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5 ガーデンパーティ

ここ最近の公爵様は王宮で寝泊まりをしている。王女様が隣国へ嫁がれることが決まった、公爵様は外国で顔が知られているため、その調整役をしているのだろう。

実はわたしにも王女付きの侍女として隣国へ行かないかという話が来ていた。検討している間に前公爵夫人(女帝)から使用人に指名されてしまい、その話は立ち消えとなった。

王女様は少し気難しい方だと聞いていたのでほっとする反面、外国に住めるチャンスを逃してしまったことにがっかりもしていた。

その王女様を招いてのガーデンパーティが公爵家で開かれることになった。公爵家の財力を惜しみなく投入し、立派なものに仕上げなければならない。当然請求書も山のようにあがってくる。ようやく日々の業務をこなせる程度になっていたわたしはその忙しさにくらくらしていた。

そのうえ、パーティでは給仕メイドとして参加するように言われている。臨時のメイドも何人か探したようだがまだ足りないらしい。お茶を入れるのは専属メイドがやるので本当にお運びだけだ。

とはいえ当日の段取りや仕事内容は覚えなければならない。ベラ夫人の仕事とパーティーの準備で慌ただしい数日はあっという間に過ぎていった。


パーティ当日、支給されたメイド服に身を包み、鏡の前で確認をした。シンプルな作りだがそこそこいい生地を使っていて着心地は悪くないし、我ながら似合っていると思う。

「いいんじゃない?」

ダイアナが頭にブリムをつけ、メイドのわたしが完成した。

「さぁ、忙しいわよ。わたしも会場にいるから困ったら相談してね」

「はい、わかりました」

心強い言葉をもらって会場(仕事場)へと足を踏み入れた。


会場にはすでにたくさんの貴族が集まっていて、思い思いに談笑している。お茶菓子を配るのがわたしの仕事だ。わたしに割り当てられたテーブルのケーキスタンドが空にならないように補充していく。

マカロンは人気があるようで補充してもすぐになくなってしまう。何度も厨房と会場を行き来していると、わっと歓声があがるのが聞こえた、どうやら主賓の王女様がお見えになったようだ。慌てて端で頭を下げているメイドたちの列に混ざった。

王女様は公爵様のエスコートで入場された。王女様は公爵様の腕にしなだれかかっているように見えるがあれでいいのだろうか。そういえば彼女は臣下への降嫁を望んでいるとお父様が言っていたのを思い出したが、それはオルドリッジ公爵様のことだったのか。

王女様は公爵様への想いを封印して隣国へと嫁がれるのだろうか、わたしは貴族令嬢でありながら使用人となった、人生はままならないものだ、と感慨にふけっていると突然腕をつかまれた。

「なにをしている?」

それは公爵様だった。悲鳴をこらえただけでもほめてもらいたいのに、彼の声はあからさまに怒気をはらんでいて、その恐ろしさに今度は涙をこらえた。口を開けば泣いてしまいそうで何も言えない。

怒り狂う公爵様に引きずられて会場の外に出されてしまった。どうして彼はこんなに怒ってるんだろう、なにか粗相をしてしまったのだろうか。恐ろしさに身を震わせていると公爵様はため息をついた。

「あとで話をしよう、とりあえず着替えて、部屋に戻りなさい」

言葉少なく命じて公爵様は会場へと戻っていった。わたしはその場に一人残され、こらえていた涙が頬をつたった。

「メイフラワー、大丈夫?!」

いち早くダイアナが駆けつけてくれた。

「あなた、また目をつけられたの?」

ステラも来てくれた、言い方はきついが声色は優しい。

「また?」

「この子、なぜか旦那様に話しかけられるのよ。それで旦那様はなんて?」

わたしはみっともなくめそめそしながら、着替えて部屋に戻れと言われたことを伝えた。

「わたし、どこがいけなかったのかしら」

聞いてみたが二人とも首をかしげた。

「メイフラワーは初めてなのによくやってたわ。旦那様のお考えはわからないけど、命令だもの、着替えていつもの仕事をしていたほうがいいわ」

「家政婦長にはわたしから話をしておくわね」

ダイアナとステラは口々に慰めてくれる。その優しさにまた涙があふれてしまった。


いわれた通り、いつもの仕事着に着替えてベラ夫人の仕事部屋に入った。遠くから会場の賑わいが聞こえて、先ほどの公爵様を思い出してしまった。

貿易の仕事をしていて男性とやりあうことはあった、しかしあんなふうに真正面から怒りをぶつけられたことはないし、仮にあったとしても必ず男性従者を伴っていたから身の危険を感じたことはない。

いったいわたしのなにが彼の逆鱗に触れてしまったのだろう、それほどに公爵様は怒っていらした。

それにあとで話をすると言っていた、なにを言われるのだろう、解雇通達だろうか。それは嬉しいけれど、与えられた職務も満足にこなせない未熟者のレッテルを貼られるのは悔しい。

考えても仕方ない。

わたしは気持ちを切り替えて、山積みになっている請求書の束を黙々と片づけた。

「ジャンナ!なぜ彼女にひどい恰好をさせているんだ?!」

どうやら旦那様の妄想が始まったらしい、アンダーソンから話は聞いていたが目の当たりにすると不気味なものがある。

「申し訳ございません」

否定してはならないと言われているため、まずは謝罪をした。

それをどう受け取ったのか、旦那様はしばらく黙っていたがやがて、

「おまえたちはこの婚姻に反対なのか?彼女をわたしの妻として皆に紹介させたくないからあんな装いをさせていたのか?」

旦那様は妄想上の女性を妻だと言い切った!

思わず隣に立つアンダーソンを見ると、彼も心底、困惑した顔をしていた。

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