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17 未来を預けるに足る人

 ゴルデス王国軍の兵士たちは次々と体が思うように動かなくなり倒れていった。


「なんだ?体が、動かない!」


 兵士たちは倒れはしたものの、まだ意識はあった。その彼らが地面に横たわったまま目を開けていると、ブロロロロと機械音をさせて沢山の動く乗り物が走って来る。


(あれは、話に聞く自動走行機?)


 やがてすうっと気持ちの良い眠気が訪れる。

(殺されてしまう、眠ってはダメ……だ)


「送風班、進め!」


 四台の送風機を積んだ大型自動走行機ペガサスが数十台、窪地の一方向から強制的に風を送り、辺りに立ち込めている催眠性のガスを追い払う。


「捕縛班、進行!」


 今度は小型自動走行機ポニーに三人ずつ乗った捕縛班が敵国の軍の中に入り込み、次々と敵を縛り上げる。


 上の階級の軍人からどんどん縛り上げ、ガスの効き目が薄れてぽつりぽつり目を覚ます者が現れる頃には、まだ縛られていないのは歩兵、それも武器は全て取り上げられた丸腰の者たちだけで、それもすぐに縛られた。


 銃を突きつけられ、見張られ、歩兵たちは為す術がない。自分たちに命令を出す上官たちは既に全員がロープで縛り上げられている。


 やがて屈強な兵士達に守られた男がガイヤー将軍に歩み寄った。将軍だけは縛られてない。椅子に座らされ、その周囲は銃を構えた兵が囲んでいた。


「ガイヤー将軍、初めて顔を合わせるな」

「ああ、ワイト将軍。せっかく顔を合わせたのに座ったままで失礼するよ」


 ロマーン王国軍ワイト将軍が微笑む。


「なあ、ガイヤー将軍、将軍と言えど互いに王に仕える身の上だ。出来れば優れた王に仕えたいものだな?」


「ああ、そうかもしれないな」

ガイヤーが思わず目を伏せる。自分もそう思っていたのだ。


「これから君らの国に届け物をしなければならないんだ。すまないが髪を少々切り取らせてもらうよ」


 

 ワイト将軍の言葉を待っていたロマーン王国の兵士がガイヤー将軍の黒く長い髪をひと束サクリと切り落とし、胸の勲章を手早く外して箱に入れた。



「揃いました」

 部下の報告を聞き、ワイト将軍がゆっくり頷いた。




□ □ □




 ゴルデス王国軍の兵士たちが三人、馬を走らせていた。早く帰らねば!俺たちが早く帰って陛下に報告せねば!


 縛られたまま自分たちを見送った仲間の姿が脳裏に浮かぶ。


 尊敬してやまないガイヤー将軍が「手間をかけるな」と穏やかなお顔で見送ってくださった。


 俺たちは戦うことさえ出来なかった。

 圧倒的な技術力の差の前で、剣のひと振り、弾の一発も食らわせることなく負けた。あまりの情けなさに涙が溢れる。

 


 半日走り続け、馬を潰してしまわぬよう休憩させている時も三人は言葉少なく俯いていた。


「俺たちの国は、どこで道を間違えたんだ?」

「ハンス、やめろ」


「なあ、リドル、俺たちの国は何が悪かったんだろう」


 答える者はいない。やがて三人は休ませた馬に乗り、再び母国を目指して走り出した。


 早く、一刻も早くこれを届けて事態を正確に知らせなければ。縛られ、地面に座らせられた仲間の姿を思い出すと胸が痛む。


 三人はひたすら母国へと走った。



□ □ □



 ロマーン王国の王宮で、話し合いが行われていた。話を進めているのはグリード国王だ。


「ガイヤー将軍、私はあなたがゴルデス国の未来を導けばいいと考えている」


「私に反逆者になれと言うのですか」


「そうだ。民を飢えさせ、戦わせ、死なせながら、自分たちだけは贅沢な暮らしを変えようともしない王は、命を懸ける価値があるかい?王子はどうだ?王子は数十年先の国の未来を、子供の命を、任せる価値のある男か?」


 ガイヤー将軍は答えなかった。いや、答えられなかったのだ。この国王はゴルデス国の内情を知り尽くしているに違いない。言葉からそれが伝わってくる。


 母国の王は支配欲と物欲の化け物だ。贅沢に溺れ、王宮の予算を食い散らかし、足りなくなれば税率を上げた。


 側室を何人も抱え、女たちには雨を降らせるかのように金を使い続けている。王子も王にそっくりの能無しだ。


 国民の識字率は低く、働く意欲も体力も枯渇し、皆が疲れ切って飢えていた。


「我が国に無いものは他国から奪えば良い」


 不健康に太った王は当たり前のようにそう言って自分たちを送り出した。


 下っ端の兵たちはともかく、間近で王族を見ている軍人たちは、やるせない気持ちに蓋をしてここまで来たのだ。


 それに比べてこの国はどうだ。


 整備された街道、豊かな食料、兵士と共に部屋に食事を運んできたメイドたちでさえ皆、当たり前に字が読めた。


 空に浮かぶ船、道を行き来する大小の自動走行機。何もかもレベルが違いすぎた。そもそも、空を飛ぶ船も吸えば眠くなるガスも、母国では聞いたこともなかった。


(この国から奪ってこいだと?なんと愚かな)


 ガイヤー将軍と将校たちはロマーン国と自国の国力の違いに呆然としていた。

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