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短編・ショートショート

攻略本

作者: 2F

 ある日私はノートを拾った。表紙には「攻略本」と書かれている。どうせゲームか何かだろう。私が何気なく表紙をめくると、そこには「宝くじ」と書かれていて、組と番号が記されていた。

 なんだ、バカバカしい。大方、これが必勝法だと自信満々に編み出した方法なのだろうが、こんなことで当たるなら誰も苦労はしない。それに、道端に落ちているぐらいなのだから、うまくいかなかったのだろう。そう思った私は、なかなか笑えそうな理論が書かれているであろうノートを持って帰ることにした。


 数日後、新聞の宝くじ欄を見て、一等の数字に妙な違和感を覚えた。

 この数字の配列は見たことがある。私はノートをひっぱり出し、数字を照らし合わせてみた。

 数字はひとつの狂いもなく、ピタリと一致した。


 以来、私は真剣にこの「攻略本」を読み直した。次のページには「競馬」と書かれていて、一着から順に着順が記されていた。調べてみると、すぐに該当するレースが見つかった。競馬に詳しくはないが、新聞にかかれている予想には、「攻略本」の上位に書かれている馬のことなど一言も触れられていない。もし「攻略本」のとおりにくるのなら、万馬券も夢ではないだろう。私は少し馬券を買ってみることにした。

 レースは、本命の馬が一着になった。そうそううまくいくはずがないか。私は苦笑したが、その後、一着の馬が後ろの馬の進路を妨害したといって十二着に降着すると、なんと「攻略本」の順位と一緒になった。馬券は十万馬券になった。


 もう、その頃には、「攻略本」に対して全幅の信頼を寄せるようになっていた。「競艇」に「競輪」、はたまた「ロト」……。いずれも、全て書かれている通りになった。日付や場所が書かれていないため、調べきれずにチャンスを逃すこともあったが、周囲の人間に聞くことはできない。少しでも怪しい言動は慎むべきだからだ。

 それでも、私の資産は加速度的に増えていった。


 気がつくと、私はすっかり年を取り、余命いくばくもない体となっていた。

 最高の医療スタッフと最新の医療設備で延命治療を行われているが、いかに頑張ったところで、時間には勝てない。

 「攻略本」のいうとおりにやって、たしかに大金持ちになった。人が羨むような、使い切れないほどの金を手に入れた。

 しかし、これは己の才覚とは関係ない金だ。いや、もっとはっきり言ってしまえば、「攻略本」が稼いだ金だ。私の力ではない。

 私は何度も「攻略本」を捨てようとした。しかし、捨てられなかった。「攻略本」という存在は、いつのまにか私個人の心をがっちりと支配していたのだ。

 大した苦労もなく、大した挫折もせず、年齢的には長生きしたが、体感としては、「死」というゴールにあっという間についてしまった印象だ。まったく、人生に「攻略本」など使うものではない。

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