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第7話「再び魔境へ」

 ……転移魔法を発動し、「一気に跳んだ」ダンとスオメタルは……

 王都の街中とは景色が全く違う、うっそうとした森の中を歩いていた。


 さきほどまで滞在した王都のカフェではつい話が盛り上がってしまった。 

 地獄且つ奴隷のような勇者生活からダンが解き放たれた事、

 お気に入りの紅茶がことのほか、美味しかった事、

 そして、孤独に生きて来たふたりが、これからの人生において、

 支え合うパートナーを得たと実感した事でつい1時間にも及ぶ長話となってしまったのだ。


 カフェを出たふたりは、大手を振って王都の正門を出た。

 やはり王都市民の誰もが、ダンを救世の勇者とは気付かない。


 解放感に満ちあふれたダンはスオメタルを連れ、街道を歩いて行く。……

 そしてひと目がなくなると、ふたりはさっと街道から目立たない雑木林へ入った。

 

 周囲に誰も居ない事を再度確かめたダンは、即座に転移魔法を発動、

 ヴァレンタイン王国を、スオメタルと共にさっさと後にしたのである。


 と、いう事で、さてさて!

 ダンとスオメタルのふたりが今、歩いている周囲の景色は王都セントヘレナ近郊ではない。

 彼を追放したヴァレンタイン王国国王リシャールと約束した通り、

 人々が『魔境』と呼ぶ、この大陸の1/4を占める、広大な未開の地に隣接した土地だ。


 魔境は多種の樹々から構成される森林が大部分を占め、次いで草原、更に水量豊かな湖、川があるのは勿論、急流を伴う渓谷、巨大な岩だらけの原野、灼熱の砂漠など様々な地形がある。


 人間が殆ど住まないこの自然環境厳しい魔境には……

 当然ながら人間の王国はひとつも存在しない。

 

 また肉食、草食ともども普通の獣が数多生息するのは勿論のこと……

 強靭な竜の一族、夥しい大中小の魔獣に、魔物、果ては邪悪な亡霊、不死者アンデッドまでが跋扈ばっこする呪われた地でもある。


 前述した通り、倒した魔王デスヘルガイザーが住んでいた城もこの魔境にはあった。

 しかし、ダンが新たに住まう地からは遠く離れていた。


 今回ダンが『流刑地』として国王リシャールから与えられた土地はこの魔境に隣接していた。

 つまり魔境と全く変わらない地である。


 一時は、ヴァレンタイン王国が領有権を主張した。

 だが、領主として任官した某貴族が、魔王軍侵攻の恐怖に耐えきれず、夜逃げして現在も行方知れずという『曰く付き物件』なのである。

 

 と、ここでダンは自分へ接近する何者かの気配をキャッチした。

 まあ、ここは自然満ち溢れる魔境。

 数多の生物が息づいている。

 犬も歩けば何とやらで、

 ……何者かとは魔族か魔物、良くて中型以上の獣であろう。

  

 相手との距離は約数百メートル……

 

 既に索敵の魔法が発動中。

 ダンの心の中にあった、『アンノウン』という表記がはっきりと切り替わった。

 スオメタルも同じく気付いたようである。


『マスター、ご注意を! 接近する魔族が3体おります』


『ん? この気配は人狼……ワーウルフか? えっとスオメタルの言う通り、3体だな』


『御意でございます』


 人狼とは……

 魔族であり、狼の姿をした獣人の一種だ。

 完全な狼、または半狼半人の姿に変身する能力を有している。

 

 通常の狼を眷属とし、魔境に迷い込んだ人間は勿論、

 たまに人里へ出て、人間を襲い喰らう。

 つまり人間を喰う捕食者である。


 通常の人間では身体能力に差があり過ぎ、 

 あっという間にかみ殺され、喰われてしまうのが常だ。


 一方、人狼どもも、ダンとスオメタルの気配に気づいているのだろう。

 獲物として捕らえる意思を持っているに違いない。

 

 どんどん近付いて来る。

 やがて……

 ダン、スオメタルと人狼ども3体は正面から向き合った。


 出会った人狼どもは……

 半狼半人の姿であった。

 半人と言っても衣服などはつけていない。

 牙と爪、筋肉を誇示し、威嚇して来る。


 しかし、ビンタ300発とこぶし1発で魔王を倒したダンとスオメタルにとって、

 人狼3体など、単なる雑魚である。

 ふたりは当たり前だが、慌てず騒がず平然としていた。


 自分達を恐れないダン達を見て、

 人狼どもは再度唸り、う~っと威嚇する。


 人狼は人間語は話せないという。

 しかしダンは、念話により人狼の心を読む事が出来る。

 こちらの意思も、しっかりと伝えられる。


『おい、お前等……今日はやめないか、戦うの。追放され……いや! 解放された記念日なんだ』


 《!!!!》


『なあ、おまえらは初見だから、特別に見逃してやる。とっとと巣に、帰れよ、頼むからさ……』


 人狼どもは念話で意思を伝えて来たダンに、びっくり。

 一瞬だけ躊躇ちゅうちょした。

 しかし彼等の本能が、食欲が僅かな恐怖に勝った。


 飢えた人狼どもはダンの忠告を無視し、襲いかかって来たのだ。


 があああああああっ!

 ごおおおおおおお~!

 ごあああああああっ!


「ふっ」


 ダンは3体の人狼どもの攻撃を軽々と躱し、ほんの軽く頭部に触れた。


 ぎゃっ!

 がっ!

 がう!


 ダンの手が触れたと同時に、

 人狼どもは短い悲鳴をあげ、地に崩れ落ちた。

 「ぴくぴく」けいれんし、全く動けない。

 

 ダンの特技のひとつ、吸収魔法により、

 人狼どもは行動力の根幹たる魔力を9割以上失ったのだ。


『お見事でございます、マスター。これぐらいのやからは、次回以降、私が対応致しますよ』


『了解!』


 スオメタルに言葉を戻したダンは、倒れ伏した人狼達へ向き直った。


『おい、お前ら! 今回に限り大サービスだぞ……魔力を95%抜くだけで勘弁してやる。魔力が回復すれば動けるようになる。その前に他の奴に襲われたら不運だとあきらめろ』


『…………』


『今度刃向かったら……容赦なくぶっ飛ばす』


 ダンは最後にそう言うと……

 倒れたままの人狼を放置し、スオメタルと共に再び歩き出そうとした、その時。


 ぱちぱちぱちぱち……


 どこからともなくリズミカルな拍手の音が起こり……

 辺りには、瞬時に大きな魔力が満ちたのである。

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