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〜銀木犀〜

小牧です。今回は少し長編のお話に挑戦させていただきます。最初から長めですが、是非読んでいって下さい。



桜の葉が途切れ途切れ散るのに。


まだ庭には鮮やかに匂い立つ花が咲く。



地面に紅く散った百日紅さるすべり


開き始めたコスモス



そして。


季節の訪れる気配が濃くなる。






『銀木犀』










「ただいまー。」



普段は誰もいない家。



「お帰り〜。」



その家の奥から聞こえてくる声。

それを聞いて、2階へ駆け上がった。



せいさんっ。」


「お帰りなさい。」


肩越しに振り返り、靖さんはこちらを見てにっこり笑った。


「いつ来たの?」


「うーんと、お昼頃かなぁ。あ、鍵はいつもの所から拝借しました。」


「やっぱり? 鉢植えが動いてたから、だれかなーって。」



「残念、僕でした。」



と、おどけてみせる靖さん。

普段から茶目っ気のある人だから、こんなのも当たり前の光景。



「ふふ、何それ。それより、靖さんご飯は?」


「え、……」


途端に真顔に戻った。

そして、腕組みをして考え込んでいる。

ってことは……。


「また、食べ忘れたの?」


「はい……。」



やっぱり。


「 仕方無いなぁ。」


半ば呆れ顔で笑う。

お昼頃に来たって時点で何となく分かってはいたけど。

それに、靖さんがご飯を食べ忘れるなんて、そう珍しいことじゃない。2日間水だけで生活して、我が家の前で倒れていたこともある。近所のおばあちゃんが顔見知りじゃなかったら、変質者だと思われてた所だ。




「じゃあ、何か作ろっか?私じゃ凝ったものは出来ないけど。」


「ありがとうございます……。」


「別に良いよ。また家の前で倒れられる位なら、作った方が良いもん。」


「あっ、うっ……すいません……。」



みっともない程うろたえるわ慌てるわ、悪戯の見つかった子供の様。


立派な成人男子に

「可愛い」なんて言ったら悪いだろうか。

でも、やっぱり。



「靖さん……可愛い…。」


「なっ……。」


あっ、赤くなった。


そう思ったら、靖さんはふいっと顔を背けて黙りこくってしまった。





「あ……ごめん、怒った?」

「…………。」



どうやら本格的に怒らせてしまった様で、しばし重い沈黙が流れた。



「……靖さん?」



先に沈黙に耐え切れなくなったのは私で、恐る恐る声を掛けた。


でも、返事は無く、顔が背けられた所為で表情は全く読み取れない。



拗ねているだろうか。怒っているだろうか。



嫌われてしまっただろうか。



なんでだろう。


こわい。


何が?


分からない。でも。



「……ごめんなさい。気に障ったんなら謝るから。」

だから、



「嫌わないで……?」




お願い。






「……っ。」



靖さんの肩が小刻みに揺れたのに気付いて、ふと顔を上げようとした時、






ぽんっ。




頭の上に大きな手の平が載せられた。

そのままわしわしっと撫でられる。


「えっ、え?」


されるがままで訳も分からずにいると。


「ごめん。可愛かったから、ちょっとからかった。」



いつもと変わらない笑顔で微笑う靖さんがいた。



「もう。」



言いながらも、ほっとした私を見て。

なのに靖さんはぎょっとした顔をしていて。


どうしたんだろう。


そう思った時。頬に温い《ぬるい》感触が伝った。




歌奈かな……?」


不安げに見つめる視線。


「あ、あれ?……どうしちゃったんだろう?」


慌てて手の平で拭おうとしたけれど、何度留まることを知らずに込み上げてくる。


「や、やだ。ごめんね?」



「歌奈。」


どうして。



「もう、馬鹿みたい。この年にもなって。」



「歌奈。」


厭だ。



知りたくない。


聴きたくない。



何も


何も見たくない。




「本当、子供みたい。一体なにやって……」



怖い。

恐い。

こわい。


こわいこわいこわい‥‥…………………




「歌奈!!」



強く呼ばれた声にはっとすると、その途端、視界は靖さんの胸に塞がれた。





「……ごめん。俺、からかい過ぎたね。」


「……え?」


「……酷いこと言っただろ?歌奈にとって。」


ちゃんと分かってるつもりだったけど、

そう付け足した靖さんだったけど。



何が?



「……違……違うよ?」



そんなんじゃ無いのに。靖さん、何もしてないのに。涙で声がくぐもる。


「私が……かっ……勝手……にっ……」


「言わないで。」



震えて上手く出ない声を、それでもなんとか絞り出すと、靖さんの腕の力がより強くなる。



「ごめん。」



どうして?



どうして謝るの?




湧いた疑問を尋ねたいのに。


「……っ…うっ……ふ……。」

口から漏れるのは掠れた嗚咽。



「……何も言わないで。」


手の平が柔らかく髪をなぜる。


その優しい仕草に、私は自然と靖さんのシャツに顔を埋めた《うずめた》。



幾分か、呼吸も落ち着いて、私はそっと靖さんの胸を押した。


「歌奈……?」


不思議そうに私を見つめる靖さん。


「ごめんなさい。もう大丈夫だから。」



顔を上げて微笑って《わらって》みせる。



「…………そうなの?」



問われた言葉に、ゆっくりと頷く。



靖さんは暫く俯いていた。腕から離れようと、胸に置いた両手を下ろした時。



「……でも。」



靖さんの片腕は、私の肩を勢い良く引き寄せた。













『俺は無理。』













いつか、解る《わかる》だろうか。






今は拒んでしまっても。










いつか。










鈍く光る闇の奥も










計れない程の過去きのうの記憶も












温もりに縋る己の醜さも












それすらも超える













明日への










あなたへの















この、















甘い痛みも。

一話目、いかがだったでしょうか。作中の彼等は、まだ謎が多いですが、これから徐々に明かしていこうと思います。また、時折短編もUpしますので、そちらもよろしくお願いします。 まずは一話、お読み頂きありがとうございます。

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