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13 ハルベリー王妃

(やれやれ。この国で一番の権力者はお義母かあ様かもしれないわね)


 マリアンヌが苦笑して歩いていると、向こうから女性の集団がやって来た。ハルベリー王妃と女官たちだ。


 廊下の端に寄って頭を下げて通り過ぎるのを待っていると、ハルベリー王妃はマリアンヌの前で足を止めた。


「お久しぶりね、マリアンヌ」

「お久しゅうございます王妃様」

「エカテリーナ様とお茶会だと聞きました。相変わらず可愛がられているようで結構なこと」

「ありがたいことでございます」


 そこで王妃が歩き始めたのでホッとしていると、再び王妃は立ち止まり、顔だけを振り向かせた。


「そうそう、公爵家の庭でとても大きな物が空に浮いたり沈んだりしていたと聞きました。新しい乗り物かしら?」

「はい。左様でございます」


「また、ただの乗り物で終わらせるつもりかしらね。公爵夫人は気楽で羨ましいこと」


(我慢。我慢よ。挑発に乗ってはダメ)


「我が子が次の王になろうと言うのに、親として国のために力を尽くす気はないの?」

 

 

 マリアンヌの顔が固まる。

 ハロルドが次期国王になることは、是非にとグリード国王と前王と国の重鎮達に望まれたことだ。王妃と言えどこんな言われ方をされるいわれはない。


「私の作った自動走行機は民も国も利用しています。郵便の集配も同様です。あの程度では不足、と言うことでしょうか」


 王妃が顔だけでなく体ごとマリアンヌの方を向いた。


「国の繁栄のためにもっと自分の力を役立てようと思わないのか、と聞いているのです」


「戦争の道具を作らないのかと言う意味でしたら、思いません。戦争で国を大きくする時代は終わったと思っております」


「なっ!」


 王妃の実家は戦争侯爵と呼ばれる武器製造に強い家だ。それを否定されたと思ったか、王妃の顔が怒りで強ばる。周りの女官達が顔を引きつらせて下を向いた。


「そこまでだ」


 力強い声がして、その場の全員が声の方を見ると、グリード国王が重鎮達を引き連れて立っていた。


「マリアンヌ、母上の相手をしてくれたそうだな。礼を言うよ」

「もったいないことでございます」


 マリアンヌの言葉を聞いたグリード国王が優しく笑った。


「私のお茶会をさっさと逃げ出したお嬢さんも、立派な受け答えが出来るようになったものだ」


「陛下、もう、そのお話は」

 

 あの頃はまだ六歳で、いろいろとやりたい放題だったのだ。


「さあ、行くぞ」

そう声をかけてグリード国王はハルベリー王妃の背中に手を当てて促した。すれ違いざま、目で(すまない)と合図をしてくれる。


 頭を下げて(助けられた)と思った。

 あのまま話を続けていればどちらかが折れなければならなくなる。女官たちの前で王妃にとことん言い返すわけにはいかないし、自分が白旗をあげれば戦争の道具作りを受け入れることになる。


(もっと上手に嫌味をやり過ごせるようにならなくては)


(それだけじゃないわ。私は社交界でも夫の力になっていないのよね)


 後ろ向きの思考に鼻の下までどっぷり浸かりながらマリアンヌは大型自動走行機に乗って帰宅した。


 



 夕食後、アレクサンドルはハロルドとマリアンヌだけを残して皆を下がらせると、話し出した。


「またハルベリー王妃が何か言ったそうだね」

 マリアンヌはハロルドを気にして「ええまあ」と曖昧に答えた。


「ハロルドはそろそろその辺のことを知ってもいい頃だ。構わない」

 そう言われてマリアンヌが口を開く。


「気球のことをもうご存知で、ただの乗り物で終わらせるのか、と。それと次期国王の親なのに国のために力を尽くさないのかと言われました。なので戦争の道具を作る気は無い、戦争で国を大きくする時代は終わったと申し上げました」


「そこは何度も確認済みなのだがな。王家がマリアンヌの発明を戦争に利用しないと言う条件でハロルドの次期国王を認めたはずだ」


「グリード様はどうして……」

 どうして第二妃も側室も置かないのかと言いかけて言葉を飲み込む。


 国王に後継を望むなら、そちらの方が話が簡単ではないかと思う。が、ハロルドは頑張っているし、自分が嫌っている側室制度なので口には出さなかった。


「妻は一人でいいと言う兄上の意向もあるが、ハルベリー王妃が推挙した第二王妃候補は、どれも戦争賛成派の貴族の令嬢ばかりだった。

 そんな人が子を産めば、後ろにいる者たちが口を出す。そうなればこの国はまた戦争を始めるようになるだろう。兄上はそれを避けるために第二王妃も側室も置かずハロルドを指名したんだよ」


「そんな事情があったのですね」


「ああ。父上も兄上も戦争反対のお立場だが、トワイス家の派閥が手強くてね」


 そこまで黙って話を聞いていたハロルドが口を開いた。


「お父様、お話ししてもよろしいですか?」

「ああ、構わない」


「僕は国の豊かさを武器にして、他国が頭を下げても我が国と手を結びたくなる技術を育てられる国を目指したいです」


 おっとりした子がいつの間にかしっかりした意見を言うようになっていて、夫婦はしみじみした。


 が、実を言えばこのロマーン王国は他国と比較すれば既に十分に豊かで、虎視眈々とその豊かさを我が物にしようと狙う国があるのも現実だった。


 ロマーン王国は二代続けて国王が周辺国と相互不可侵条約を結んできたが、それに応じない地続きの国が二つある。


 ロマーン王国の王族及び軍部は、近年その動向に神経を尖らせていた。


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コミック『超!!! 天才発明令嬢のパワフル領地改革1・2・3・4・5巻』
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