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第18話「勇者引退後の構想②」

 ダンは勇者という『仕事』も一生続けるものではないと思っていた。

 『勇者』という言葉と響きに、あまり良いイメージを持っていなかった。


 これまで勇者と名の付いた者の行く末を調べたら、

 彼等の身に降りかかった数多の悲惨な事実を改めて知ったからだ。


 様々ないにしえの伝承、実際に起きた悲惨な事件、

 厳しい事実、現実からダンは認識していた。


 最終的に人々は勇者の底知れぬ力を畏怖し、敬遠する。

 結果、勇者の行く末は、幸せとはほど遠いものが多い。

 

 命まで懸け、戦った代償を受け取るどころか……

 ある者は闇に葬られ、ある者は追放され、ある者は自ら逃亡し、ある者は名と姿を変え、民衆の中に隠れ……誰もが二度と世の為に戦う事はなかった。


 丹念に歴史と資料を調べ、結論は出た。

 確率論ではあるが……

 勇者は世の為、命を懸けても、身を捨てて働いても、9割がた幸せになれない。

 

 だからダンは決断した。

 王家や家臣から疎まれ、いびられていても……

 世間の人々から『救世の勇者』と、あがたてまつられているうちに、『引退後の準備』をしっかりしておこうと。


 決断後……

 ダンは魔王討伐行の傍ら、世界各地を広く探索し、本業以外に精を出し、

 金と資材を少しずつ貯めて行った。

 加えて……

 様々なゴミ……否、放棄された拾得物を回収し、暇を見つけては、日常生活に使用する『小道具』もまめに作った。

 

 勿論、王家の面々には、特に王女アンジェリーヌには絶対に内緒だ。

 かといって、先に述べたように勇者法に基づく行いであり、

 ダンの行動は、けしてルール違反ではない。

 

 ちなみに貯めた金と資財、拾得物と小道具は……

 魔王討伐の最中、とある古代遺跡で発見した収納の腕輪に放り込んだ。

 

 この腕輪は大変な優れものであった。

 試しにダンが魔法を使って確認したところ、超大型ドラゴンが100頭以上入るくらいの容量である。

 また収納先が亜空間である為に時間が経過せず、品物は劣化せず、生ものも運べる。

 

 そんなこんなで……

 ダンは、遂に魔王デスヘルガイザーを倒した。

 任務を無事果たしたと、報告したのだが…… 

 「支払う褒賞金が全然ないよ~」と国王リシャールより泣きつかれてしまったのだ。

 

 半泣きのリシャールといろいろ打合せをした結果、話はついた。

 報奨金、肥沃な領地の譲渡等は、一切なし。

 魔王討伐の褒賞は……

 『物納』という形で、魔境近くの城付き旧領地が与えられる事が決定。

 更にアンジェリーヌとの結婚に関しては前述した通りとなり、勇者を引退する事も認めて貰った。

 

 結果、表向きは追放され、勇者を引退。

 打ち捨てられたこの城と旧領への移住が決まったのだ。

 

 そもそも魔境はこの大陸で唯一人間の手が届かない、文字通りの秘境である。

 人間が生きる環境としては、非常に厳しい。

  

 しかしダンは世界のどこへでも移動可能な転移魔法を習得していたから、

 住居さえ確保すれば、全く問題はない。

 加えて人が居ない分、ほぼ干渉されず、お構いなしとなる。

 

 そもそも生まれた時から、家族が居らずひとりで生きて来て、

 コツコツとジャンク屋をやっていたダンは、

 ぼっち状態でも、あまり人恋しくはならないのが幸いでもあった。

 

 しかし魔王討伐の最中、スオメタルに出逢い、心癒され……

 共に生きて行く事を決めたのだ。

 

 更に……

 衣と食、生活に必要な物資の問題も簡単に解決した。

 自給自足を模索しながら、

 しばしの間、ヴァレンタイン王国を含めた人間社会から仕入れる事に決めた。


 人間社会――つまり町や村から仕入れるのはさして困難ではない。

 得意の変身魔法で容姿を変え、転移魔法でこっそり現れ、

 「しれっ」と買い物をすればOKなのである。

 

 このような行為は、一応、追放という規約には反する。

 だが、そこまで王との取り決めを厳守しようという気は、ダンにはなかった。


 魔王を倒した褒びを殆ど受け取らなかったし、王家の窮乏も救った。 

 他者へ迷惑さえかけなければ問題はないと思っている。


 また、それだけ王家に……

 否、世界に対して己の人生を犠牲にした『貸し』があると自負していた。

 これまで散々罵倒し、ダンをいじめ抜いた騎士団長、王宮魔法使い、侍従長が……

 手のひらを返したように、こびへつらい、終いにはダンの栄誉を自分の手柄の如く自慢するのも不快だったからだ。

 

 生活面でも不安はない。

 現金を得る収入の面で具体的に答えは出なかったが、さして大きな問題ではなかった。

 冒険者家業を始めとして、金を稼ぐ手段の構想はいくつもあったから。 


 ……つらつら考えるダンへ、スオメタルが言う。 

 

「マスター、私はこのように考えますが、ご意見はいかがでしょう?」


 無事に引退出来たので、安心していたのかもしれない。

 しがらみから解き放たれ、浮かれていたのかもしれない。

 更に……

 少し上の空だったかもしれない。

 駄目だ!

 ……真面目にやらないと!


 ダンは自分の頬を両手で軽く、はたく。


「ああ、良いんじゃないか。いつもの通りトライアンドエラーで行こう」


「御意でございます。どうしました? 何かず~っと考え事をされていたようでございますが……」


「いや、何でもないよ。それより……えっと、以前やりとりした話だけど……」


「以前やりとりしたとは? 何でございましょう?」


「スオメタルの……本来の身体探しさ」


 ダンがシンプルに告げると、スオメタルは少し慌てて、固辞した。


「え? そ、そ、それは急がずとも、……全然、後で構わないでございます!」


「いやいや、大事な問題だから、先送りは良くない。早めに手を打っておきたい! ……実は、ちょっと考えている事があってさ」


 そうそう!

 スオメタル本来の身体を探す為の手立ても、ダンは考えていた……


 実は……

 王都に腕利きの『情報屋』が居り、既に手配済みなのだ。

 

 スオメタル本来の身体探し……

 その事実は……

 依頼の『真の内容』は情報屋へは告げられない。

 相手に、つけこまれるスキになりかねないからだ。


 しかしダンは、世界各地に点在するガルドルドの遺跡情報の収集依頼をした。

 

 「遺跡を探索すればきっと手掛かりが発見出来る!」ダンがそう力付けると、

 嬉しかったらしく、スオメタルはまたも涙ぐんだ。


 そんなこんなで、時間があっという間に過ぎた……

 打合せを切り上げたふたりは、ダンの収納腕輪から出したベッドを置いたそれぞれの寝室へ……

 そしてぐっすりと眠ったのである。

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