あっ、やば!じゃぁね!」
「はいよ!」
誠は慌てて駆け出した葵に気だるそうに手をあげて見送る。
「俺もいかないとな」
葵と別れしばらく歩くと新しい学舎、新高峯高等学校が見えてきた。
去年建て替えたばかりで、校舎が新しい学校だ。そのため合格率は例年以上の倍率だった。
しかし誠がこの高校を選んだ理由はただ家から近いと言うだけで受けたものだった。その件では葵から動機が不純だとかズルイとかちくちくと言われている。
校門には新入生を迎えるべく、先生方が挨拶をしている。
上履きに履き替え、目の前の掲示板には各クラス割が貼られていた。
「俺はCクラスか」
誠と同じく新入生がぞろぞろと自分のクラスを確認して教室に向かっていく。
誠が教室につくと、今度は座席表が貼られていた。
誠は自分の席を確認し、窓際の一番後ろの席につく。
誠は席につくとおもむろに鞄から小説を取りだし、まるで話しかけるなと言わんばかりに読書に集中しだした。
しばらく小説を読んでると気づいた頃にはガラガラだった座席も埋まり、担任の先生がすでに黒板の前にいた。
「はい、新入生の諸君、改めて入学おめでとう。この度担任となった三枝 まどか(サエグサ マドカ)だ!1年間よろしくな!」
クラスではちらほらと「よろしくおねがいします」と声が聞こえる中、三枝先生は話を続けた。
「今日は入学式と軽く自己紹介をして終わりだからな。これを期にクラスの交流をしてくれることを祈るよ」
誠は三枝先生の言葉を半分聞き流しながら窓の外を見ていた。
クラスメイトをみると、いろいろな人たちがいた。
悪ぶって茶髪にしてきてるやつや、見た目からアニメに心酔してそうなやつなど、バリエーション豊かだった。
ふと隣をみると髪は腰に届きそうなほど長くぼさぼさの黒髪で、それ以外は取り立てて特徴のない地味な子がちょこんと席に座っている。
「これなら煩くならなそうだな」
誠はぼそりと誰にも聞こえないように呟いた。
この時までは彼はそう思っていた、この座席の出会いで彼の学校生活が大きく変わることになろうとは夢にも思わなかった。
入学式がそつなく終わりクラスに戻って席につく。
すでにコミュニケーション能力に長けた人なら仲がいい人が出来つつあった。
一方誠は仲良くする気がないのか、空いた時間には小説を読む。
そんな見えない壁を張っている彼に誰かが話しかけるということはなかった。
三枝先生も教壇につくと、また話始めた。
「入学式お疲れ様!今度は軽い自己紹介をしてもらう!座席順にいくから考えておけよ!」
こうしてはじまった自己紹介、笑いをとる人や、真面目に答えたりして徐々に進んでいく。
ついには隣の席まで順番がまわってきた。
隣の地味な女の子が席を立ち話始める。
「わ、わ、わたしは木村 サクラ(キムラ サクラ)といいます。話すのが苦手ですが、仲良くしてください」
そう言うと彼女は席についた。
多少キョドりながらもがんばってる姿は関心がない誠でも伝わった。
サクラが終わり誠の前の席まで順番がまわってきた。
前の茶髪の男は立ち上がり話し出す。
「はいはい!俺は猿渡 将っていいまぁす!気軽に猿とでもよんでくださぁい!」
前の男はチャラくそう言うと席に座る。
誠は静かな学校生活を崩されそうであからさまに嫌な顔をする。
そんななか誠の順番がまわってくる。
誠は早く終わらすため立ち上がり話し出す。
「俺は宗方誠っていいます、よろしく。」
そう言って自分の席に座る。
この自己紹介でおそらくクラスの半分以上の生徒が思うだろう。
取っつきにくいクラスメイトだと…
自己紹介は無事に終わり三枝先生は明日からの予定を話し出した。
「明日からは通常の授業が始まるからな?気を引き締めるように!じゃ今日は解散!」
そう言って高校初日は終わった。
誠の印象はクラス内でも最悪の結果となっただろう。
ただ一番問題なのが本人が気にしていないことだった。
「さっさと帰るか…」
我関せずな誠は帰路についた。