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とある使用人の復讐譚  作者: 黒井黒
第一章 使用人生活
1/8

プロローグ 『始まりの夢』


………………。




………………………。




………………………………。







…………声が聞こえない。





…………何も見えない。






……………………。







……………………………痛い



……………………………痛い痛い



……………………………痛い痛い痛い



……痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い


皮膚が焼かれるような熱、無惨に散っていく人々、抉られる肉、舞う血飛沫………倒れる両親。


その光景が僕の目に焼き付いて離れない。


身体に刻まれた傷が僕に忘れるなと語りかけてくる。


………憎い



………憎い憎い憎い



……憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い


この『憎悪』は『復讐』を果たせと、僕に囁いている。



………。



…………………。



………………………………。



気がついてみると、そこはただただ無視無音の世界があった。


どうやら、自分は意識だけしかないらしい。身体から意識だけが飛び出した感じだ。眼や耳、口や鼻、手や脚といった身体で重要な器官の動きを感じられない。まるで存在していないみたいだ。


意識内での世界は辺りが暗いのか、そもそも眼なんてついていないのか、真っ暗な世界だ。だけど、有難いことに状況理解が出来るほどの意識や知能は残っているらしい。それが今の自分にとっては唯一救いだった。



……意識が覚醒して何分、いや何時間くらい経っただろうか。静寂と闇に包まれた世界には未だに希望となる光は訪れてはいなかった。勿論時間を確認出来るものなんてない、だから時間感覚も麻痺し、数秒が何十分にも感じられる。

実際は、この不可解な現象が起こってから数分の時しか流れてないのだろう。


意識しかない今の状況では、この時間は余りにも退屈で怠惰で………恐怖でしかない。


だが、ここで突然新たな感覚に目覚めた。確実に確かな感覚だ。


ーー四肢の感覚が戻っている。


視界や聴覚こそ戻ってはいないが、確かに腕の動きや足の関節が軋む様な動きを感じ取れた。いつもは大して気にせず、無茶をさせている身体に改めて感謝する。


いきなり感覚が戻った事で出来ることも増えた。この現状を打破する為には行動を起こさなければならない。


周りを確認できない恐怖が強く鉄の鎖の様に縛り付いた身体を、ゆっくりと……ゆっくりと……慎重に慌てずに神経を研ぎ澄まし……動かす。今の自分を他の人が見たら、ブリキの玩具の様に見えてるだろう。

そして、恐怖を押し退け、その重い一歩を踏み出すと思わず歓喜に心が悶えた。


勇気を振り絞って踏み出したお陰である程度、恐怖が和らぎ、緊張で固くなっていた身体がほぐれ、思わず腰が抜けそうになる。だけど何とか堪え、感覚がある腕を動かして、掌で自分の胴体、頭と思われる箇所を触る。

柔らかく凹凸のある触感があるという事は、胴も頭も無事にあるようだ。


その一方で、本来人間には備わっているはずの温もりという身体の熱は感じられなかった。


触覚はあっても、熱はまだ感知出来ないのかとも思ったが、今それを確かめられる術は無い。


だがこれで、自分の身体と人間の五感機能である『触覚』は取り戻した。


その他に、掌の感触から鼻や耳といった五感に関係のある部位があるということも分かっている。自然と『触覚』を取り戻した………つまり時間経過で他の機能も取り戻せる可能性が高い。


そして、数分……立ち尽くす。


待って………。



待って………………。



待ち尽くす…………………。



だけど、幾ら待ったところで状況に変化は無い。


時間感覚が麻痺している自分にとっては地獄に等しい。暗闇の中、数十分でも過ごしたものなら、恐怖に今にでも発狂しそうだ。とにかくそうならないように、他のことを考えるしかない。



しばらく直立したまま機能させていない脚は、不思議と疲れを感じない。

腕も、胴も、首も同様に感覚は確かにあるものの、自然と疲労という感情は湧いてこない。

それでも、現在進行形ですり減っていっている自分自身の精神は、疲れの限界を超えて悲鳴をあげそうになる。悲鳴をあげれたら逆に、気持ちが紛れるかもしれないが声は出せない。


自分のフラストレーションは限界に近い。



だがーーここで諦めるわけにもいかない。


とはいっても特に行動ができる訳では無い。自分に出来るのは諦めずに気持ちを切らさない事だ。





その願いが届いたのか、ようやく『味覚』『聴覚』『嗅覚』の機能が戻りつつあった。


神に感謝するしかない。


少し汚いが、自分の指を口に咥える。


舌の感触がある、味は分からないが確かに舌のザラザラとした感触を感じられる。つまりは舌はちゃんと機能している。


臭いはあまり感じられないが、さっきまでしていなかった鼻呼吸をしているということは機能しているのだろう。


回復した耳からはチリチリと炎が弾けるような音が聞こえてくる。この時から皮膚が焼けるような熱風が肌を刺激する。だけど、不思議と懐かしい感じがする。


視覚は未だに回復してはいないが、僕はようやく理解した。


これは『あの時』の夢なのだと………。


僕の思考が完全にまとまり、状況を理解した時。


闇に閉ざされていた視界が開けた。



……………………。




僕は一度見た光景にも関わらず絶句する。


真っ先に視界に飛び込んできたのは『赤』。


街を全て飲み込もうとする灼熱の龍の如き炎。


人々が逃げ惑い、それを無慈悲に殺す。


そして、飛び散る血飛沫。人ひとりが持っている尊い命が、象が蟻を潰すかの如く消えていく。まさに阿鼻叫喚と言う言葉を体現している。

それを目にしているだけで吐き気がする。胃酸が上がってくる感じが自分の不快感を増幅させている。

僕は立っていられず、堪らずその場にへたり込む。口を抑えながら、吐き気を必死にこらえながら、眼下に広がる惨い光景を見逃さない。見逃しちゃいけない。見逃せる訳が無い。


その悲惨な状況が続き、ついにその瞬間が来た。


目の前にいるのは、自分の両親と………『僕』


『僕』は立ち尽くしている。向かい側にいるのは、漆黒のローブと同色の騎士服を纏っている人達。顔はフードを深く被っているため分からない。

そいつらに膝まづかされている両親の首筋には、銀色の鋼に紅の血液がキラキラと輝いている(つるぎ)


今起きている出来事を客観的に見ている程の屈辱は無い。

僕は込み上げてくる吐き気を振り切って走り出す。今見ているものが『憎悪』が見せる夢幻だとしても、黙って見ている訳にはいかない!


走って………走って………走って………走り続けた。


だけど、その距離は一向に縮まらない。それどころか、遠ざかっているような気になる。


そして、僕は疲れ果てて手を膝につく。呼吸が乱れて、過呼吸の様に必死に酸素を取り込む。視界はくらみ、額からは汗が吹き出し、心臓がまるで耳元にでもあるかのように大きな音を立てている。


僕が力尽きる瞬間を見計らったように、背景の炎は更に燃え上がり、剣が………。



やめろォォォォッ!



どうやら声を出すことは許されてなかったらしい。声にならない絶叫をあげて世界は暗転した。




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