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31 問い合わせの来る療養所

 後日、国王のグリードがアレクサンドルを呼び出して、婚約の話は内々のうちに取り消しになったと告げた。


「いったいどんな手を使ったんだい? 後学のために教えてほしいんだが」

「手なんて使ってませんよ。子どもたち同士で楽しく遊んでお茶会をしただけです。我が家は子どもたちに厳しい躾をしていませんからね。上品な侯爵令嬢に愛想を尽かされたんじゃないですかね」

「そんなわけがあるか。が、まあいい。借りを作らずに済んだ」


 王宮からの帰り道、アレクサンドルは一人で微笑みを浮かべていた。

 子どもたちだけのお茶会の夜、レイアを呼び出してお茶会での会話を詳細に聞き出してあるのだ。


「相手を傷つけず、相手から断られるように持っていくとは。さすがだよニコラス」





 開放庭園の工事は順調に進んでいる。


 林の中の一角には、程よく距離を取って十軒のツリーハウスが設置された。木や枝ぶりに合わせて作ってあるので、全て大きさも形も違う。共通しているのはどれも曲がった枝や木の皮、太いツタを使っていて景色に溶け込んでいることだ。



「トム、お母様に聞いたんだけど、もうツリーハウスだけでいいから子供を遊ばせたいって人がいるらしいね」

「はい。ツリーハウスの噂を聞きつけた貴族の方から矢の催促だそうです」

「まず最初は全体を見て欲しいんだけどなぁ」

「仕方ありません。あのツリーハウスは私のようなジジイでも胸が躍りますからね」


 工事の人間から漏れたのだろうが、あえて色味を抑えた外観も、中に置かれた古びた小さなテーブルと椅子、年代物の宝箱、壁に貼られた古い地図、それら全てが秘密の隠れ家の魅力を増している。




「それと、泊まりがけでくつろげるようにゲストハウスも建てることになりましたよ」

「貴族用と平民用とが必要だろうに。どうするのかな」

「どちらも建てるそうです」

「まさか全部お母様が仕切ってるんじゃないよね?」

「そこは専門家が担当しています」


 開放された庭を見るのに泊まりがけで来る人がいることはニコラスには予想外だが、このロマーン王国には貴族の別荘を除けば外で楽しく過ごす場所がほとんど無い。それ故に注目されているらしい。


 また、平民の側に余裕がなかったのもある。戦争の不安がなくなってやっと今、外で遊ぶ心と金銭の余裕が生まれたのかもしれない。


「マリアンヌ様は気鬱の病などの方のために週単位で契約する療養所も建てるとおっしゃってました」


 伝染病以外の病人は、生き死にに関わる大怪我でない限り、家にいて医者を呼ぶか薬を飲ませるのが普通だ。だからこれは全く新しい試みである。むしろ庭園より療養所の方が世間の注目を集めるかもしれないな、とニコラスは思った。



 ツリーハウスが出来上がったら次はボートといかだで遊べる池を作る予定だ。大人の腹ほどの深さの溜め池を造り、ゆったりと水上で読書したりお弁当を食べたりも出来るようにする。


「初めて王都に近い位置にこのような場所ができるのですから、もしかすると予想外に人が集まるかもしれません」

「貴族も普段は自分の別荘以外は行かないものね。静かな雰囲気が壊れないといいけど」


とても贅沢な悩みを抱える二人だった。



 マリアンヌが自分の活力が枯渇してしまったときに感じたのは、周囲への申し訳無さだった。

 週に一日でも二日でもいい、どこかで療養できる場所があれば本人の気分も変わるし家族を休ませてあげられるのに、と思っていたのだ。そこに医師と看護の手があれば尚更いいと今回思っている。

 思ったらすぐ行動する性格のマリアンヌは早速医師探しを始め、療養所の内容を建築家と話し合っていた。


「マリー、人に任せられるところはちゃんと任せる約束だよ」

「ありがとう、あなた。ちゃんと人を雇っていますから安心してね」


 あいかわらず甘い空気をダダ漏れさせている二人に、メイドたちは生温かい目さえもやり場に困っていた。





「広大で美しい庭園に隣接し、王都の近くで、医師もいて、くつろげる療養所」の話は設計と建築に関わる人達に新しい仕事の可能性を示し、皆がたいそうやる気になった。


 庭園予定地の隣接地が新たに購入され、

「どうせなら外観も庭園の考え方に沿うように」とあたりの景観と一体化し、かつ心を癒やすものが目指された。


 療養所のデザイン画を見たとき、マリアンヌが一瞬絶句したものだ。


 その療養所は丘の南側のゆるやかな斜面に一軒ずつ建てられ、斜面に建物の後ろ三分の一が食い込むように建てられた不完全な円柱形である。斜面から突き出している前三分の二の屋根は緩やかなカーブを描いている。ニコラスの提案で土が載せられ、背丈の低い野草が植えられている。


 隣の建物との距離もあり、植栽で視線も遮られていた。玄関にはスノードロップ型の小さなガス灯が付けられていた。


 フローラがひと目見て「私もここに泊まってみたい!」と言ったのも無理はない。



 内装も「心を癒やす」をテーマに自然の穏やかな色を基調に選ばれ、寝具はこだわりの品が用意された。最近では「療養所の予約はまだできないのか」との問い合わせが来ている。


「どこから漏れるのかしら」とマリアンヌは不思議がるが、工事に関わる者や納入業者が酒場や食堂でうっかり話題にすると、その場にいた者皆が興味津々で聞くのだから広まってしまうのも無理はなかった。



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