8 ニコラスの本音
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ニコラスはまずレイアに謝りに行った。
「僕、レイアに嘘をついちゃったの。ごめんなさい。本当はトムさんの所には少ししか行ってないの。睡蓮鉢のとこで短剣を研いでたんだ」
しょんぼりと告げるニコラスにレイアは驚いた。
(短剣を研ぐ?この小さな手で?砥石も持ってないだろうし、研ぎ方を知ってるとも思えないけど)
まだまだニコラスのことを理解してないレイアは、結局大したことはなかったのだと判断してニコラスをそっと抱きしめた。
「そうでしたか。ニコラス坊ちゃんは正直な方だから、ちゃんと私に本当のことをお話ししてくれたんですね。ありがとうございます。私は坊ちゃん付きのメイドになれて幸せですよ」
そう言って「これは正直だったご褒美です」とポケットから小さな包みを手渡した。
「使用人達が食べるお菓子ですから、坊ちゃんが食べてるのよりは美味しくないかもしれませんけど」
ニコラスは捻ってある紙包みを開いて素朴なクッキーをつまんで口に入れた。中に煎った木の実がザクザク入っていて香ばしく、美味しかった。
「美味しいよ」
「元気出してくださいね」
レイアに送り出されてニコラスは次に両親の所へに向かった。
マリアンヌは部屋に入ってきたニコラスを一目見て(これは何かやらかしたわね)と思った。
両親を前にして何か言いたそうにしながらも躊躇っているニコラスを膝に乗せて促した。
「何かあったのね。ゆっくりでいいから全部お話ししてくれる?どれだけ時間がかかってもお母様たちは最後まで聞くわ」
母に励まされてようやくニコラスは口を開いた。
ことの始まりは二ヶ月前の兄の誕生日だった。両親からのプレゼントは沢山の本と真っ白な紙の束と絵の具と筆だった。
父方の祖父母と伯父の国王ご夫妻からは馬や豪華な服や将来使うだろうからと本物の宝石のカフスが贈られていた。母方の祖父からは立派なレターセットだ。
どれも立派な贈り物だったけど、ニコラスの興味を惹くものではなかった。
だけど母方の曽祖父はハロルド兄さんに宝石付きの素敵な短剣を贈った。なんて素晴らしい贈り物だと思った。
翌月に自分の誕生日が来て、みんなは兄とほぼ同じものを自分に贈ってくれた。だから自分も曽祖父から短剣を貰えるんだとワクワクしていたが、贈られたのは山ほどの積み木だった。
「ニコはきっと素晴らしい作品を作るぞ!」と笑っている曽祖父を見たら、ガッカリした顔をするわけにいかず、笑顔で手の込んだお城を作って披露した。
でも自分は短剣が欲しかったのだ。
だから短剣を貸してもらえた時は心底嬉しかった。お母様だって「これで勇者の仲間入りね」って言ってくれた。
本物の勇者は本物の短剣を持たねばならぬと思った。研ぎ方はトムさんの様子を見て学んだ。トムさんはお父様が許可したら砥石をくれるといった。
でも僕は六歳になったら秘密の通路に入る。通路に入ったら短剣は兄に返さねばならない。本物の短剣にするには今しかない。お父様の許可まで待てない。なので厨房で砥石を手に入れた。
秘密の通路も入りたかったし本物の短剣も持ちたかった。本物の勇者にもなりたかった。どれも諦められない。
「だから内緒で短剣を研ぎました」
長い時間をかけてニコラスは心の内を全て両親に説明した。
アレクサンドルは途中まで研がれた短剣を見ながら次男の告白を聞いて、この三歳児を理解していなかったと思った。
ある部分は大人並みに賢いけれど、普通の三歳児の心も持つニコラスは、今までそんな心のアンバランスさを見せなかった。
そんな子だからこそ彼の幼い面もちゃんと注意して見守るべきだったとアレックスは反省した。
一方のマリアンヌは自分の両親、特に母のことを思い出していた。自分を育てる時、母の気苦労はいかばかりだったか。
なるほど、子供を育ててみて初めてわかることがあるのだと膝の上で目を潤ませている我が子を抱きしめながら思った。
「それにしても」「それにしてもだ」
二人同時に同じ言葉を発して互いに苦笑する。
「怪我をしなくて本当によかったわ。ニコの小さな手じゃ、ツルッと手を滑らせて指を切り落としてたかもしれないもの」
「ああ。人目がない場所でうっかり手首なんか傷付けていたら命に関わるところだった」
二人は深い安堵のため息をついた。
短剣はニコラスの同意を得てから再び刃を潰されてハロルドに戻された。
戻ってきた短剣を見てハロルドは(あれ?なんか少し違う?)と思ったが、弟が何やら謝っていたし、まあ気にするほどのことではないと判断した。基本、大らかなのだ。
主寝室に入るとアレックスが少し遠くを見る目になっていた。
「子育ては難しいな。何もかも初めて学ぶことばかりだ。これからもそうなんだろうな」
「私はハロルドのことも心配になったわ。ニコラスだから順序立てて正確に話すことができたけれど、誰でもがあそこまで心の内を説明できるものではないから」
「ああ、確かにな。互いに協力して子供達を見守らないとね」
マリアンヌはいつでも自分の事として子供のことを考えてくれる夫がありがたかった。





