第八話
あの日から俺は部屋から一歩も外に出ていない…
正直、俺は誰とも会いたくなかったし…誰とも話したくなかった…普段は鳴らない電話が妙に鳴っていたが、気にせずに電話線を引き抜いた。俺の部屋からギターが無くなったのはいつ以来だろう…結局、俺がいなくてもあの子の未来は進んで行くだろう…そんな事を考えてると何もかも嫌になった。
こんな時期のバンドマンはヤバイ薬にでも溺れるのが定番だが、俺はそれが嫌だった…
俺の大好きなシド ヴィシャスは薬が原因で死んでるし、何より薬なんかに負けたくなかったからだ。
ここ最近は何も食べてないし、満足な眠りさえない…相変わらず何もする気がない。
その日はドアは激しく叩く音で浅い眠りから目を覚ました…
それでも俺はドアを開ける訳でもなく、ただ煙草に火をつけるだけだった。
ドアを叩く音はまったく鳴り止まない…それどころか激しさを増していった。
「……………………」
「……………………」
「……………………」
「……………………」
誰かが何かを叫んでいた…その声は真也の声だと気付いたが、今となってはどうでも良かった。
それでも真也は必死に叫び続けていた、俺はイライラしながらもドアの前に立った…
「俊一!いるんだろ!?
何も言わなくて良いから聞いてくれ!
あのバンドはまだ終わってない!終わらせちゃダメなんだよ!
あの子がライブハウスに来ない事には理由があったんだ!
あの子は毎日お前を探してるぞ…
俊一…ごめん…
俺のせいだよな…
俺の誤解だよ、勘違いだったよ…
あの子は俺が思ってたような女じゃなかったよ
…俺の事はどうでも良い…ただあの子には会ってやってくれよ…」
今更、何だよ…
あの日には戻れないし、俺のギターも帰ってこない、ドラマや映画じゃないんだ、そんなにうまく行く訳がない。
俺は行き先も決めずに外に飛び出した…久し振りに部屋の外に出た…
気が付けば俺はあの駅で、あの時間の、あの最終電車を眺めていた…