22 僕と王子様
夕方、なんだか屋敷の中がザワザワしてるなーと思ってピーター伯父様に尋ねたら、この国の王子たちがこの家に遊びに来るんだって。
ほんとは僕と昼間に遊ばせたかったらしいんだけど、お母様も僕も結構ギッシリ予定が入ってて、じゃあ夕方からにしましょうってことで子爵の家になったそうだ。
アーティボルトさんは僕達だけでも大変なのに自分の国の王子たちも来ちゃって大変じゃないかな。助けてあげなきゃね。
と、思ったけど、顔合わせの挨拶の時、「しまった!」と思った。僕、ホランド語は自己紹介と「はい」と「いいえ」「ありがとう」くらいしか話せない。
だから夕食はピーター伯父様とアーティボルトさんの通訳が入ったけど、お母様はホランド語を話してた。フローラは赤ちゃん語だし、困ったのは僕だ。通訳されながら遊ぶなんて面倒すぎる。
第一王子のエドワードは気難しそう。第二王子のフィリップは僕と同じもうすぐ四歳で大人しそうだった。
食事しながらいろいろ考えて、前に家で作って好評だったモビール作りをしようって誘ってみた。アーティボルトさんの家なら道具は揃ってるし工作なら言葉も要らないし。
アーティボルトさんに説明をして金属の細い棒と紙や絵の具や筆、糸と色々用意してもらって僕が最初に二段の簡単なモビールを作って見せたら王子たちがやる気になった。
僕は紙に蝶々とトンボ、てんとう虫、カマキリを描いて切り抜いてぶら下げた。ユラユラと揺れるモビールを見て「おお!面白い!」って言ってたと思う。多分だけど。
王子たちが夢中で作ってる間に僕が二段のモビールにたくさん付け足して四段のモビールを作ってみせたんだけど、これ、段が増えるほどバランスを取るのが難しいんだ。
僕は四段にして棒の長さをわざと変えたりして、十六匹の昆虫を描いて豪華なモビールを作った。フローラがキャッキャ喜んでくれて大満足だ。
すると第一王子のエドワードが『お前には負けない!』(多分)って言って段を増やし始めた。
エドワードは動物のモチーフだ。でもなかなかうまくいかずにモビールが傾いちゃう。しかも十六種類の動物を思いつかなかったらしくてウンウン悩んでる。そこは色違いにするとか適当でいいのに。
第二王子のフィリップは僕のお母様に手伝ってもらって魚の絵を沢山つけた四段のモビールを完成させてた。『やったー!』(多分)って喜んでた。
最後まで苦戦して四段は完成しなかったエドワードは『もう帰る時間ですよ』(多分)って従者のおじさんに言われて涙目で文句言ってた。
負けず嫌いだなー。
僕とフィリップは割と仲良くなってお互いのモビールを揺らして眺めて拍手したりして友達になれた気がする。
フィリップがエドワードに『僕のすごいでしょう』(多分)って自慢してエドワードに何か言い返されてしょんぼりしてた。きっと『お前なんか大人に手伝ってもらったじゃないか』(多分)って言われたんだな。
大人げない。子供だけどさ。
寝る時間にお母様が僕の部屋に来て「今日はとてもいい交流が出来たわね」って誉めてくれた。
だから「ハロルドお兄様がどれだけ優しくて心が広いかよくわかりました」って返事をしたら、お母様が大笑いしてたよ。しかも「ハロルドの気立ての良さはお父様に似たのよ」とか言う。
そしてなんと、明後日もあの二人の王子が僕と遊ぶらしい。えええー。フィリップはいいけどエドワードが面倒くさいよ。
「じゃあ、また交流を頑張りますから自動走行機の後付け部品専門店に行きたいです」と言ったらお許しが出た。これで気持ちよく眠れるよ。
眠る時、お兄様が手渡してくれた冒険セットを枕元に置いて寝た。お兄様が懐かしい。寂しがっているんだろうな。
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ニコラスは自宅ではあまり自己主張をせずに周りの様子を観察してることが多いけど、他人が入ると気遣いが出来ることにびっくり。ただ、エドワード王子に対して冷ややかな目つきなのがちょっと気になったけど、まあ、なんとかなるでしょ。
明日は私も部品専門店が楽しみだわ。
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私はニコラス坊っちゃまを見慣れているせいか、つい坊っちゃまを普通に思ってしまうけど、今日、王子様たちの様子を見ていて、ニコラス坊っちゃまがとんでもなく大人びているんだって思い出した。ハロルド様だって歳のわりにはとても大人だわ。
そうよ、普通は四歳とか七歳って、王子様たちみたいな、あんな感じだったわ。慣れって怖い。
あと、フローラ様が日に日に活発さを増して来ていてそれも怖い。お怪我だけはさせないように気を引き締めなくちゃ。全身ミルクだらけになって牛の乳を飲んで笑ってるお姿は、なんていうか、さすがはマリアンヌ様の娘!って思った。誰にも言えないけど。
フローラ様がおなかを壊さなくて本当に!本当に!良かった。強いおなかで助かりました。





