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第5話 今の世界と前の世界

 料理を手伝うことに、囮役として臨時パーティーを組んでいると、野宿の時に料理をさせられることもあったので、なんとかアリルカさんの手伝いをすることができた。


「んん~!やっぱり唐揚げは美味しいわ!」


「エシルはほんま美味しそうに食べるなぁ。それで食べる量が10分の1ぐらいやったら食費も困らへんねやけど。」


「あはは⋅⋅⋅⋅⋅⋅ほんとによく食べるんですね。」


 僕が唐揚げを一つ食べているうちに、目の前では10個ほどの唐揚げが消えていく。


 けど、それも無理もないと思えるほどこの唐揚げが美味しいというのもまた事実である。


 実際は凄く昔のことだろうけど、僕にとってついこの前まではろくにご飯も食べられなかった生活をしていた。


 だから、こんなにも美味しいご飯を食べたのは初めてだった。


「まだまだあるから、好きなだけ食べや。」


 キッチンに行って戻ってきたアリルカさんが、追加の唐揚げを持ってきてくれた。


「ありがとうございます。」


「んー、はひはほー!」


「エシル!口に入ったまま喋らへんの!」


「ふぁーい。」


「言った側から⋅⋅⋅⋅⋅⋅はぁ。」


 呆れてものも言えないといった様子で、アリルカさんは椅子に座って自分も唐揚げを食べ始めた。



 机に並べられた唐揚げが瞬く間に消えていき、賑やかな夕食を終えた僕たちは『緑茶』という東国から輸入されたというお茶を飲んでいた。


 なんとも言えないほろ苦さがあるけれど、それが嫌な苦さじゃなくて、とてもほっこりする。


「うちの父が東国出身で小さいころから飲んでたんやけど、これがほんま好きなんよ。やから今でも見つけたら買うとるんや。」


「私は苦くてあんまり好きじゃないわ。」


「なら飲まんかったらええやんか。」


「それはそれで損した気分になるじゃない。」


 いつも通りのエシルさんらしい発言をスルーして、アリルカさんは僕のほうに顔を向けた。


「ほな、そろそろハクト君に話してもらおうかと思うんやけど。」


「あ、はい。わかりました。」


「まぁそう焦らんと。」


 約束通り僕の素性について話そうとすると、アリルカさんに制されてしまった。


「なんで止めるのよ!」


 エシルさんが、むすっとした顔で言う。


「何かありましたか?」


「ずっと言いそびれとったんやけどな。その、普通に話してくれへんか?」


「普通に?お、おかしいですか?」


 いつも通り話してると思うんだけど⋅⋅⋅⋅⋅⋅。


「おかしいとかやなくて、うちら会ったのは今日やけど、それなりに仲ようはなったと思うんよ?」


「そうゆうことね。今更だけど、私も気になってたのよね。」


 エシルさんは理解しているみたいだけど、僕には全く身に覚えがない。


「あの、すいません。話が見えないのですが。」


「それや!」  「それよ!」


「その他人行儀な話し方をやめてほしいのよ!」


「え、ええ?」


「いや、別に絶対とは言わへんけどな。仲ようなれたと思ってるのはうちらだけかもしれへんし⋅⋅⋅⋅⋅⋅。」


 突然のことにテンパってしまったけれど、アリルカさんの申し訳なさそうな表情をみて、やっと冷静に内容を理解することができた。


「そんなことないですよ!初めて会った人たちがエシルさんとアリルカさんでほんとに良かったと思ってます!」


「初めて?どうゆうことかしら?」


 あ、まだ僕の素性の話もしてないのに分かるわけないか。


「えぇっと、それはこのあとの話を聞いていただけたらわかりますので。」


「そう、分かったわ。それより、そう思ってくれてるなら普通に話してほしいんだけど。」


「そ、そうでし⋅⋅⋅⋅⋅⋅そうだったね。これでいい?」


「うんうん。それでいいわ。」


「そうやね。その方がしゃべりやすいわ。」


 こんな話し方、独り言以外でしたことないんだけどな⋅⋅⋅⋅⋅⋅でもこの方がいいなら、普通に話すとしよう。


「でも、ハクト君がうちらのことをそう思ってくれてるなんて嬉しいわ。」


「僕も二人にそう思ってもらえて嬉しいよ。」


「ねぇ、そんなことより早くハクトの話をしてよ。」


「⋅⋅⋅⋅⋅⋅いまいい雰囲気やったやんか。察してや。」


「いい雰囲気かなんて知らないわよ。それより私はハクトの素性が気になるの!」


「じゃあ、そろそろ話をしようかな。」


 エシルさんの僕の呼び名が『貴方』から『ハクト』に変わっていることは気にせず、僕が眠りにつく前の世の中やそのときの僕の生活、そして眠りにつくことになったわけと僕のスキル『硬化』についても説明していった。


 エシルさんは終始楽しそうに聞いていたが、アリルカさんのほうは話の要所要所で大きく反応していた。


「こんなわけで、今に至るって感じだね。」


「へぇ、代償スキルねぇ。よく分からないけどなんか納得だわ。」


「う~ん。信じられへんわ。」


「なに?ハクトの話を信じてあげないの?」


「いや、そうゆうわけやないんやけど⋅⋅⋅⋅⋅⋅でもその代償スキルってのがほんまやないと、ハクト君の化けもんみたいな防御力も説明でけんへからなぁ。」


「そうなの?」


 ここで僕がいままでずっと気になっていた、僕の防御力が異常に上がっていることについての話がでた。それも、その理由がわかっているらしい。


「なんでよ?」


「うちの仮説なんやけどな。その代償スキル『スリープ』ってのは眠ってる間、硬化の防御力と自然治癒力を強くするんやろ?軍隊蟻(アーミーアント)の巣に餌として運ばれたわけやし、寝てる間にえげつい量の軍隊蟻に噛まれたはずや。つまり、噛まれては治り、噛まれては治りを繰り返した結果、防御力と硬化の能力だけが人の範疇を越えて成長したってわけやな。」


 ⋅⋅⋅⋅⋅⋅あの少ない情報だけでそこまでの仮説をたてられるのか。もう仮説と言うより、真実なんじゃないかな。


「ほんとよくそんなに頭が回るわよね。」


「⋅⋅⋅⋅⋅⋅これぐらいは頭が回らんとエシルのやらかし対処しないなんかやってられへんわ。けど、やっぱり仮説は仮説にすぎひんからなぁ。」


 アリルカさんは少し顎に手を当てて考え込んだものの、考えるのを諦めたのか納得いかないといった顔をしていた。


「まぁわからんことはしゃあないかぁ。代償スキルは機会があれば情報集めしとくことにするわ。」


「僕も気になるからそうしてくれると嬉しいかな。残念ながら僕はこの世界で⋅⋅⋅⋅⋅⋅まぁ前の世界でもだけど⋅⋅⋅⋅⋅⋅交友関係とかはないからさ。」


「ふふっ、あはははっ」


 そう自虐ぎみに言うと、エシルさんに笑われてしまった。


「今の世界と同じなのに前の世界って、変なの!」


「あー⋅⋅⋅⋅⋅⋅それもそうだね。」


 一瞬友達がいないことを笑われたのかと思ったけど、そうではなかったらしい。


 けど、よくよく考えれば今も、僕が眠りにつく前も世界が変わった訳ではないんだよね。


「ハクト君にとっちゃ世界が変わったも同然やろうからなぁ。別に変なことは無いんとちゃうか?」


「でも、面白いじゃない~、前の世界って、あはは!」


「あぁ!?」


「ひ、ひぃ!」


 あまりにも笑うのが僕のことを馬鹿にしているように見えたのか、アリルカさんが睨みをきかせる。


「ハクト君も、馬鹿にされたらちゃんと怒らなあかんで。」


「うーん⋅⋅⋅⋅⋅⋅エシルさんは馬鹿にするつもりで笑ったんじゃないと思うから、僕は大丈夫だよ。」


「そうかぁ。優しいのはいいことやしうちらも助かるけど、それを逆手にとってくるやつもおるから気を付けなあかんで?」


「世の中物騒だからね。ハクトはすぐひっかかりそうね。」


「また馬鹿にするようなことを⋅⋅⋅⋅⋅⋅。」


 それからしばらく話をしていたけど、夜も深くなってきたのでそろそろ寝ることになった。


「そういえば今更なんだけど、ハクトはどこかに泊まるのかしら?」


「そんなお金ないよ。どこかで野宿でもできるかなぁと想ってるんだけど。」


 前からずっと路地裏で寝てたし、お陰で物騒な路地裏でも安全な場所を探すことだけは得意になったからね。


「何を言うとんねん。今日はうちに泊まっていけばええやないか、というかそうゆう予定やったんやけど。」


「泊まるところがないならそれがいいわね。」


「え、でも迷惑かかるし、いつものことだからいいよ。」


「そんなんうちらの気がすまへんやろ。それでもしハクト君に何かあったらと思うと寝つけへんわ。」


「でも、一応男だし僕が何かするかもしれないよ?」


「そんなことするつもりなんか?」


「そんなつもりないけど⋅⋅⋅⋅⋅⋅。」


「ならええやろ。なぁエシル。」


「えぇ、大丈夫よ。」


「⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅分かった。今日はお言葉に甘えさせてもらうよ。」


 よく考えれば、僕が二人に何かしようものなら問答無用でやられるだけだね。やるわけないけど。


「じゃあ私が部屋を案内するわ。空き部屋ならいっぱいあるもの。」


「だからこんなおっきい家やなくて良かったのに⋅⋅⋅⋅⋅⋅まぁ今回はそのおっきな家が役に立ったしええか。」


「ハクト、こっちよ。ついてきて!」


「う、うん。」


 エシルさんについて、二人で住むには長い廊下を進んでいく。いくつかの部屋を通りすぎて着いた一番端の部屋に一晩泊めてもらうことになった。


 最初エシルさんが自分達の隣の部屋に泊めようとして僕が困っていたので、アリルカさんが気をきかせて端の部屋にしてくれた。


 いくらそうゆうことをする気がないといっても、隣の部屋に泊まる度胸はないからね。


「それじゃあ、好きに使ってええからな。」


「分かった。ありがとう。」


 お礼を言って部屋に入ると、必要最低限のもの、ベッドとクローゼット、あと机が一つあった。


 特にしまうものもなにもなく、僕は吸い込まれるようにベッドに倒れこむ。


(ふっかふかだぁ⋅⋅⋅⋅⋅⋅。)


 ベッドで寝たのなんて何年ぶりだろう。


 そんなことを考えているうちにも、僕の意識はふかふかの布団に沈み込んでいく。


(おやすみなさい。)


 そうして僕は、洞窟で目覚めてから初めての眠りについたのだった。

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