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番外編

あの子との出会いから、何度目かの夏を迎えた…あの最終電車には乗っていないし、見送る事もない。俺はあれからはバンドを一度も組まなかった…もちろん、恋もしていない(笑)最近じゃそろそろギターを辞める事を考え出している。

就職でもして平凡に生きて行く事も悪くないなって思う。

俺を殴った(笑)あの先輩もバンドを辞めて結婚…今じゃ立派な営業マンだ(笑)昔、あれだけ暴れてた人が「これからは家族の為に生きる!」なんて事を言うようになった…アナーキーじゃないよ(笑)

まあ、その影響も多少はあるけど、結婚式も出来ない様な先輩の結婚は手本には出来ない。



真也とは親友に戻った…俺は、もう二度と会うつもりはなかったが、あいつは俺がロン毛の馬鹿バンドマンに負けたと勘違いして、仕返しに向かった(笑)そして逆に「すいませんでした」って頭を下げられて、喧嘩にならなかったらしい(笑)

翌日に真也から久し振りの電話がきて、その話を聞かされた。相変わらず良い奴で、愛すべき男だ(笑)二人で馬鹿話をしている内に、お互いの溝は無くなって行き、時間が経つ事に俺達の関係は元に戻っていった…

何度かバンドにも誘われたが、そんな気にはなれなかった…週末になれば、あいつのライブを見に行く…それが今の俺の楽しみだ。



俺は今でも夜になれば、街に出てギターを弾いている、変わった事と言えばバイトを始めた事だ。最初は「なんとなく働く」それだけだったが、バイト仲間との交流も増え、他人の夢や希望、それぞれの生き方を知って行く上で、俺の考え方も少しずつ変わってきたんだと思う。



真也はバンド活動に真剣だったし、本気でプロを目指していたが、この頃になるとバンドの状況も少しずつ変わり始めた…一年程、活動してきたバンドも解散の時期を迎えようとしていた、他のメンバーは就職に向けて動きだした…「音楽じゃ生きて行けない」これが一番の理由だった。

それぞれが、いつまでも夢を追いかけて行く訳ではない…現実を受け止めて、それぞれがバンドから「卒業」して行くのだろう…そしてバンドは解散した。ただ真也だけは少年のように「夢」を「音楽」を諦めてはいなかった。


真也はメンバー探しを続けていたが、余り期待は出来ないようだった…

俺達、二人でバンド結成の話もでたが、今の俺にはパンクを演る気にはなれなかった…俺は真也に東京に行く事を進めた…

東京には高校時代、一緒にバンドをやっていた、俺の友達がいたし、実際に俺も誘われたりしていたからだ。

真也は東京に行く事に迷いはなかったが、当然、俺も誘われた…

ただ俺はもうバンドとして活動する気はなかった…夜の街で、たまにギターを弾く…それだけで満足をしていた。

そんな時、あの先輩から電話がきた。

「俺達の結婚式はまだまだ先の話だけど、とりあえず、あのライブハウスを借り切って、俺達だけで集まろうぜ!

音楽を辞めて行く奴も増えたし、最後に伝説になるようなライブをやろうぜ!その時はお前達も一曲やれよ!来週だからな!」

…何が伝説だよ(笑)相変わらず、勝手な先輩だ…


翌日、真也に会って俺は言った…「真也…俺は東京には行かない…悪いな…でも最後に、あのライブハウスで一曲、演らないか!?来週、ライブがあるんだよ…」



「俺はもう何も言えないよ…お前は自分の選んだ道を行けよ!

俊一…来週な!(笑)」



俺と真也は最後にバンドを組む事にした…一夜だけのバンドを。


俺達はバンドのメンバーを集める事はなかった…もちろん練習もしなかった。

俺と真也…残りの二人は先輩とライブハウスのマスターに押し付けると決めていたからだ。ライブまで、真也と俺はあえて会わなかった…

俺達は最後のライブに向けて、それぞれの日々を送っていた…当日に久し振りに真也と顔を合わせた…先輩とマスターをステージ裏側に呼んで一夜限りのバンドを無理矢理結成した。バンド名は「オーバードーズ」…


どの曲を演るのかは、直ぐに決まった。何故なら四人共、声を合わせて言った…「直ぐに出来る曲ならピストルズだろ!?」


選曲は、シド ヴィシャスのマイウェイに決まった、四人で大笑いした(笑)

ステージにはマスターが先に上がり、ドラムで客を盛り上げていた…次に先輩がステージに上がりギターを弾き始めると、客はこの意外な組み合わせに驚きを隠せなかった!最後に俺と真也がステージに上がると大歓声に変わった。自分で言うのも何だが、俺達は地元では有名なパンクスだったからだ(笑)


ステージの照明が一度落とされ、俺達の最後のライブが始まった…


演奏中に客席にいた友達が俺に呼び掛けて来たが周りの雑音に流されていた…それよりも俺は最後のライブに集中していた。


このマイウェイを演奏している最中に、色々と考えた…先輩もこのライブを最後にギターを弾く事は無くなるだろう…真也とも最後のライブになるだろう…

真也も俺も、別々の道を歩いて行く…



俺はこの小さなライブハウスのライトを浴びながら歌った…

横には真也のベースと先輩のギター…後ろにはマスターのドラム…

このマイウェイが終わる時に俺の中で一つの時代が終わるのを感じていた…このマイウェイをいつまでも演っていたかった…この曲の詞のように「自分らしく」生きて行きたい…先輩のギターを最後に曲が終わった。大きな拍手の中で真也と俺は泣いていた。

主役の筈の先輩からは逆に励まされた…「お前達もがんばれよ!真也…絶対に夢を諦めるなよ!俺達がつかめなかった夢を!俊一…夢を諦めて普通に生きる事は恥じゃない、早く結婚でもしろよ(笑)」

マスターも「年寄りにあんまり無理させるなよ(笑)またな!」って照れ臭そうに言ってくれた。


ステージではアンコールの声が上がっていたが俺と真也は一足先にライブハウスを出た…この日は一曲だけと決めていたからだ。

これじゃ俺達が伝説になりそうだ(笑)



俺達は駅に向かって歩き出した…真也はこのまま電車で東京に向かう、それぞれの未来をお互いに考えて歩いた。


ホームに入り、電車を待つ間も無言だった…時間だけが過ぎていったが、俺達に会話は必要なかった…ただ俺は、このままこの場所にいたら泣き出してしまいそうだった…何も言わずに立ち去ろうとした。



最後に真也が俺に向かって言った…

「俊一…お前、気が付いてた!?…亜矢ちゃん…ライブ観に来てたよ…」


「(笑)知ってたよ…」















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