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第8話

6月中旬、梅雨の時期。

毎年この時期になると私は体調を崩す。


頭痛と妙な吐き気がちょっとこの間まで健康だった私の身体をじわじわと侵してくる。


「ね、体調大丈夫なの?」


休み時間に机に伏している私に、美波は心配そうに声を掛ける。


「ばーか、無理に起こすなよ楢原」


北田くんも近くにいるみたい。机をトントン、と指で叩かれ、振動が頭に何倍にもなって届く。


「ゔぅ…」


思わず唸り声をあげると、美波が北田くんに「やめなさいよ、痛がってる」と一言怪訝そうな声色で注意する。


「ごめんごめん…。でもそんなに具合が悪いなら早く保健室に…」


行きたくない。と言わんばかりに私は首を左右にゆっくりと振る。


「嫌なのか…。まあ無理すんなよ?でも次、現代文だぜ?」


現代文といえば、あの学年主任の先生の授業。

寝てればすぐに叩き起されるのは間違いない。


ゆっくりと身体を起こして外を見る。

大粒の雨が次々と灰色の空から降ってくる。


まるで、泣いてるみたい。

すぐにチャイムが鳴り、先生が教室へとやってくる。


普段通り授業が始まり、1分1秒と授業は進む。


30分が過ぎたあたりで、私の頭痛はその日最高潮の酷さを叩き出していた。


「~じゃあ次、水元さん、教科書32ページの6行目から、読んで。」


最悪、最悪、意識を保つのがやっとで、本当なら叫びだしそうなくらい痛いのに。


ゆっくり、倒れないように下を向いて立ち上がり、教科書を開いて声をだそうとする。


「ちゃんと教科書持って、顔上げて」


先生に注意され、私はその一瞬だけ反射的に頭痛の事なんて忘れて、重い頭と身体を支えていた両腕を机から放し、教科書を手に取る……。


顔を上げて黒板の方を見た時、再び先ほどの激しい頭痛が私を襲った。


ぐわん、と身体が斜め前に倒れる。

世界がスローモーションで、周りの声もスローモーション。


次に気が付くと目の前は机だった。

やばい、顔、打つ。


それだけは嫌だな。

体重を右にやって、机は回避、と思ったけど次は床、どう考えても床で顔を打つ方が絶対痛い。


先に膝が床に思い切り衝突する。

その後顔、頬を思い切り床にぶつける。痛い。


どさり、と重たい音がした。私が床に落ちる音。


「悠那ちゃん!」


美波が私を呼ぶ声がすぐ近くでする。

少し遠くでは先生が北田くんに何か声をかけていた。

ほかのクラスメイトの何人かが、授業徘徊していた誰かを連れてきたみたいだった。


目を開けることすら出来なかった私は、その誰かにゆっくり抱き抱えられた。


ふわりと香る香水の匂い。

誰だっけ?この匂い、知ってる。


抱き抱えられた私はきっとぐったりしていただろう。手にも脚にもどこにも力が入らなくって、まるで人形みたいだったと思う。


しばらく抱き抱えられていると、保健室に連れてこられた。


「えっ…?!坂崎先生…?と…あの…」

「うちのクラスの水元悠那です。授業中倒れたみたいで。」


やっぱり、先生だった。

他に私のこと抱えられる先生も、この匂いの香水つけてるのだって先生しかいないもんね。


「すぐベットに…、薬は…」

「しばらく寝かせておけば大丈夫でしょう。心配なので念の為次の授業までは休ませてください」


そういうと、ゆっくりとベットに下ろされた。


「起きてる?水元さん。いいか?よく聞いとけよ?体調が悪い時は保健室にちゃんと行け。いいな?今日は俺が偶然通りかかったから良かったものの…。はぁ…。」


と、寝かしつけた私のすぐ横に座って話し始めた。


「……わかりました」


ゆっくり目を開けて呟くと先生は驚いたように目を開けてこっちを見る。


「ほんとに起きてたのかよ…。恥ずかしいな。」

「はは…、先生の声で起きたんですよ」


すまんな、と先生が一言言うと、「じゃあ俺行くから」と立ち上がって保健室を出ていってしまった。


寝返りをうとうとすると、腰回りに何かが巻き付いていた。

布団をめくってみると、腰に坂崎先生の白衣が巻かれていた。


「何のため…?あっ…」


もしかして、お姫様だっこした時に…?

白衣を解いて畳んで先生が座っていた椅子に置いておく。


と思ったけれど、一人でこの無機質な寂しい部屋で寝るのは嫌だなと思い、綺麗に畳んだ白衣を手に取って、顔に押し付ける。


すぅ、と息を吸うと、先生の匂いが身体に染みる。

この匂いを嗅いでいると先程まであった頭痛が消えていく。


「……先生」


ぼふ、とベットに倒れ込み、私はそのまま目を閉じた。

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