表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/67

1 ハロルド 六歳の秘密

今回は公爵となった元第二王子のアレクサンドルが長男のハロルドにこっそり秘密を打ち明けられるお話です。


二話はまた別の家族が優雅ではない生活を繰り広げます。

「お父様、僕、秘密があるんです」


 ハロルドが真面目な顔をして、声をひそめて私に告白する。


「おやまあ。ハロルドの秘密を教えてもらえるのかい?」

「お父様にだけ、こっそりお教えします。お爺さまにもおばあ様にも伯父様たちにも内緒ですよ?」

「国王にも内緒とは、重大な秘密だねハロルド」


 ハロルドがいっそう声を小さくして私の耳に口をつけてヒソヒソ声になった。小さな顔が私にくっついて、くすぐったいけど幸せを感じる瞬間だ。


「ええ。とても重大な秘密です。実は僕、今日、王宮で秘密の通路を見つけました」


「えっ!」

「しっ!お父様、声が大きい!」

「ちょっと待ってくれハロルド、それはどこ?ほんとに秘密の通路なの?ハロルドに見つけられるなら秘密じゃないんじゃないの?」


 思わず大人げなく本音を言ってしまった。ハロルドは(僕、傷つきましたよ)と言う顔でたっぷり私を眺めてから話を続けた。


「本物の秘密の通路ですよ。だって、その通路の先は厨房だったんだもの。お母様には内緒ですよ?一番乗りで入ろうとするに決まってますから。僕の次はニコを通路に入れてやると約束したんですからね」


 ハロルドが王となるべく勉強している部屋は王族の私的エリアである三階の中央部分だ。そして厨房は一階の東端。


「それは……本物の秘密の通路っぽいんだけど。ハロルド、詳しく話してくれるかい?」

 ちょっと聞き捨てならないことを聞いた気もするが、それは後回しだ。


 何よりも俺、あそこに二十一歳まで住んでたけど、そんな通路は知らないぞ?




 ハロルドは三歳の弟ニコラスにこんな話を聞いたらしい。


「おひさまの光が部屋に差し込んでいるときに小麦粉を高い場所に置いて、パタパタ扇ぐと、いつもは見えない空気の流れが目で見えるようになる」と。


 ハロルドは常々弟のニコラスは面白いことを考え出す天才だと思っていたので、それを王宮での待ち時間に試そうと思いついた。


 王宮での勉強は科目によって先生が代わり、その交代が上手く行く時もあれば行かない時もあり、待たされる時は長いこと待たされるのだ。


 今までは部屋の中で体を動かしたり本を読んだり、こっそり戸棚の中をのぞいたりしていたけど、弟の言った言葉が忘れられず、料理人に頼んで紙袋にひと摑みの小麦粉を入れてもらって王宮に行ったのだそうだ。


(うちの料理人も何でハロルドが小麦粉をねだったのか、理由を聞いてほしかったよ。王宮の掃除メイドが小麦粉を取り除くのに泣いたな)


 いつもは退屈な待ち時間もその日はワクワクで、毎回遅れがちな歴史の先生が来る前に机の上に小麦粉を小さな山にして、本棚にあった硬い紙でパタパタ扇いでみた。


 朝の低い角度の光が窓から差し込み、小麦粉は空中を踊るように舞い上がり、静かに落ちる、と思ったら違っていた。


 反対側の壁の本棚の方に飛んで行った小麦粉が、ほんの少し押し戻されて来たのだ。


 そこでハロルドは小麦粉がわずかに押し返される箇所をじっくり眺めたところ、本棚の後ろからごくわずかに空気が流れて来ているのに気づいた。


「それでね、本棚を押したり引っ張ったりしたけど、全然動かなかった」


「そりゃそうだろ。本は重いからね」


「それでニコにその話をしたらね、『お兄様、それは力で動かすのではなくて何か仕掛けがあるはずです』って言うから」


「ニコラスかぁ。そうかぁ」


 あの子はマリアンヌの複製のような頭の持ち主だからなぁ。


「毎日少しずついろんな場所を押したり叩いたりしたんです」


 私は思わず我が子の顔を見た。

 ハロルドはまっすぐで正義感の強い少年らしい少年だが、そんな忍耐強い面もあったのか。


 毎日根気強くいろんな場所を押したり叩いたりした結果、本棚の後ろの壁の下の方を押すと奥に向かって動く箇所を見つけたと。


 そこを強く押したらカチッと音がして本棚が軽く押しただけで横に動き、壁に出入り出来る大きさの穴があったと。


「それはどんな穴だい?」

「煙突を大きくしたみたいな、真っ直ぐ下に空いてる穴でした。鉄の輪っかみたいのが壁に打ち込んであって、降りられました!」


 ちょっと待て。

 三階から一階まで真っ直ぐな穴を降りたのか?落ちたら死ぬじゃないか!


「それでどうしたのかな?」

「降りました」


 降りたかぁ。そうかぁ。こうして生きてるから落ちなかったわけだが。


「途中で穴が横になって、少し進んだらまた真っ直ぐに下に降りることができて、また穴が横になりました」


 なるほど。通路は鉤の手になってたのか。


「上から光が入らなくて真っ暗になったから、ニコが言う通り一番小さなランタンを持って行って良かったです」


 ニコラス……


「で、最後に木の扉があって、そこを開けたら瓶や樽が沢山並んでる小部屋だったので、人の声がして隙間から光が漏れるドアを開けたら厨房でした!みんなびっくりしてましたよ!」


 なるほど。そりゃ驚くよね。次期国王が厨房の収納庫から出て来たらね。


 夕方に王宮から急ぎの使者が来て「ハロルド様の安全管理が不行き届きで大変な失礼を」と言ってたのはこれか。


 あの時は来客中で忙しかったし当人が怪我したわけではないと聞いたから、抜け出して王宮内で迷子になったのだとばかり思っていたが。


 使者も詳しいことは知らなかったのだな、何しろ秘密の通路だし。


 兄上が明日相談したいことがあると言ってたのはこのことだったか。




 翌日、国王である兄に繰り返し陳謝され、長いこと誰も知らなかった秘密の通路の件は、我が家と王家だけの秘密ということになり、ハロルドの勉強部屋は他の部屋に変えられた。


 それにしてもニコラス……


 グリード国王はアレクサンドル公爵の兄。王が子宝に恵まれないため、甥っ子のハロルドが次期国王に内定しています。


 現在は王宮に通って次期国王としての教育を受けているのです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コミック『超!!! 天才発明令嬢のパワフル領地改革1・2・3・4・5巻』
4l1leil4lp419ia3if8w9oo7ls0r_oxs_16m_1op_1jijf.jpg.580.jpg
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ