第4話 長い眠りの影響
「ふぅ、今回は秒殺だったわね!」
「二回目やしな!あれめっちゃ体力削られるんやからな?」
「あ、お疲れさまです。」
今度はアリルカさんの体力切れで早めに終わったらしい。
「地龍が、何かあったら呼んでくれ、と言ってましたよ。」
きちんと地龍からの伝言を伝えると、エシルさんが驚くべき発言をした。
「そうね。王都に呼んで皆を驚かせようかしら。」
「⋅⋅⋅⋅⋅⋅それ冗談で言ってるんやんな?」
「え?面白いかなと思っただけよ。」
何とも微妙な雰囲気になる。
空気を変えたいし、違う話題を話すことにしよう。
「それで、二人はそろそろ帰るのですか?」
「そうね。そろそろ日も落ちてくるし、家に帰るつもりよ。」
「せやね。けど、ハクト君はどっか行くあてはあるんか?」
「行くあて⋅⋅⋅⋅⋅⋅」
普通なら家に帰ればいいんだろうけど⋅⋅⋅⋅⋅⋅僕はずっと野宿だったしな。
それに、あれから何年たっているのかも分からない。話のすれ違い具合から考えて、世の中が変わるぐらいには時がたっている可能性が高いかな。
「どうせ行くあてなんてないでしょ?」
「うっ⋅⋅⋅⋅⋅⋅は、はい。」
「まぁ、あってもなくてもついてきてもらうことになるんだけどね。」
「ついていく?どこにですか?」
「私たちの家に、よ。」
「それに関してはうちも同感やな。」
「な、なんでそうなるんですか!?」
そんな連れていかれるようなことをした覚えはないんだけど⋅⋅⋅⋅⋅⋅。
「ハクト君のスキルやな。」
「スキルが、ですか?」
「スキルだけじゃないわ。防御能力だけをみれば、私たちなんかよりはるかに高いもの。」
「エシルがそこまで言うっちゅうことは、ほんまにヤバイやつなんやな。」
「えぇ。私でもスキルを使ってやっとダメージが入るぐらいってところかしら。スキルを使われたらそれでも無理かもしれないわね。」
「それ本気で言うとんか!?」
「当たり前じゃない。」
「えぇっと、話についていけないのですが⋅⋅⋅⋅⋅⋅。」
「そんなんどうでもええわ!ほら、はよ帰るで!」
「えぇぇ!!」
驚いている暇もなく、突如体を浮遊感が襲う。
振り返ると、僕はエシルさんに小脇に抱えられていた。
「じゃあ、落ちないように私に捕まっててね。いくわよ!」
「えっ、ちょっ!う、うわぁ~!」
エシルさんが地面を蹴ったかと思えば、いつのまにか眼下には山肌にポツポツと生える小さな木々が見えていた。
横にはアリルカさんが魔法で飛んで並走していた。
「私は飛んでる訳じゃないから、何回か地面に落ちるけど気にしなくていいわよ。」
「お、落ちてる落ちてるー!」
そして、王都に着く頃には僕は目を回していた。
◆
「これが、王都なんですね。」
「あなた、王都も見たことなかったのかしら?」
「いや、その⋅⋅⋅⋅⋅⋅」
身分証明のできない僕が王都の検問が通れるのかという心配も、二人の顔パスのおかげで杞憂に終わってほっとしたのも束の間、目の前の光景に唖然とする。
王都というものは見たことがあったんだけど、あまりにも変わりすぎている。
薄々感じてはいたけど、やはり僕は世界が変わってしまうほどの長い間眠っていたらしいね。
「さっきの洞窟に近い町ってゆうたら王都ぐらいやからなぁ。見たことないってのはおかしな話やけど⋅⋅⋅⋅⋅⋅ハクト君の事情もあるやろ。」
「す、すいません。」
「気にせんでええよ。まぁエシルはめっちゃ気になっとるみたいやけど。」
そう言われて左隣を見てみると、エシルさんが最初会った時のようなキラキラとした目で僕を見ていた。
「あ、後で教えますから。」
「言ったわね!絶対教えなさいよ!」
「は、はい⋅⋅⋅⋅⋅⋅。」
どのみち教えることになるらしい。
しばらく王都を歩いている間、回りの様子を見てみた結果、分かったことが一つあった。
それは、町並みは僕が知っているものとは大きく変わっていたけど、文化水準は大きく変わってないということだ。
石畳の道は多くの人や馬車が行き交っているし、そんな人たちを呼び込もうと道端の露店からは客引きの声が聞こえる。
町を行く人は主に人間が多いけど、中には二足歩行の獣『獣人』や、人間に近いけど耳や尻尾といった部分的に獣の特性をもつ『半獣人』、あと、稀にエルフやドワーフといった少数種族もいる。
今でもそう呼ばれているかは分からないけど、他種族との交流が盛んなことは変わりないみたいだ。
そして、王都という名前の通り王が国を治めているわけだから、王都の中心部には立派な城が聳え立っている。
ちょっと質素な感じがするけど、僕の知っている無駄に目立つ装飾だらけの王城に比べたらこっちの方が好きだな。
「なんか知らんけど、楽しそうやな。」
「そうですね。案外楽しんでますよ。」
顔に出ていたのか、アリルカさんにそう言われてしまった。
けど、僕以上に楽しんでいる人が一人。
「アリルカ!串焼きボアよ!」
「⋅⋅⋅⋅⋅⋅そうやな。でも買わへんで。」
「なんでよ!美味しいじゃない。」
「エシルは食べ過ぎるやろ。」
「いいじゃない。私が稼いだお金よ。」
「はぁ!?」
その一言がアリルカさんの琴線にふれたらしい。エシルさんが珍しく『あ、やばっ⋅⋅⋅⋅⋅⋅』という顔をした直後、アリルカさんの手の上には煌々と光を放つ火球が浮かんでいた。
「ちょっ!それはまずいわよ!そんなもの私でも押さえ込めないわよ。放ったら辺りいったい焼け野原になるわ!」
「あぁっ?誰のせいでこんなことなっとると思ってんねや?」
「ご、ごめんなさい!私が悪かった、反省してますから、ね?それ、引っ込めて下さい。お願いします!」
「⋅⋅⋅⋅⋅⋅はぁー」
最後に一睨みして、アリルカさんは火球を消した。
「ごめんな、ハクト君。エシルはこうでもせんと言うこと聞かんのよ。」
「ほんと、大変なんですね。」
「はぁ、この苦労を分かってくれるのはハクト君だけやわ。あんなことするせいで町の人からは怖がられとるしなぁ。」
「それは⋅⋅⋅⋅⋅⋅。」
「まぁこんな感じでずっとやってきたわけやから、今さらどうこう言うてられへんわ。」
それ以上の慰めの言葉が思いつかないうちに、アリルカさんは自己完結してしまった。
エシルさんがしょんぼりとしてしまったので、僕たちは特に話すこともなく王都の中心街に向かって歩いていった。
中心街に入ると、商店は無くなり住宅街になっていた。
どれも豪邸ばかりで、貴族の町なのだろうと容易に想像できる。
「エシル。着いたで。」
「⋅⋅⋅⋅⋅⋅うん。」
「はぁ、怒られてへこむんやったら最初っからやらんかったらええのに。」
やっと二人の家に着いたらしい。
貴族街に入ってきたことから何となく気づいてはいたけど、二人で住むには有り余りすぎるほど大きな家だった。
「お、大きいですね。」
「そうやろ?うちはこんな大きくても使わへんしいらんって有たんやけどな。」
「やっぱり、エシルさんですか。」
「っ!や、やっぱりってなによ!」
「おっ、元気出てきたみたいやな。」
「そうですね。」
「むぅ!二人して私をいじめるのね!」
頬を膨らまして怒るエシルさんが面白くてアリルカさんと笑ったので、余計にエシルさんが頬を膨らましてしまった。
「まぁまぁ、そろそろ夕飯時やし、うまいご飯つくったるから機嫌直してや。」
「唐揚げがいいわ。」
「はいはい。そう言うわけやからハクト君、話は食後にしよか。」
「わかりました。料理、僕も手伝いますね。」
「それは助かるわぁ。普通の量じゃエシルが足りひんからな。」
色々あったけど、結局はアリルカさんはエシルさんを甘やかしてしまうんだなと思いつつ、僕はアリルカさんについていった。
因みにエシルさんは、唐揚げですっかり機嫌を直したみたいで、スキップ気味の軽やかな足取りで家に入っていった。