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8 答え合わせ

「おばあさまは、公爵夫人として公爵家に仕えるように、と言ったんです」

公爵様はなにを言っているの?情報過多でついていけない。夫人ってなに?だいたい、なぜ前公爵夫人(女帝)がそれをおっしゃるの?

「つまりわたしはオルドリッチ前公爵夫人にプロポーズされたのね」

誰に言うでもないわたしのつぶやきに公爵様はバツが悪そうな顔をして

「それは、おばあさまなりに気を利かせてくださったようで」

「誰に気を使ったの?」

思いつくままに質問をする。言葉を選ぶ余裕なんて今はない。

「わたしです」

やっぱり意味がわからなくて公爵様を見ると、彼は少し頬を染めて、でもはっきりと言った。

「想いを伝える勇気がないわたしに対するおばあさまなりのエールだったんです」

そうして公爵様はわたしの手を取ってその場にひざまずき、

「メイフラワー、あなたを愛しています、どうかわたしと結婚してください」

きっぱりと言い切った。あまりのことに返事ができずにいると、公爵様はとどめとばかりに指先に口づけを落とし、

「メイフラワー、返事を」

と、凄まじい色気のある瞳で見つめられる。

「でも、だって。公爵様はそんな素振り、なにひとつお見せにならなかったわ」

公爵様の美しい澄んだ瞳でまっすぐに射抜かれたわたしはうろたえ、必死の言い訳をする。それが彼に余裕を与えたのか公爵様はうっそりと微笑んで、

「やっぱりわかってなかったんだね」

と言い、するりとわたしの隣に体を滑らせ、ぴったりと寄り添った。公爵様の体温が伝わってきていたたまれない。わたしの気持ちを知っていて彼はあえてそうしているのだろう。

公爵様は指折り数えていく。

「わたしはあなたが参加するパーティには必ず出席していました」

「確かによくお会いしました、でも公爵様はパーティがお好きなんだとばかり」

「あなたが参加しないパーティにはひとつも行ってませんよ。社交界では有名です、オルドリッチ公爵(わたし)を出席させたいなら、まずはメイフラワー嬢の参加を取り付けろ、と」

そんな恥ずかしいことになっていたなんて!

赤面して固まってしまうわたしを尻目に公爵様は話を続ける。

「留学先でもよくお会いしましたよね」

「我が家と同じように貿易商をなさっておられるので立ち回り先が似通るのだとばかり」

公爵様はくすりと笑ってまた指先にキスをする。恥ずかしがるわたしの顔を覗き込むようにして、

「あなたに悪い虫がついては困るので、露払いをさせていただきました」

と何でもないことのように言う。

「それに」

そう続ける公爵様はわたしの指先を舐めるように見つめている。

「そもそも、あなたの留学を後押ししたのはわたしです」

「それはどういういことでしょうか」

公爵様はついっと視線を離した。

「あなたと初めてダンスをした夜会を覚えていらっしゃいますか?」

それはよく覚えている。珍しくお父様が紹介してきた男性とダンスをした、それが公爵様だった。

「あのとき、伯爵に頼まれていたんです、あなたの留学を思いとどまらせてほしい、と」

「お父様が?」

「我が家も貿易は手掛けていますからね、その苦労話をしてほしいと頼まれていたんです。でもあなたと話せば話すほど、留学させるべきだと思いなおしました」

公爵様は目線をわたしに戻し、優しい微笑みで言う。

「あなたはその柔らかい雰囲気がいい、文化が違う国外の商談もうまくこなすだろうと思ったんです。伯爵は留学した貴族令嬢の行く末を気にしていたから、それならば帰国後は公爵夫人として迎え入れると約束しましたし、仮ではありますがその時点で婚約契約書も交わしています」

ずっと反対していたお父様が急に協力的になったのにはそういう裏があったのか。

「あなたは知らなかったでしょうが、わたしたちは2年も前から婚約者同士なんですよ」

ですから、と彼は続けた。

「今すぐにでも結婚できます」

貴族同士の結婚は最低でも1年は婚約期間を設けるのが慣例だ、それをクリアしている、と彼は言い、再び問う。

「メイフラワー、わたしと結婚しよう?」

彼の美しい瞳にはわたしが映っている。

「お願いだ、わたしの花嫁になってほしい」

この懇願を退けられる女性なんているんだろうか。


「喜んで」


こうしてわたしはオルドリッチ公爵夫人になった。


翌日、改めて公爵夫人として使用人に対面したが、彼らはすでにベラ夫人から事情を聞かされていた。

「これでやっと奥様とお呼びできます」

アンダーソンをはじめ多くの使用人がほっとした顔をしている。

「それもこれもぼっちゃまが不甲斐ないから!」

とジャンナさんのお小言が始まって公爵様は慌てて遮った。

「明日はおばあさまが屋敷にくるんだ、みんな、準備に取り掛かってくれ」

そう、前公爵夫人(女帝)がお見えになるのだ。試練といっても過言ではない。みな緊張した面持ちで各々の持ち場へと向かった。

「公爵様、わたしはどうしたらよろしいでしょうか」

自分の持ち場を確かめるために尋ねると彼はとてもいい笑顔で、

「メイフラワーには特別レッスンをつけよう」

と言い、その場で横抱きにされ、夫婦の部屋へと連れていかれた。

「あの、公爵様?」

「まずはその呼び方だね、わたしのことはジュリアンと呼びなさい」

「そんな、無理です!」

「あなた♡でも許してあげるよ」

「!!!!!」

絶句するわたしに公爵様は甘く囁いた。

「さぁ、わたしの名前を呼んでごらん」

わたしが公爵様の攻撃にさらされてる間にダイアナはお茶の給仕を終え、さっさと出ていこうとする。

「ダイアナ、待って!」

「なにか?」

必死なわたしと違ってダイアナはひどく冷静だ。

「男性と二人きりなんてよくないわ!」

すると彼女は、

「旦那様と奥様はご夫婦です、なんら、問題はございません」

にっこりと微笑んで出て行ってしまった、もちろんドアは指一本分の隙間すら開いていない。

「ふふ。恥ずかしがらなくてもいいよ、わたしたちは新婚だ」

公爵様は満足げに微笑んでレッスンを再開する。


そのかいあって、翌朝、前公爵夫人(女帝)をお迎えするころにはなんとかジュリアンと呼ぶことができるようになっていた。

メイフラワーとジュリアンの甘々が少なかったのでもう少し続けます。

ここからは朝夕2回投稿にします、まどろっこしいのは好きではないので。次は19時です。

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