1 公爵家の夜会で
その日はオルドリッチ公爵家での夜会だった。公爵様からの招待状を届けてくれたのはメアリーで彼女はわたしと女学院からの親友だ。
「ジュリアンは外せない用事があるから来られないそうよ」
ジュリアンというのは公爵家を若くして継いだ現公爵様のことで彼とメアリーのご主人が従弟だ。
昨年、メアリーが結婚した際、その式に参列しており、わたしと公爵様はメアリー夫妻を介しての知人ということになる。
「そう、10日ほど前にお会いした時はなにもおっしゃられていなかったけど」
「ジュリアンってば、またあなたに会いに行ったのね」
「違うわ、外出先で偶然お会いしたのよ」
メアリーが呆れたように言ったのでそこは否定しておいた。
我がコムント伯爵家は各国との貿易を手掛けており、わたしはその仕事をしている。オルドリッチ公爵家も同じく貿易をしている為、立ち回り先が似かようのか、国内外で遭遇することが度々あった。
訪問先の港町で公爵様とお会いしたのもそういうことだろう。
「そんなことより留学先の話を聞かせて?」
メアリーは外国に憧れを持っている変わった令嬢だ、かく言うわたしは彼女に輪をかけた変わり者で、貴族令嬢でありながら留学をしてしまったツワモノ。
幸いに我が家は子宝に恵まれ、兄が2人、姉は4人もいる。政略結婚要員には事欠かないため、わたしひとりがフラフラしていてもまったく問題がない。
「少なくとも語学力はかなりついたわ」
2年という年月をかけ各国をまわったおかげである程度は操れるようになった。いくつかの国の言葉で挨拶をしてみせるとメアリーは手をたたいて楽しんでくれた。
「素晴らしいわね」
盛り上がっているわたしたちの背後から全く盛り上がってない声がかけられた。びくっとしてそうっと振り向くとオルドリッチ前公爵夫人(現オルドリッチ公爵であるジュリアンの祖母)が立っていた。
「オルドリッチ前公爵夫人、ご機嫌うるわしゅう」
わたしたちは急いで、でも優雅に挨拶をした。
「留学まで果たした才女というのは貴女のことね?」
「とんだお耳汚しを」
あくまでも優雅に、内心は冷や冷やしながら微笑むと、前公爵夫人は顔色一つ変えずに言い切った。
「その才能は公爵家で活かしてこそです、来週から我が家にいらっしゃい」
それだけいうとさっそうと去っていった。
わたしたちは思わず顔を見合わせた。
「冗談、よね?」
そういうわたしの問いにメアリーは力なく首を振った。
「あの方が冗談をいうのは聞いたことがないわ」
こうしてわたしは公爵家で働くことになってしまった。
すごくどうでもいい内容ですが、公爵様のお父さんは訳あって公爵家は継ぎませんでした、その為、ジュリアンの先代というとジュリアンのおじいさんを指します。これは本編と全く関係のない裏設定です。