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第1話
「先生、好きです」
静かな夏休みの理科準備室、明日の高校の体験授業の準備で忙しい先生。
ガシャン、と手に持っていた300mlのビーカーを床に落とす。落とし方が悪かったのか、割れてしまった。
「…大人をからかうんじゃないよ」
先生は屈んで1つずつガラスの破片を拾う。危ないよ、と近くの掃除用具箱から箒と塵取りを渡す。
ありがとう、と小さく先生は呟いて受け取る。けれど、一切顔を上げて私の表情を見ることはなかった。
先生、先生と声を掛けても先生がその日私の方を見ることは無かった。
高校三年生の夏の話だった。
割れたビーカーの破片が、夏の眩しい太陽の光を飲み込んでキラキラと眩しく光る。