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第2話「地獄のパワハラ特訓……そして魔王討伐へ」

 王女アンジェリーヌの命により、

 翌日からダンを『完璧な勇者』に育成する特訓……

 否、特訓に見せかけた陰湿な『いじめ』が始まった。


 ここは王都セントヘレナ郊外にある王家専用の闘技場である。

 ヴァレンタイン王国騎士団長は憎しみを込め、ダンをにらみつけていた。

 

 ただでさえ多忙で目が回る。

 なのに、クズと見下した貧民ダンの身体強化の指導教官役を押し付けられ……

 彼の不機嫌さは頂点に達していたのだ。


「おい、ダン! アンジェリーヌ様の命令だから仕方がない! 貴様みたいなクズ雑魚に俺が付き合うだけありがたいと思え!」


「は、は、はい」


「ち! 噛むんじゃないっ! 返事をはっきりしろ! 貴様のおどおどした声を聞く度に、いらっとするぜ!」


「す、すんません……」


「ふん! 初日だから、特別だ。俺は寛大な男だから、今日は軽く行く! さっさと、このフィールドを100周して来い!」


「ひゃ、100周!?」


「はん! 甘ったれるな! 100周くらい、選ばれし勇者なら軽く大楽勝だろ!」


「…………」


「終わったら、腕立て、腹筋1,000回ずつだ! 絶対に回数を誤魔化すなよ! もしも誤魔化したら事故に見せかけ抹殺してやる」


「…………」


「その後が木刀の素振り1,000回! その後も鍛錬メニューがびっしりだ! 覚悟しとけ!」


 騎士団長だけではない。

 王宮魔法使いの態度、仕打ちも、全く同じであった。


 所変わって、王宮の一室で、憎しみのこもった声が響き渡る


「おい、ダン! まずは呼吸法の練習! だが貴様は魔法が素人だ! 深呼吸を1万回から始めてみろ!」


「は、はい!」


「呼吸法が終わったら、間を置かず言霊ことだまの詠唱訓練! 魔法発動の際に言霊が必要なんだ。基本スペルを同じく1万回、復唱しろ!」


「は、はい!」


「1万回唱えて覚えられんようなら、貴様は馬鹿のクズだ! 最低のゴミ野郎だ!」


 そして侍従長も同じく……


「このバカモノがぁ! 貴様はあいさつもろくに出来んのか!」


「す、すんません」


「すんませんじゃない! 申しわけありませんだ! 腹の底から声を出せ! 活舌かつぜつをはっきりしろ!」


「は、はい!」


 更に王女アンジェリーヌも、勇者のダンを自分の使用人、否!

 奴隷のように扱った。

 ありとあらゆる雑用を押し付け、少しでも遅れると怒鳴り散らしたのである。


「ダン!」


「は、はい!」


「返事は1回!」


「はい!」


「愚図でバカのお前でも、訓練は終わったの?」


「は、はい……」


「ならば! キングスレー商会に頼んでいた化粧品を取りに行って! 侍女達の分も合わせてね! 私専用の特注品を10セット、そして御付きの侍女用の普及品を300セットね」


「そ、そんなに……」


「勇者ならそれくらい、さっと持ち帰る事なんか楽勝でしょ! 徒歩で15分はかかるから! 5分以内に行って戻って来るのよ! お使いを頼まれて、ありがたいと思いなさいっ! 足腰の鍛錬になるでしょ!」


「は、はい!」


「1分でも遅れたら、むち打ち100回!」


「い、い、行ってきますっ!」


 こうして……ダンの生活は一変した。

 いきなり勇者に祭り上げられ、完全に運命が変わったのだ。


 『誉れ高き救世の勇者』とは名ばかり……

 地獄のような訓練?の日々が始まったのだ。


 アンジェリーヌが言った通り、

 ダンは死ぬ一歩手前まで、『1年間』徹底的に鍛えられたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 1年後……

 ここは大陸において大きな領域を占める魔境と呼ばれる未開の地、その某所である。

 勇者となったダンが倒せと命じられた魔王。

 この魔王デスヘルガイザーが造りあげた居城たる『魔王城』があった。


 悪魔族のひとりとしてデスヘルガイザーは数年前、突如この世界に現れた。


 デスヘルガイザーは圧倒的に強かった。

 向かうところ敵なしという感で、他の悪魔や魔族を圧倒した。

 また謀略にも長けていた。


 みるみるうちに悪魔族をまとめ上げ、各地の魔族、魔獣を掌握。

 史上最強と呼ばれる魔王軍を編成した。


 そして魔境と国境を接するいくつかの国へ攻め込んだのである。

 

 魔境イコール辺境。


 攻め込まれた町や村は小さく……

 ろくな城塞も建てておらず、兵も少なく、武器も貧弱だった。


 魔王軍は首魁の勢いと同じく、圧倒的な強さを誇り、席巻。

 数多の人間をむごたらしく殺し、広大な土地を占領してしまった。


 各国の首脳は困り果て、勇者を擁するヴァレンタイン王国へ助けを求めた。


 ここで投入されたのが……

 最後の切り札ともいえる救世の勇者ダンである。

 

 創世神の神託は間違いではなかった。

 1年間のいじめ、罵倒……

 否、地獄の特訓は、勇者としてのダンの能力を完全に花開かせていた。


 鍛えぬいても、容姿が殆ど変わらないダンではあったが……

 身体能力、精神力、魔力、知識などは伝説と称された歴代の勇者達を遥かに超えていたのである。


 魔王討伐の最中……

 いつしかダンは、小柄な銀髪の少女従士を伴うようになっていた。

 王宮に在る時、その従士は見当たらなかった。

 なので、人間ではなく、魔法で呼び出した使い魔だとも噂されるようになった。


 ダンと少女従士のふたりは世界の期待を背負い、戦った。

 そして、見事に期待に応えた。


 奪われた町や村を次々と奪還したダン達は連戦連勝で魔王軍を追い詰め、倒して行った。


 そして遂に、魔王麾下の精鋭悪魔騎士軍団をも殲滅したダン達は……

 魔王城にひとり残った首魁デスヘルガイザーを追い詰めた。


 とうとう勇者としてのクライマックスを迎えた。

 酷い仕打ちが、辛い思い出が……走馬灯のようにダンの脳裏に思い浮かぶ。


 魂の叫びともいえる言葉がダンの口から飛び出して行く。


「おい、魔王! お前さえ! お前さえ、この世に現れなかったら、俺は勇者になどならなかったんだ! 貧しくともスラム街の片隅で、しがないジャンク屋として、幸せに暮らしていたんだ」


「何!? 勇者! き、貴様ぁ! いきなり何を言っている」


「てめぇに! 思いっきり八つ当たりするしか心が晴れないって、言ってんだよ!」


 ダンが吐き捨てるように言えば、少女従士も追随する。

 

「そうでございます。お前の出現がマスターの不幸の元凶でございます。殺された大勢の人々の恨みも共に背負い、死んで行くのが運命でございますよ」


「くそ! 貴様ら、わけわかんない事言いやがって! これでも喰らえ!」


 デスヘルガイザーは、直径10m以上ある巨大な火球を呼び出した。

 ダン達へ向かって投げつける。

 無詠唱で瞬時に発動した恐るべき火属性魔法である。

 

 どぐおっ!!

 

 しかし、何と!

 ダンは拳ひとつで、やすやすとこの火球を打ち砕いた。

 花火のように砕け散った火球で、3人が居る魔王城の大広間が昼間のように明るくなった。 


 と、同時にダンはダッシュ!

 思い切り大地を蹴り、デスヘルガイザーへ迫ると、


 ぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱぱんぱんぱんんぱんぱ~~~~んん!!!


 ぎゃぶっ!


 痛烈な超高速平手打ちの連発を喰らい、デスヘルガイザーは呆気なく吹っ飛んだ。

 ごろごろごろと床にころがり、あっさりと動かなくなる。

 

 完全に戦闘不能のようだ。

 生命反応も消えかけていた。


 ダンは無様に倒れ伏した魔王を見て、軽く息を吐いた。


「ふう……スオメタル、魔王デスヘルガイザーは悪魔達の王でもある。お前も悪魔は許しがたい仇だ。恨み骨髄だろ? ……とどめは譲るぞ」


「マスター、わざとギリギリで魔王を倒さなかったでございますね」


「おう! でもビンタ300連発で気は済んだ。すっとしたよ」


「ふふ、美味しいところを頂き、ありがとうございます! 対悪魔用の最終兵器、破邪の拳を使い、瀕死の魔王を魂ごと、スオメタルがこの世から完全に消すでございます!」


 スオメタルはそう言うと、小さな拳を突き上げる。

 言葉通り、彼女の拳は神々しく発光していた。


 一瞬の間の後……

 スオメタルの非情な拳は容赦なく、死にかけている魔王の脳天へ撃ち込まれた。


 だっが~~~~んんん!!!


 凄まじい轟音ごうおんが響き渡り、まばゆ閃光せんこうきらめいた。

 

 こうして……

 ダンと少女従士スオメタルは魔王以下、魔王軍全てを見事に討ち果たしたのであった。

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