第4話「裏事情」
1時間後……
買い物を終えたダンは、少女スオメタルと共に、カフェへ入った。
ちなみに、購入したものは、左腕の収納魔法腕輪に全て放り込んであった。
カフェは比較的空いており……ふたりは片隅の席へ腰かけた。
じっと見つめ合うふたりを見た他の客は、一般市民の仲むつまじい若いカップルとしか見ない。
ふたりはこの店の香り高い紅茶が好きである。
たまに来店しては、紅茶を愛飲していた。
しかし来店の度に魔法で容姿を変えていたから、『馴染み客』とはならなかった。
今回王都を離れるので……
『引っ越し先』でも淹れて飲めるよう、同じ茶葉を大量に購入していた。
渋い木製のテーブル、テーブルと同じ材質&デザインの椅子に、ふたりは座っていた。
やがて……ティーカップふたつと大きめのポットが運ばれて来た。
ふたりは肉声で他愛もない話をしながら……
心と心の会話、念話で別の会話を始める。
香ばしい良い匂い……
座ったふたりは美味そうに熱い紅茶をすする。
紅茶をふたくちほど飲んだスオメタルが問う。
『マスター、早速でございますが、国王リシャールとの追放謁見の顛末をお話し頂けますか? 情報を共有しておくでございます』
『了解! 明瞭簡潔に行くぞ。勇者の俺は表向き王国追放。アンジェリーヌ王女との結婚なし。公爵位の授与なし、報奨金支払いなし、貰ったのは魔境隣接、辺境の土地と廃棄された城だけだ』
『ふむふむ』
『その上で、お互い未来永劫干渉しないと約束した。書類も作成し、双方の印を押した』
『成る程……契約書まで作成と……さすがマスターでございますね。あくまで個人的な意見ですが、私スオメタルはOK、つまり基本的には宜しいかと思うでございます』
『あ、そうだ! もうひとつ! 契約書には記載してあるけど、えっと……魔境ならば、お前の領地は拡大し放題ってのもあった』
魔境ならば領地拡大し放題?
と、聞きスオメタルは美しい眉をひそめる。
『はあ? 魔境なら領地が拡大し放題って……あの地は人間のモノではないでございますよ』
『ははは、だから、リシャール王も、切り取り次第って即OKしたのさ』
『うっわ! 呆れるでございます~。私が思うに……性悪王女アンジェリーヌとの結婚は勿論、爵位の授与取り消しは、大きな問題ではないでございます』
スオメタルの言う通りだ。
ダンは大いに納得。
笑顔で頷いた。
『だな! 王女と結婚出来なくても、爵位が貰えなくとも全然惜しくない』
『ええ、上質な領地の譲渡も同様でございます』
『おう、そっちも同意だ!』
『はい! 万が一、マスターが良い場所を任されても、規定以上の重税を課せられ……確実に領民が反乱し、無政府状態になるでございます……妻となった王女はヒステリーを起こし、即、里帰り決定でございますゆえ』
『最悪だな、そんなの』
『はい! そんな事になったら完全に領主失格で、怒った王からどう罰せられる事やら……でございます』
『激しく同意。俺は領国運営が素人だ。多分、王は俺を補佐してくれる優秀な家臣を付けてくれないし、もし来てくれても、平民の俺の指示なんか聞かず、ろくに言う事を聞かないだろうよ』
『全くの御意でございます! ですが、お金は……現金は最も重要でございます。魔王討伐の報奨金は結構な金額なのでしょう?』
スオメタルは現実主義者なのだ。
名より実を取る性格らしい。
ダンは頷き、話を続ける。
『ああ、結構な金額だ。創世神の神託で決められているが……金貨100万枚だからな』
『お~、100万枚? それは相当でございますね。ほんの少しでも頂戴出来なかったのでございましょうか?』
『うん、無理だった! スオメタルも知っての通り、ヴァレンタイン王国の台所は……内情は火の車だ。金貨100万枚を、毎月金貨100枚払いの長期分割予定だと言われ、思わず、のけぞった』
『うっわ! ひど! 支払いが終わる前にマスターの寿命がすぐに尽きるでございますね、それ……』
『ああ、いつになったら、全額貰えるんだって感じだろ?』
『はい……王国の財政は、やはり、そこまで逼迫しているのでございますか?』
『おう! だからさ、いくら神託で魔王退治の報奨金が決まってるとはいえ、却って可愛そうになってな。報奨金は要りませんよってリシャール王へ言っちゃった』
『うっわ、優しいでございますね~。まあ、マスターの腕なら、毎月金貨100枚くらい、稼ぐ方法はいっぱい、ございますよ~』
『だな! ちなみに神託の規約で、勇者が受け取りを拒否すれば支払わなくてOKだそうだ。なので王の面目は潰れない』
『成る程、納得でございます』
『それゆえ、こちらから提案した』
『ふむふむ』
『王との取り決めで、追放の理由や原因は一般へオープンしなかった。だがもしも言い訳するとしたら、表向きの追放理由は、勇者の報奨金を含めた、褒美一式の受け取り固辞。コイツは礼儀を知らない不届き者だと、とがめる形だ』
『うふふ、それならお互いにかすり傷レベル、バッチリでございますね』
『ああ、結果、失礼な行いをした俺を追放扱いにする形で、こっちから報奨金の支払いを免除してやったのさ。俺もまあまあ満足だし、王は凄く喜んでたよ』
ダンの話を聞き、スオメタルはもっと話を聞こうと
思いっきり、身を乗り出した。
『それでそれでっ? この後が肝心でございますよ』
『おう! リシャール王は大喜びしていたから、こっちが優位に話を進められる。だから、俺は攻勢に出た! これ幸いと他にもいろいろ条件を付けたんだ。一番大きな問題をクリアする為にな!』
『あはは~、一番大きな問題って、あの性悪王女との結婚回避が最大の懸案事項でございましたからね~』
『全くだ! あのアンジェリーヌと結婚なんか絶対したくない。王も愛娘命の超が付くデレパパだから、本音は雑草な俺と、結婚なんかさせたくない。神託だからいやいやだったのさ』
『あはは、結婚が成立しなくて、お互いに良かったのでございますねっ!』
『その通り! 俺は、アンジェリーヌ王女の専属奴隷として、一方的、絶対服従命令で、肩もみに、お使い、買い物の付き合い&荷物運び、本の読み聞かせ、手紙の代筆。更に狩りの勢子、剣技と格闘術の練習台まで務めさせられたよ』
『うっわ! すご!』
『まだまだあるぜ! お前は身分が卑しいし、イケメンじゃないから、せめて勇者として強くあれ! と散々アンジェリーヌに煽られた。だから最終的には基礎トレーニングとして、ダッシュ&ランニングが1日5時間、腕立て伏せ、腹筋運動各3,000回以上にもなった』
『あはは、良い子は絶対真似しちゃいけませんでございますね~』
『だな! 勇者として目覚め、覚醒が始まってたからクリア出来たメニューだ。魔法の習得だって知識、実技含め毎日8時間。それ以外にも一般教養、剣技、格闘、弓、乗馬、水泳の練習等々、びっしりやらされた。それが王宮に居る間はず~っと続いて、毎日休みなし。ろくに眠る暇もなかった』
『あはは、超スパルタ! でございます~』
『だろ? あいつと結婚したら、心身ともにやられる。確実に無限地獄が待ってる。人生は真っ暗闇! その上さ! 俺のライフワークにも、散々口出ししていたんだぜ』
『は? マスターのライフワークでございますか?』
『い、いや! 何でもない……』
『まあ良いです……ところで、マスターと結婚しなかったら、アンジェリーヌ王女は、一体どなたと結婚するのでございますか~?』
『ああ、俺と破談になって愚痴ってた。もう王から候補の上級貴族の名をふたり言われたとさ』
『へえ、どんな奴らでございますか?』
『俺に代わる新たな花婿候補はな、超脳筋のボドワン公爵か、潰れたガマガエルそっくりのブザール侯爵だと。両名とも、表向きは真面目らしく、百歩譲って容姿は我慢したとしても』
『ほうほう、我慢したとしても、何でございますか?』
『アンジェリーヌが王家の情報局に裏の顔を調べさせたら、ボドワンもブザールも俺様タイプの性格最悪男で、その上、ドスケベの超変態だってさ』
『あはははは、性格最悪って、王女へそのままブーメラン! その上、ドスケベで超の付く変態でございますか! 完全にざまぁ! でございますねっ!』
『うん、今までお世話になりましたぁ! 末永くお幸せにぃ~って、思いっきり、ざまあのサヨナラして来たよ』
『あはは、でもでも! 性悪王女様には相当鍛えられましたでございますね~ 魔王に勝てましたし~』
『いやいや、魔王に勝てたのはスオメタル、お前のお陰だ』
『いえいえ~。私は、マスターのお手伝いをほんのちょっと、しただけでございますよ~』
『謙遜だな。お前には深く感謝してる。これから俺は己の為に人生を生きる。その為にはスオメタル、お前が絶対必要だ』
ダンはそう言うと……
慈愛の気持ちを込め、スオメタルを優しく見つめたのである。
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