5 花
朝靄がようやく晴れ始めた早朝。
もう何日もこの場所に通っていた小鳥は、日が差し始めるのを待っていた。
『――― 今日が限度だ』
昨日、青風はそう告げた。
…… 優しいコだ。
小鳥の我が儘に、ぎりぎりまで付き合ったくれた。本当は、そんな義理などなかったはずなのに。
だから、その優しさに報いるためにも。
(お願い、今日こそは………)
いつになるか分からない、どうにもならない自然のこと。
ただ祈るしかない彼女は、陽のあたり始めたその場所で、ひたすらにその枝先を見つめた。
* * * * *
―――― 貴女に、幸せを。
―――― たくさんの幸せを、どうか貴女に………、
「これでいいのか?」
「うん」
満開に咲き誇ったしなやかな木。
その枝からひらりと舞い下りた青風から、手の中のものを受け取った。
瑞々しいばかりの咲き立ちの花々 ―――あの日、彼女が褒めてくれた木の花を。
たっぷりとした量の花を丁寧に束ね、大きな毬状に整える。最期に、この日の為にと用意した真白い飾紐を結んだ小鳥は、満足の笑みを浮かべた。
朝露を纏う純白の花は、陽光の下でこの上なく美しく咲いている。
風の高位精霊である青風が摘み取ったのだ。きっとかなりの間枯れることはない。あの小精霊がくれた花でも、半年以上咲き続けたのだから。
「…… 真白い花か。主の華燭の典の祝いに、これ以上のものはないだろう」
小鳥から花束を受け取った青風も、心底安堵したように全身で息を吐く。
可笑しくなって、小鳥は笑った。
「これが咲かなかったら、大遅刻の上に手ぶらになっちゃうところだったもんね。良かったねー!」
「誰のせいだと思っとるんだ、お前は」
「うん、あたしのせいだよ。ありがとう、青風」
「………」
礼を言うと、憮然としたまま顔を耳まで赤くした青風はそっぽを向いた。
それがまた可笑しくなって笑う。
彼女を見ないまま、青風はぼそりと聞いてきた。
「何か、伝えるか?」
そろそろ行かなければならないのだろう。
「そうだなぁ。じゃあね、」
ただ一つ、本当は自身の口で伝えたかった言葉を、少年に託す。
頷き了承してくれた精霊に、小鳥はもう一つ新しい願いを申し出た。
「青風、また遊びにきてね。絶対だよ」
またお菓子つくるから、と付け加えてみる。
(また、会いに来てくれるかな?)
内心どきどきしていた小鳥の笑顔をみて何を思ったのか、青風は何とも苦い表情で唸るように返してきた。
「…… 言っとくが、私は主のように8年も通ったりしないからなっ」
「へ?」
意味が分からず首を傾げた小鳥に対し、「何でもないっ」と慌てた口調で言い放った青風は、おざなりな別れの挨拶を残してさっさと旅立ってしまった。
…… なんだったのだろう?
でも、まあ。
「また来てくれるなら、いっか!」
えへへ、と笑った少女は、始めて出来た友人をにこやかに見送った。
―――― 貴女に、幸せを。
―――― たくさんの幸せを、どうか貴女に………、
「貴女に、花を」
ここは貴女が置いていった世界だけれど。
ここにも一人、貴女の幸せを願っている人間が確かにいるのだと。
どうか、貴女に届きますように…………。




