クズと道端系美人
自分の人生は、そんなにつまらなくもないと思っている。
生活環境には困っていないし、たまに遊ぶ程度の友達はいる。
なのでどこぞの漫画やラノベの主人公みたいに斜に構えて日常から逃げようとする必要もないはずだ。
しかし、世の中には不可抗力というものがある。
つまり何が言いたいかというと、少年は家族会議に引きずりだされたのだ。
神妙な顔をする父親に、へらへらと笑う母親。
「あのね、来月転校するから」
突然その真実を突きつけられた三良林檎は、もちろんぶったまげたのだった。
それそのノリで言う???
8月某日13時。見慣れない風景の中で、運送会社のトラックを見送った。「もう高校生だろ」とか言われて親に荷物運びを手伝わされたので、腰が痛い。
高校生だから何なのだ。
蝉がもうけたたましく鳴いている。前住んでいた所はかなり北の方だったものだから、これだけ五月蝿いのは新鮮だった。もうちょっと落ち着かないものか、と林檎はぼやく。
…新学期まではあと2週間くらいあるのか。
学校側は、転校したての林檎に夏期休暇課題をさせるつもりはないみたいで、休み明けまでは完全にフリーだった。物分かりの良い教師で助かった。
俺はそんな無駄にカロリー消費をするものごめんだ!
初めての引っ越しだが、友人との別れ際は思ったよりあっさりしていた。携帯電話の番号交換はしているし、「2度と会えないかも!!悲しい!!」なんてことはなく、「あ、引っ越しちゃうんだ。またね」みたいな、まるでクラスで飼ってたメダカが死んだ時みたいな軽い感じだった。泣くような慈悲深い奴はもちろんいない。
欠伸、自分の部屋に戻り、重さでミシミシいっている椅子にもたれかかる。
当時は勿論悲しくなった。しかしよく考えれば別に自分もあいつらに思い入れなどなかったので気にするだけ無駄だと思った。
それにしても暇だ。この2週間何をすれば良いと言うんだ。勉強か。勉強なのか…。
うぐー、と呻き声を上げて林檎は床に寝転んだ。見上げた逆さのカレンダーは、まだ真っ白だった。
暇を持て余した少年は家の周りの地図を作ろうと唐突に思い立った。
すっくと立ち上がりアニメのように拳を何もない空に掲げる。
あはは。すげえ虚しい。
親からは「家を出るなら19時迄には帰ってこい」と言われていたがそんなに遠出する気はない。報告の必要もないだろう。
ふとちくりと痛みを感じた。林檎は顔を歪めて自分の足首を見る。昔いつの間にか出来ていた切り傷が痛々しく靴下から顔を覗かせている。厄介なことにこれは絆創膏を貼ろうとしても直ぐに剥がれてしまうのだ。見ているとやけに苛立つので、林檎は乱暴に靴下を上に伸ばした。
外に出ると熱気が全身を包む。少し吐き気がした。
空気が汚いな、というのが彼のこの町の第一印象だった。田舎から都会に出てくるとこんな感じの印象がするとは思うが、まさかここまでとは。
林檎はウォークマンで好きなバンドのデビュー作を聴きながら、スケッチブックとペンを片手に一歩を踏み出した。
その頃町では軽く事件が起こっていて、外には出ない方がいいと言われていたのだが、そんなものは知る由もない話だった。
人気がなく、周りに木しかない何の面白みもない路地を抜けると、辺りの空気が一変し、目の前に商店街があった。賑やかで楽しい所だが、これがなかなか人が多くて近所の友達が鴨くらいしかいないレベルの田舎から来た林檎は落ち着かない。
メモやデッサンをしながらしばらくは音楽を聴いていたが、何か自分がそこで買い物をしている主婦達に見られていることに気がついた。
主婦はチラチラとこちらを見ながら話している。
不審に思ってしれっとした顔でイヤホンを外す。すると会話が聞こえてきた。
「あ、あの子高校生くらいじゃない。大丈夫かしら?」
「いやほら、弱くはなさそうだし…それにしても変よね。ただ単に暴力とかお金が目的なら女の子でもいい筈なのに、高校生の男ばっかり狙うなんて。」
「物騒よねぇ。夏休みだから良いけどうちの子家からあんまり出してないわ」
「まぁ…早く犯人捕まらないかしらね」
「だって全身黒、ってだけでそれ以外に何の情報もないんでしょ?年齢も性別も。それに何か奪ったわけでも脅したわけでも殴ったわけでもなく、ただ質問しただけ、っていうのが厄介じゃないの。犯罪にはならないんじゃ」
「いや、犯罪よきっと。脅迫か何かで訴えられるわよ多分。大丈夫大丈夫」
「そーやって余裕にしてると被害にあうのよ。今は外出ないのが安全だって」
こそこそ話というものが世界で何番目かに嫌いなので不愉快だったが、どうやら自分は心配(?)されているみたいだった。
そうか、歩いていても中高生が単独で居るのがなかなか見受けられなかったがそういうことなのか。
男子高校生を狙った…何だ、質問?どういうことだろう。そんなものに皆怯えているのか。まあ、俺には関係ないか。
興味深かったのでしばらく奥様方の話を聞いていたが、全然関係のない話になった様なので飽きた。
再びイヤホンでプレイリストを再生し、デッサンの続きをする。しかし絵心がお世辞にもあるとは言えないので悲しい出来になった。
…これだから夏は日が長いのが困る。
熱中していたようで、気づけば6時半になっていた。といっても最後の方はほぼ公園で猫と戯れていたので大したことはできていない。得たものといえば無駄なスケッチブックの消費くらいだ。
此れがあと2週間近く続くと思うと精神的にくるものがある。もっと面白い事を探すしかないか、と思った。
そうやってボケッと元の無人路地を歩いていると、足元に何かがぶつかった。コツンという感じではなく、ぶにゅっとしていた。
不審に思い下を見る。
踏んだ物がもぞりと動く。自分は生き物を踏んでるみたいだった。
人?
「うわぁぁぁぁあ!!何だこれなんだこれナンダコレ!!」
思わず普段出さない大声が出てしまった。誰か人に助けを求めようとしたがこのシチュエーションだと間違いなく踏んでいる自分が加害者だ。迂闊にポリ公など呼べたもんじゃない。
踏んだのは…やはり人みたいだっだ。おそるおそる足をどけてしゃがみこみ、その様子を確認する。
目の隈が凄い。息が安定している所をみると命の危険というよりは疲れて寝ているようだった。全身黒のジャージを着ていて、頭に着けた大きな赤いリボンがかなり目立つ。
顔は…正直言ってかなり綺麗だ。睫毛が長い。髪も肩まである。身長も低い。
女だろうか、と思った。
しかしそれだとさらにまずい。倒れている女にこの町で見慣れない男がついている…そして踏んだという事実…もちろん警察沙汰になりかねない。
…こんなときってどうするのが人間的に正解なんだろうか。
よし、逃げよう
林檎は人間的に最低の結論を導き出した。しかし保身の為ならなんだってする。クズ上等。回れ右をして家の方向とは反対を向いた。すると、
「待て」
と背後から男のようなハスキーボイスがした。信じたくない林檎は恐る恐る後ろを振り返る。
…嘘だろぉ…
「お前人踏んどいて無視はねーだろ。最近の高校生は教育もなってないのか」
起きちゃったよ…
読んでくださった方ありがとうございます!!!!
初めまして小桜躑躅コザクラツツジといいます。趣味を追求しようとして何処かで道を踏み外した学生です。
面白い話が読みたい!となって、長い間ぼーっと考えててました。小学校の頃から、何処かの二番煎じの様な話しか書けませんでした。これは私が絞り出せる現段階の全力です。原案は中1の頃から考えていました。これで何かに似てる、と言われるような事があればそれはもうァーって感じです。
あらすじの部分にも書きました通り、この作品は他サイトでちまちまと書くものを一気に放出する…といった形にさせて頂きます。
今はこんな感じですが、まだまだ林檎と愉快な仲間達の戦い(?)は続きます。結構要素盛り込んだんですよ。
この素人を暖かい目で見守ってくださると幸いです。
最後に、林檎くんは男です。