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5 読心術

ブックマーク、評価、感想、誤字報告、どれもありがどうございました。

 私の夫、アレクサンドル公爵はとても見目麗しい男性だ。


 セントマーカス学園に入学した二十年前に彼を初めて見た時、この世にはこんな王子様みたいな男の人がいるのねって驚いたっけ。


 まあ、実際に本物の王子様だったんだけど。


 今、その元王子様のお膝に乗って抱きしめられてアワアワしてます。慣れないわ。そう言うといつもカタリナお姉さまは「何を今更」と笑うけど、慣れないものは慣れないのです。


「えーと、ご用事はなんでしたっけ?」

「俺が言わなくてもわかってるでしょうに」


 くーっ。

 俺って言う時のアレックスは色気がダダ漏れで眩しいっ!目が潰れそうに眩しい!


「ニコラスのことでしたら……」

「違う」

「フローラならご機嫌で……」

「マリー、誤魔化してもダメだ。君はあれほどやめて欲しいと言ったのに空を飛ぶ計画を進めてるね?」



 ばれてる。



 ニコはあの小さな袋のランタンのことを言ったんだと思うけど、アレックスには本物の方がバレてる気がする。なんでかしら。私の緻密で綿密で精密な演技で隠してたのに。


「君はほんとに隠し事が下手だから」


 なんですって。下手ですと?


「アレックス、正確には『空を飛ぶ計画』ではないわ。今はまだ『空に浮かぶ計画』なの」

「ほう。浮かぶだけなんだ?」

「そうよ、ちょっと浮かぶだけよ」

「ちょっととはどのくらいの高さかな?」



 ここが勝負所ね。



 アレックスにとって危険な高さとはどのくらいかしら。五階くらい?四階?まさか三階てことはないわよね。手間とお金と時間を惜しみなく注いだ結果が三階の高さまでなんてありえない。でも余計な事は言わないでおくべきかしら。



「今回は上空の気流に流されないように縄をつけて浮かぶのよ」

「マリー、もう一度聞くけど、高さはどのくらいを想定してるのかな?」



 低い声で囁くのはやめていただきたいっ!耳がこそばゆいっ!



「高さは好きに調節できるんです。そもそも構造力学的にですね……」

「マリー、まさか二階より高いんじゃあるまいね?」



 二階?二階って言った?

 なにそれ、目新しくも高くもないわよね?二階だもの!階段を作れば誰でも登れる高さじゃないの。


「なるほど。もっと高い所まで上がるつもりだったか」



 なぜわかる。読心術とか?



「俺はね、君のやりたいことを何でもやらせてやりたいと思ってる。でも君が危険な目に遭うのはどうしても嫌なんだ。これは俺のわがままだ。俺は物分かりのいい夫でありたいけど、君の安全だけはどうしても譲れないよ。俺はわがままな夫と言われても仕方ないね」



 あら?アレックスはいつの間にこんな貴族っぽい物言いをするようになったのかしら。いえ、貴族どころか王族だけど。公爵って立場は彼のように真っ直ぐで純粋な人間をも変えてしまうものなのかしら。だとしたら恐るべし公爵業。……いや、業じゃないか。いや、爵位を全うすることは職業みたいなもんだから業でもいいのか。




「そうね。アレックスは私をいつでも自由にさせてくれてる。よその旦那様たちとは全然違う。感謝してるわ」


「だから空に浮かぶ乗り物には俺が乗るよ」

「……はい?」

「俺が君の新しい空飛ぶ乗り物に乗る」


 えーと?

 夫が乗った場合の影響を多方面から考える。成功・失敗どちらの可能性も素早く何通りも考える。うん、良くない。全く良くない。私が乗るべき。



「いえいえいえ、アレックス、あなた公爵だし。王弟だし。今もまだ王位継承権がある人だし。あなたに何かあったら私、処刑されるわよ。頭と体が泣き別れよ」


「おや。俺の奥さんはそんな危ない乗り物を作るのかい?」

「……」


 と言う経緯があってアレックスが最初の乗り手になりました。とほほー。


 私、自分が乗ろうと思ってた時は絶対の自信があったのに、アレックスが乗るとなったら不安になるのはなんでかしら。アレックスもこういう気持ちなのかしら。



「それで?ミシンは何に使うんだい?」

「ミシン?え?あなた、もしかして私の作業場に無断で入ったの?」

「ちょっと探し物でね」


 素早く振り返って夫の顔を見ると、アレックスの視線が泳いだ。


 なるほど、これか。視線の動きね。勉強になるわ。


「ごめん。君の実験が心配で入った」

「まあ、仕方ないわ。心配してくれたんだものね。ミシンは気球を作るためよ」

「気球?」

「えーと、空に浮かぶための空気の球を絹で作るの。薄くて軽いのを色々試して絹がいいかなーって」



 あれ?アレックスが黙り込んでしまったわ。絹に命を預けるのは不安なのかしら。「薄くて軽い」がまずかったかしら。強度は問題無いと付け加えるべき?



「あっ、あのね、絹で大きな袋を作って、内側に最近出回るようになったゴムを液状にして塗りつけてガスの火で暖めた空気が漏れないようにするの。ちゃんと計算してあるから大丈夫」


「マリー、それは最高でどのくらいの高さまで昇るのが可能な乗り物なの?」


「それは、まあ、好きな所まで昇れるはずだけど?降りたい時は弁から熱気を逃せば良いわけだし」


「好きな高さまで、ね」




 結果、高さは三階くらいまでということで落ち着いた。三階。なんだかもう遠くを見つめたくなるけど、これ以上は大好きなアレックスとの間にヒビが入りそうなのでやめにした。


 彼との関係にヒビを入れてまで高く昇りたいかと聞かれたら即答で否よ。そもそも昇るのが私じゃなくてアレックスだし。ここでヒビを入れる必要は無い!全く無い!うん。


 ま、乗ってもらって安全と理解してもらえれば私が乗って高く昇れる日も来る。高い所から眺める景色は逃げやしないわ!


 


 ふぅ。それにしても心理戦は疲れるわね。甘いお菓子でも食べようっと。ハロルドが食べてなければアップルパイがまだ残ってたはずよ。

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コミック『超!!! 天才発明令嬢のパワフル領地改革1・2・3・4・5巻』
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