第24話「人狼君、再び①」
美しい花々が咲き乱れ……
ハーブの放つ清潔で瑞々しく心地良い香りに包まれながら……
互いの唇を重ね、愛を交歓したダンとスオメタル……
ふたりにとっては、一生の想い出となるに違いない。
その後も、ふたりは魔境の『散策デート』を満喫した。
広大な美しい湖のほとりを散歩したり……
その湖でたくさん魚を釣って、
「鱒だ!」「大漁だあ」と「わあわあ、きゃあきゃあ」はしゃいだり……
この近辺で、最も高い木の梢へ飛翔魔法で「ひょいっ」と登り、
遠くに連なる美しい山々の景色を鑑賞したり……
結果……
甘いムードに酔った感もあるダンとスオメタルの心は「ぐっ」と近くなり、
ふたりの愛は進展。
更にしっかりと絆が結ばれた。
まずは……
めでたしめでたしである。
さてさて!
心底楽しい時ほど、あっという間に時間が過ぎる。
それが世の常である。
……既に西の地平線に陽が落ちかけていた。
広大な魔境の空は紅く染まり、眺めていると幻想的な気分となる。
だが、ロマンチックな雰囲気に浸ってばかりもいられない。
帰宅しても、やる事がいっぱいのふたりは、城への帰還を急いでいた。
しかし何故か……
ダンは一瞬で帰還可能な、転移魔法を使おうとしなかった。
その理由とは……
心と心の会話――
念話による、ふたりの会話で判明する。
『なあスオメタル、気付いているか?』
『はい、マスター、当然でございます。私とマスターが、一生忘れ得ぬ素敵な雰囲気で、超超超! あっま~いキスをした後、ハーブ園から出て、歩いていたら、隠れていたあいつはひょっこり現れましたでございます』
『あいつ……デート中からず~っと居たよな』
『はい! ず~っと居るでございます』
『はあ……あいつ、俺達の事、一部始終見てたな、絶対』
『御意でございます。どこかに隠れてマスターと私の愛の交歓を、あろうことか、のぞき見していたと思われるでございます。旧き言葉で……確か、デバガメと言われていたでございます』
『だな!』
『超うざい、めちゃ気持ち悪いと思っていたでございますが……折角のデート中ゆえ、放置していたでございますよ』
『でも、4時間くらいず~っとずっとだろ? まだ来るとはしつっこいな……それに尾行もだいぶアレだな』
『はい! あいつは姿もろくに隠さず……もう1㎞くらい、ず~っとくっついて来ているでございます。ドが付く超下手クソな最低の尾行でございますね』
そうなのだ。
ふたりの後方、100mくらいに一頭の大きな狼がつかず離れず、
とことこ歩いていた。
思わずダンが苦笑する。
『今は狼形態だけど……放つ波動で分かるよ。あいつ、俺が先日、魔力抜いて転がした人狼の一体だ。俺達が悪魔と話していたのを聞いて、泡食って逃げたっけ』
『もう! ホントにっ! 今の気分は超が付く最低でございますよ! 更に更に地の底でございます』
『おお、スオメタル……その様子だと、相当怒ってるな?』
『当然でございます。私にとって生まれて初めて! 初恋のマスターと記念すべき初デートなのでございますよっ! 一生の想い出なのでございますよっ!!』
『おお、何か、スオメタルから凄まじい怒りの炎が立ち昇ってる。そんな光景が見える気がする……』
『当たり前でございますっ! 折角、マスターとの超甘初デートが出来てウキウキルンルンだったのに……デバガメストーカーな、うざいあいつのせいで! 全てがぶち壊しでございますからっ!』
『ん~、でも困ったな、あいつ城までくっついて来るつもりかな?』
『何故困るのでございますか? ……まだ距離がありますから、ぱああっと、転移魔法で跳んじゃうでございます』
スオメタルは転移魔法で振り切る事を提案したが、
ダンは難色を示した。
『う~ん……』
『マスター、さっきから何を悩むのでございますか? あんなザコ狼一匹、放置プレーで構わないでございますよ』
『いや、放置プレーしても良いけどさ……あいつ、相当しつこそうだぞ』
『御意でございます。約4時間のデバガメ行為は、超が付くしつこさだとの分析結果が出ておりますゆえ』
『うん、スオメタルは知ってるだろうが、猫族と違い、狼を先祖に持つ犬族は基本的に、長距離走が得意なんだ。ず~っとついて来て、終いには、城の前で、ず~っと待ってるつもりじゃないのか? 徹夜とかしてさ』
『あいつが!? て、徹夜で待ってるでございますか!? 私達の家の前で座り込みございますか? うっわ、超うざ! 気持ちわる!』
『だな!』
『ず~っと家の前で待ってるって……やはり変質者というか、ストーカーでございます。 そんなの冗談じゃないでございます。ぶっとばします? もしくは殺っちゃうでございますか?』
スオメタルは眉間にしわを寄せ、猛毒を吐いた。
ダンは苦笑し、制止する。
『いやいや、スオメタル。殺っちゃうって……奴らは捕食者で人間にとっては敵なんだが……』
『はい! 私にとっても! 人の恋路を邪魔するクズの最低野郎でございます』
『まあまあ……俺達は魔境では新参者だ。何でついて来るのか、一応問い質してみよう』
『どうせ、マスターから魔力を抜かれ、気絶させられたのを逆恨みした、リベンジ狙いでございますよ』
『う~ん、そうかな?』
『きっとそうでございます! 絶対にっ!!』
スオメタルの機嫌はとても悪そうだ。
無理もないかもしれない。
ダンとのデートの素敵な余韻を、人狼のストーカー行為&尾行でぶち壊しにされたのだから。
『じゃあ、こうしよう』
『どうするのでございます?』
『隠れ身の魔法を使う。姿と気配を消して、やり過ごし、隙を見て奴を捕獲しよう、束縛の魔法も併せて使う。良いかな?』
『御意でございます! その上で、マスターとの楽しい想い出を、思い切りぶち壊しやがったあいつを、報いとして万倍返しで粉々に打ち砕く! でございます……と』
『おいおい、万倍返しで粉々って、……殺すなよ』
『保証は出来かねるでございますが……極力、努力致すでございます』
こうして……
ダンとスオメタルは執拗に尾行する人狼を、
生け捕りにする事を決めたのである。
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