13 ジュリアン目線(後半)
新妻が屋敷にいるというのにわたしはちっとも屋敷に帰れない。それでもなんとか工面して帰宅すると庭園を歩いているメイフラワーを見つけた。
花の中をそぞろ歩いている彼女はやはり花の妖精だ、美しく可憐でなにより愛らしい。ほら、今もペコリと頭を下げている、なんと可愛らしいことか。
メイフラワーが里帰りをするというのでもちろん同行した、夫として妻の実家へ顔を出すのは当然のこと。
夫か、いい響きだ。
コムント伯にはメイフラワーが屋敷に到着した日に結婚契約書を送ってある、彼はサインをし、そのまま貴族院に提出してくれた。
おばあさまの暴走のせい、いやそのお陰で予定より早く彼女を公爵夫人に据えることができた。
「立て込んでいてなかなか屋敷に帰れず、メイフラワーには申し訳なく思っています」
義父となったコムント伯に詫びると彼は年長者らしく、
「あなたたちは新婚なのですから、これから時間はいくらでもあるでしょう」
と、擁護してくれた。
それから夫人も入り披露宴の予定を少し話して屋敷に帰宅した。
すぐにアンダーソンを呼び、彼女のドレスを作るように命じた。
2年の付き合いでメイフラワーが華美な装いを好まないのはよく知っている。いつかのドレスのようにわたしの色で飾り立てろとまでは言わないが、新妻らしくもう少し華やかなドレスを着てほしい。
新妻か、いい響きだ。
「名前がフラワーなのだから花のモチーフを入れた訪問着はどうかな、指し色にはブルーを使ってほしい」
着飾ったメイフラワーを想像しながらアンダーソンに言った。しかし部屋にはわたししかおらず、家令は出て行ったあとだった。
めんどくさいことに公爵家でガーデンパーティを開くことになってしまった。
「あなたの奥方を紹介して頂戴」
王女がそう言い出したのだ。
彼女はわたしとの結婚を望んでいた、でもそれは隣国へ嫁ぐのが嫌なだけでそれ以上でもそれ以下でもない。王女が降嫁するとなれば最低でも侯爵家以上、公爵のわたしなら問題ないと目をつけたのだろう。
だがおあいにくさま、わたしにはもうメイフラワーという最愛の妻がいる。
その最愛の妻がなぜかメイド姿で給仕をしている。
なぜだ?なぜ?
必死に考えても理由が見当たらない。
ひとまず彼女を会場の外に連れ出した。呆然と立ち尽くすメイフラワー、メイド姿もなかなかクる。
いや、そうじゃない、不埒なことを考えるな!
「あとで話をしよう」
結局『あとで』は、なかった、王女が宮まで送れと言いやがったからだ。パーティでわたしが妻を紹介しなかったことで変に自信をつけたようだ。
「奥様とお会いできると思ってたのに」
「あいにく体調が優れず」
「病弱なのに公爵夫人が務まるのかしら?」
「その分わたしが支えます、彼女を心から愛してますので」
イラつく気持ちのままに王女に応戦する。
確かにあなたは王族らしく大変に美しい、しかしメイフラワーは美しいうえに愛らしい、さらには可憐で極めつけに花の妖精だ!
王城で雑務に追われているとベラ夫人がやってきた。
おばあさまの親友の彼女は王城だろうがどこだろうが顔パスが通じる。
「メイフラワーは公爵家で使用人をやってるわよ」
ベラ夫人の言葉が頭に入ってこない。使用人?メイフラワーが?なぜ?
「あの娘は住み込みで労働をしているつもりになってるわ」
ガーデンパーティでのメイド姿の理由がやっとわかった、彼女は本当に給仕をしていたのだ、なるほど。
って、納得してる場合じゃない!
「今すぐ訂正しないと!」
「できるの?あなた、王女にまとわりつかれてるじゃない」
くっ、そうだった、あの王女のせいでわたしはなかなか屋敷に帰れない。
せめてもの想いを込めてメイフラワーに花を贈った、もちろん愛の花を。
なんとか屋敷に帰り着くと出迎えたアンダーソンとジャンナは怖い顔している、二人には事情を伝えてある、とベラ夫人が言っていた。
「メイフラワーは?」
「『あの者』でしたら仕事をしています」
アンダーソンはわざとメイフラワーを『あの者』と称した。
「一刻も早く『奥様』とお呼びしたいですね」
今度はジャンナが辛辣な言葉を吐く。
「わかってるよ」
わたしは意を決してメイフラワーと対面した。
プロポーズは無事受け入れられ、メイフラワーはわたしの妻となった、書類上はもうとっくに妻だけど。
ここでまさかの寝室別発言!
やはり彼女は妖精だったのか?妖精にいかがわしいことをしようとしているわたしへの罰か?
「恥ずかしくて」
消え入りそうな声で顔をふせるメイフラワーはやはり愛らしい。
愛らしいひとの唇を思うがままに貪ると彼女は熱い吐息で応えてくれた。わざと唇の唾液を舌でぺろりとぬぐってみせる、わたしの色気に彼女の欲がちらりと見えた。メイフラワーはきちんとわたしを異性として意識しているようだ、これなら寝室を共にできる日も近い。
「大丈夫ですわ、公爵様」
王女に傷つけられたメイフラワーは全然大丈夫じゃなかった、せっかく取り付けた名前呼びなのに、彼女はまた公爵様と呼んでいる。
「来なさい」
メイフラワーを寝室に連れ込んだ。もちろん抱くためだ、わたしがどれほど君を愛しているか、しっかり教えてあげよう。
でもまずは彼女の不安を取り除かなければ。
王女の話はでたらめだった、あの女がわたしのことをわかってるなんて嘘だ、本当にそうならわたしとメイフラワーの仲を引き裂こうだなんてしない。
「君の悦びがわたしの幸せだよ」
わたしは新婚らしく昼間っから新妻を愛しつくした。
快楽の果てに気を失い静かな寝息を立てているメイフラワーを満足げに眺めながら、アンダーソンから渡されていた披露宴の出席者リストに目を通す。
「決着をつけるべきだな」
王女にも招待状を送るよう印をつけた。
わたしとメイフラワーの結婚披露宴は公爵家の名にふさわしく盛大なものになった。国王陛下も王妃様も親戚として参加している。もちろん王女が迷惑をかけていることへの詫びの意味も入っているだろう、許さないが。
王女は婚姻は認めないと吠えている、もうすぐ隣国へ嫁いでいく王女に言われても痛くも痒くもない。
料理が気に入らないと言う王女にメイフラワーは謝罪した。
「それはジュリアンの好みのメニューなのです」
それからメイフラワーの猛攻が始まった、彼女はわたしが驚くほどわたしの好みを的確に把握していた。さすがに王女が可哀そうになってメイフラワーを止めると彼女は心底不思議そうな顔をしている。
あぁ本当に君は可愛い、やっぱり君はわたしのことをよくわかっている。
わたしたちはこの二年の間にいろいろな国を旅した、一緒に食事をしたし、夜会にもそろって参加した。同じ部屋で寝泊まりはさすがにしなかったけど、同じ宿には何度も泊まった、わたしたちは一日の最後におやすみで別れ、一日の始まりにおはようを言い合った。
わたしは君にドレスを贈ったけれど、君はお返しにとタキシードをくれたね。あれはわたしのお気に入りだ、ジャケットの内側には君の色でわたしのイニシャルがいれてあった、結婚したら君に君のイニシャルも入れてもらおうと思っていたんだ。
「愛してるよ、メイフラワー、わたしの妖精、わたしのすべて」
わたしは今日も愛しい人に愛をささやく。
「ジュリアン、わたしもあなたを愛してるわ」
わたしたちは今日も幸せだ。
これで本当に終わりです、最後までお読みくださりありがとうございました!




